本記事は、永谷武久氏の著書『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています
「神ブランド」の本質 ── 「新・六方よし」
自らが牛を育て、生産から販売まで一元管理する「6次産業化」を「三方よし」に加えることで、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」「生産者よし」の「四方よし」となります。
江戸時代から明治時代にかけて、モノがあるところからモノがないところに商品を流通させ、まったく新しいビジネスモデルをつくった近江商人。その商法を基本とし、髙島屋、大丸、丸紅、伊藤忠商事、日本生命などが「三方よし」の経営理念を引き継いで、日本を代表する大企業となりました。
私たちはそれを土台に、また新しい未来を築かなければいけません。つまり、私たちの時代に近江商人の生き方を実践するには、何かが足りない、もっと工夫が必要だと感じたのです。事業を6次産業化して、生産から加工、販売まで行い、従来の経営に新たな価値を付け加えることにしました。大吉商店では「大吉牧場」をつくり、その隣に「近江牛牧場直営農家レストラン」をオープンしました。
これが私の「四方よし」です。
しかし、それでもまだ足りません。ここでさらに加えたいのが「伝統よし」です。再三、自分の土地にある伝統食、風土食がプレミアム商品のカギだとお話ししてきました。近江牛はまさに400年にわたって受け継がれてきた和牛最古の歴史と伝統があり、この大切なバトンを私も未来にわたさなければいけません。伝統文化をビジネスに組み込むのは当然といえば当然のことです。これで「五方よし」。
しかし、時代によって価値観やライフスタイルは変わります。この変化をキャッチしてイノベーションすることが重要です。「伝統をベースに革新を起こす」のです。私は、近江牛の持つポテンシャルを最大限に生かすため、アジアやヨーロッパの星付きレストランを訪ね、そこで食べた料理をヒントに、これまでの和食レストランの概念を覆す和牛メニューを開発しました。
また、もう一つの「五方よし」として伝えたいことは、これからの産業は地球環境にやさしいものづくりをしなければ、世の中で認められません。未来に向けて「世間よし」だけでなく、「世間・環境よし」「物語よし」であることが求められます。「大吉牧場」では、牛のたい肥を近隣の米農家さんの土壌づくりに役立ててもらっています。そこでおいしいお米がとれたあとに残る干しわらを、今度は牛の飼料としていただくのです。この循環型生産により、安心安全な環境で牛を飼育しています。
これで十分でしょうか? いえ、まだ足りません。もう一つ、大事なものがあるのです。それが商品の価格性「価格よし」です。細部までこだわった商品づくりのストーリー、本物の職人による技術のストーリー、たくさん売らない、ここでしか売らない限定感といったものは、大手には決してまねできません。その土地にしかない自然、水、空気、作り手の人間性といった「地場力」もそうでしょう。
そこにこそ「プレミアム性」の価値があります。最高の価格で売るということは、これからの未来へ続ける自分たちのエネルギーになります。
これで「六方よし」となりました。
いかがでしょうか。「売り手よし」「買い手よし」「世間・環境よし」「生産者よし」「伝統(物語)よし」「価格よし」これがすべてそろえば、まったく新しい価値、今までになかったマーケットを創出することができます。これこそが「神ブランド」であると私は考えます。
ここでは、「神ブランド」に通じる新しい経営理念を「新・六方よし」と名付けたいと思います。
もちろん、「新・六方よし」の概念が理解できても、会社によっては得意・不得意があるでしょう。「うちの会社の六角形はずいぶん歪だ」と感じたら、そこを戦略的に攻めて少しずつブラッシュアップしていき、きれいな六角形を目指してください。
目標に向かって進み続けていくと、あるとき自社商品が爆発的に売れるようになり、ファンに押し出されるように表の世界に躍り出てくる瞬間を私は体験しました。次にそれを体験するのは、あなたです。
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