この記事は2022年7月19日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「ラグジュアリーホテルとは何か(後編)-国内の宿泊施設の資産価値とホテルグループの価値について」を一部編集し、転載したものです。

ラグジュアリーホテル
(画像=Andrii Yalanskyi/stock.adobe.com)

目次

  1. 格付けを持たないホテルの区分は
  2. 公式ページでもグレードは表記されないことも多く、表記される場合もグループ間比較は困難
  3. 格付けがない施設の資産価値評価の難しさと、ホテルグループの価値
  4. おわりに

格付けを持たないホテルの区分は

中編では、国内のホテル格付けと、ラグジュアリーホテルについて述べた(*1)。

しかし、日本のほとんどの宿泊施設は格付けを持たない。格付け以外のホテル区分には、「フルサービス型」と「宿泊特化型(リミテッド・サービス型)」を用いることができる。

フルサービス型のホテルとは、レストランや厨房部門のほか、会議や宴会施設なども併設するホテル、宿泊特化型のホテルとは、客室(宿泊部門)と簡単な食事ができるレストランなどに特化したホテルである。

国内では、宿泊特化型のホテルを中心に運営するホテルグループの規模が大きい。規模の経済が働くため、運営客室数でホテルグループの価値を評価することは、ある程度適当と思われる(図表1)。

ラグジュアリーホテル
(画像=ニッセイ基礎研究所)

*1:渡邊布味子『ラグジュアリーホテルとは何か(中編)-国内のホテル格付けとラグジュアリーホテルについて』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年07月13日)


公式ページでもグレードは表記されないことも多く、表記される場合もグループ間比較は困難

ただし、帝国ホテルが保有3施設のうちの2施設で2022年フォーブス・トラベルガイドの4つ星を獲得したように、すべてのホテルグループの価値を単なる規模で判断するのは適当ではない。

以前の見方であればフルサービス型ホテルが宿泊特化型ホテルよりも必ず上位(世界一般の基準でいえば3~4つ星相当)に位置づけられていた。しかし、客室グレードの高い宿泊特化型ホテルが新たに建設されるなか、バブル期に建設された豪華なフルサービス型ホテルであっても、改装などの適切な投資が行われず、経年劣化が進むものがあるなど、施設のグレードは多様化している。

また、グループ内のホテルをグレード付けしている場合も、各グループは独自の基準を用いている。

例えば東急ホテルズと三井ガーデンホテルズはそれぞれ3つの主要ブランドを持つ。いずれも最上級ブランドはラグジュアリー相当のホテルであるものの、それ以外のブランドは施設コンセプトに基づく区分でそれぞれ異なっている。

プリンスホテルズ&リゾーツ、東急ホテルズ、藤田観光グループなどはいずれもフォーブス・トラベルガイド2022の星を持つ施設を有しているが、公式ページにおいては「極上の」、「品格が漂う」、「プレミアムな」などで表現され、ラグジュアリーホテルとの記載はない(図表2)。

実際のところは、統一的客観的な基準がないため、一般的な消費者の視点からは、等級の線引きが難しい。多くの消費者は立地と宿泊料金はどうかで宿泊施設を選択する場合が多いと思われ、ラグジュアリーかどうかはイメージで判断しているのではないだろうか。

ラグジュアリーホテル
(画像=ニッセイ基礎研究所)

格付けがない施設の資産価値評価の難しさと、ホテルグループの価値

消費者の施設選択補助、資産価値の維持、ホスピタリティの向上、広告戦略など様々な点から、外国の基準でラグジュアリーホテルを評価する以外にも、日本独自の格付けがあったほうが好ましい。創設者にも、消費者に広く定着すれば広告効果やネーミングライツなどにより利益を生むと思われる。

しかし現実には、各ホテルグループは独自の基準でホテルのグレード分けをしており、様々なグレードが入り混じって表記されることも多い。また、国内の宿泊施設は大企業よりも中小企業が圧倒的に多く、ホテルグループに属さないホテルや旅館がほとんどだ。

ところで、不動産評価の観点からは、宿泊施設の資産価値の判断において、土地の価格以外に過去の業績収支を用いることが多い。このため、一時的に収支が悪化した場合、星を持たず、ホテルグループに属さない老舗宿泊施設の資産価値は低く評価されやすいと考える。

このように国内宿泊施設の客観的な格付け基準のない中、「一般的にブランド価値があると認識されているホテルグループ」の枠組みは重要である。もしかしたら国内資本よりも、格付け制度に親しんでいる外国資本のほうが、国内におけるホテルグループの価値に気づいているのではないだろうか(*2)。


*2:渡邊布味子『増える外国資本、長期投資の定着で優良不動産の取得はより困難に』(ニッセイ基礎研究所、ニッセイ年金ストラテジー、2022年04月05日)


おわりに

日本に客観的、全体的な宿泊施設の格付け制度があれば、宿泊施設が目指すべき指針となり、当該施設や類似施設の資産価値を高めるだろう。

現状、国内の格付けとしては、ホテルブランドが設定し、あるいは海外の格付け機関が付与した「ラグジュアリーホテル」のグレードが浸透している。日本ではラグジュアリーホテルが足りないと言われたが、今後、多数の海外ブランドのラグジュアリーホテルが建設される見込みである。

また、ラグジュアリー以外のグレードについても、多くの宿泊施設が自助努力により、ブランドや信用力を維持する努力を続けており、国内では実質的に、ホテルグループへのイメージがホテル格付けを代替している。

国内の有名ホテルグループのブランド価値は、実は思っている以上に実質的価値が高い可能性がある。こうしたホテルグループが海外のホテルグループと競合しつつ、国内外の消費者に、合理的な価格でより良いサービスを提供し、国内有力産業として大きく成長していくことを願いたい。


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渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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