本記事は、永谷武久氏の著書『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています

1着20万円のオーダーメイドスーツを買う理由

オーダーメイドスーツ
(画像=taka/PIXTA)

ここでは、「神ブランド」の先輩方から学ぶ「高くても、買う」理由を具体的な事例を踏まえて考えていきましょう。

高くても買う理由、それは、

【ヒーロー・ヒロイン欲求】
【予想外の満足】
【リピート欲求】
【共感欲求】

の4つに大きく分かれます。そのことをお伝えしましょう。

まず例に挙げるのは高級なオーダーメイドスーツです。グレーや紺の定番スーツは、正直にいえばかなり似たものが多くあります。安価なものなら1万円程度で買うことができ、20万円のスーツと比較すれば価格差は約20倍。それでも、高級なスーツはその価格にふさわしいポジションのビジネスマンが最高の仕事をするために着るものであり、たしかな手仕事とフィット感、上質感が着る人に自信を持たせてくれる「最高のユニフォーム」といえます。人知れず自分の格を上げてくれるオーダースーツが「ヴィクトリースーツ」となり、仕事を成功に導いてくれる可能性があります。自身のモチベーション向上は最も大事な要素です。

スーツを着ている時間は気持ちが引きしまり「自分のステイタス」を上げることができれば、ビジネスの場で、相手が誰であっても怖気づくことなく堂々とわたり合うことができるでしょう。1着20万円もするオーダーメイドスーツを買う動機には、その世界観のなかに自分を入れて、高価値な自分になるという体験願望が含まれているのです。これは、本を読んだり映画を観たりするとき、自分を主人公と重ねることを楽しむ「ヒーロー・ヒロイン欲求」と同じ原理だと私は考えます。

私はスーツではなく、高級和牛を売っていますが、若い頃は、「高級和牛なんて、年に1回食べるくらいのレアケースだろう」とよく言われていました。1着20万円のスーツを新社会人が買うようなもので、購買動機が限定的でかつ頻度も少ない。ビジネスチャンスの低い業界で自分はどうやっていけばいいのか、答えがわからなかったのです。

ですが、そのチャンスを最高に生かすためにはどうすればいいか、考え方を変え、顧客にとっての楽しみを追求していったところ、「これまで食べたことのない斬新なメニューで勝負しよう」「接客で最高の気分になってもらおう」「お客さまが輝いて見えるように照明を工夫しよう」というように、次々とアイデアがわいてきました。高級和牛が「ヒーロー・ヒロイン欲求」を満たすものと考え、主人公になる世界観をつくりあげていったのです。

すると、年に1回しか来店のなかったお客さまが、年に2回来店してくれるようになりました。もっと回数の増えた方もいます。

オーダーメイドスーツも同じです。「特別な自分」になっていただけるよう、幾重にも工夫を凝らし、演出することで、2着目、3着目を買ってくれるファンが生まれるはずです。

誰もが知る日本車の高級ブランドといえば、トヨタ自動車の「レクサス」です。海外の高級車と競える外観の美しさ、内装の質感の高さ、安全性、静寂性といったクオリティが高いのはもちろん、ファンの心を離さない理由は、レクサスオーナーのみに提供されるアフターケアのすばらしさだといわれています。

レクサスの店舗には、高級ホテルを思わせる「レクサスオーナーズラウンジ」が必ず設置されています。商談ブースとは別の場所に用意された特別なラウンジで、レクサスオーナー以外、当然のことながら入室は許されません。

ここで点検などのメンテナンス時にゆっくり時間を過ごせるほか、全国のレクサス店にも自由に出入り可能なので、カフェに行くような感覚でお茶を飲みに行くことができるのです。利用はもちろんすべて無料です。このラウンジを楽しみたいがために、全国のオーナーズラウンジ巡りをする人もいるそうです。

もう一つ、運転中にも特別なサービスを受けられるのがレクサスの特徴です。車の運転中に「レクサスオーナーズデスク」のボタンを押すと、オペレーターが応答し、目的地を伝えるだけでナビを自動設定してもらえるそうです。さらに近場のレストランやホテルを探して予約を入れてくれ、鉄道・飛行機の予約までしてくれます。このようなサービスはレクサスでしか体験できません。

自分に専属のコンシェルジュがついたような、移動するラグジュアリーホテルといっても過言ではないサービス。これがオーナーになればすべて受けられるところが、ほかの車にはない【予想外の満足】を生み出しています。

レクサスは高価格なことでも有名ですが、これだけの価値が詰まっている車はほかになく、自己満足の価値を総合的に見ればむしろ安い(お買い得)と思えるほど。レクサスはやはり憧れであり、憧れは未来への投資になります。

私の商品もレクサスの価値に負けていないと信じています。和牛も食のカテゴリでは値段が高い部類に入りますが、明日への活力としての投資、農業や生産者への投資につながっています。CSA(Community Supported Agriculture)といい、社会のしくみのなかで、農業者の苦労に投資してもらうことは必要なことです。それでも離農者は日々増え続けています。

購入後の満足感がケタ外れであれば、「予想外の満足」を与えてくれます。だからこそ、高くてもまた買いたくなる、「リピート欲求」をも満足させるのではないでしょうか。みなさんの商品も「レクサスのサービスに負けないもの」という視点を持っていただきたいのです。

高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術
永谷武久(ながたに・たけひさ)
創業125年「大吉商店株式会社」代表取締役(4代目社長)。1969年、京都府伏見区生まれ、23歳のときに3代目の父が急逝。経験ゼロのまま、「大吉商店」の4代目社長に就任。先代と比較され、苦悩するが、近江商人の経営哲学に基づき、前例のない改革を次々と成功させる。「肥育・枝肉卸・精肉・加工品・外食・通販」のキャッシュポイントを作ることで、「6次産業化」を実現。

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