本記事は、永谷武久氏の著書『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています
ストーリーを伝えなければブランドは衰退する
「ストーリーテラーを育てる」という顧客とともにつくる神ブランドの第六の原則についてお話しします。
値付けの高いものには理由があり、ブランドストーリーがあります。しかし、それを語る人がいなければ売れることはありません。「いいものさえつくれば、勝手に売れるだろう」という意識は、頭から追い出すべきです。
たとえば、和牛には格付けがあります。
近江牛のルーツは但馬産の黒毛和種ですが、子牛は但馬産のほかに現在では宮崎産などを育てていき、そのなかから一定以上の条件をクリアしたものだけが「近江牛」と呼ばれます。それだけでも貴重なため「高級ブランド牛」とされるわけですが、赤身と霜降りのバランスなどが基準になり、A5、A4、A3といったランクつけがつけられます。
なかでもA5ランクのB.M.S(牛脂肪交雑基準)12という最高評価を受けたものは、サシ(霜降り)の入り方が最高で、チャンピオン牛クラスの肉がこのランクに相当します。昔なら3万頭に1頭程度しか格付けされない大変貴重な肉でした。
さすがにここまでのランクになるとサシもたっぷりで、量はそれほど食べられませんが、その牛の希少部位ともなれば、「貴重×希少超々レア」な代物となります。
そんな話を聞けば、和牛ファンならずとも「どんなに高くても一度は食べてみたい」と思うのではないでしょうか。
ストーリーテリング(物語として語る手法)は、10年ほど前からアメリカでマーケティングに取り入れられるようになり、企業内に「ストーリーテラー」という役職ができるほど重要なポジションになっています。
また、スタンフォード大学の研究で、「時系列の事実や数字を並べるより、ストーリーがあることで最大22倍も人の記憶に残りやすい」という結果が出たそうです。
特に、作り手の強烈な主観とこだわりは、神ブランドの最大の価値です。その価値を物語のように伝えることで、人の気持ちをゆさぶり、大衆に向けて発信される宣伝コピーやコマーシャルの何倍も人を惹きつけるのです。
自社の価値を語れる人間を育てることができれば、あなたのビジネスを心から応援してくれる優良顧客を増やすことが可能になります。
だからといって、真実よりも誇張したことを話す必要はありません。ストーリーテラーのなかに醸成された真実をもとに、魂を込めて、この商品を手にすることで生まれる新しい楽しみやビジョン、商品価値について、じっくりと伝えればいいだけです。失敗談もオープンに伝えることで、かえって信頼や共感を得やすくなると思います。
この物語の中身こそが、これまでつくりあげてきた「本物」を「神ブランド」に押し上げてくれるはずです。まずは、あなた自身が商品の良き理解者となり、最初のストーリーテラーになっていただきたいと思います。
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