本記事は、永谷武久氏の著書『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています

低価格で買う人にとって「贅沢は敵」か?

いいモノ
(画像=Al_K/PIXTA)

安い価格に敏感な人は、モノへのこだわりが低く、安ければ安いほど好むといった傾向があると仮定しましょう。

たとえば、高級ブランドバッグが5,000円で売られていたら、一般的には「これは偽物だからやめておこう」と考える人が多いのに対して、「見た目が良ければOK。もっと安く売っているところはないかな?」と思い、安さに納得するのがこの層の考え方です。先ほどの牛丼チェーン店などもいい例で、「自分はこのブランドの牛丼でないとダメ」とこだわりを持つ人は、むしろ少数派ではないでしょうか。

それが悪いわけではなく、同じ価格で似たような価値のモノが2つあれば、比較して、「自分にとって得なほう」を選ぶ論理、同価値であれば「もっと安いほう」を選ぶ論理があるのだと思います。

では、「高くていいモノを売りたい」私たちから見て、低価格でモノを買う人はターゲットではないのでしょうか。

答えは、「いいえ」です。興味を抱いてもらえれば、お客さまになる場合があります。特に女性はそうなる可能性が高いと思います。

私は京都の祇園で「和牛会席 ぎをん だいきち」というレストランを営んでいます。さまざまな工夫を凝らした和牛のコースメニューで、ランチのミニ会席でも最低6,000円。夜の近江プレミアムコースはお一人さま15,000円と、決して安くありません。

そこにたまに若い女性がいらっしゃるのです。たまたまお話を伺うことがあったのですが、そのグループ大学を卒業したばかりの新卒社員とのことでした。自分の収入でリッチを味わいにくる。女性は食に対して敏感ですし、高いお金を払っても贅沢な料理を味わいたい「ハレの日」というのがあるのだと実感しました。

たしかに回数は多くありません。でも、「自分のお客さまじゃない」ではないのです。「ハレの日」には誰もが贅沢をしたい。その想いを受け止めるのも、私たちの商売でとても大切なことです。

来店頻度の低いお客さまという意味では、観光客も同様です。京都は日本有数の観光地ですが、「京都は好きでも、1年に1度か2度しか訪れない」という方は大勢います。その方たちの名前を顧客名簿に載せ、来店されたときには常連客のように丁寧にもてなし、楽しんでいただくのが京都のビジネスの極意なのです。

コンビニがスーパーより割高だとわかっていても

私の住む滋賀県の高島市は滋賀県のなかでも高齢化が進み、コンビニ需要が高い土地です。

スーパーに行けばたしかに品物が豊富にそろっています。ところが、どの棚に何が置いてあるのか覚えるのが面倒で、「逆に買い物に時間がかかって不便」「うろうろするうちに不要なモノまで買ってしまう」と、割高であってもコンビニで必要最小限の買い物をする高齢者が増えているのです。

もちろんシニアばかりでなく、働く人もコンビニへの立ち寄りは「習慣化」されています。出勤時にはコーヒー、昼休みには昼食を調達し、帰宅時にも寄って、おつまみやアルコールを購入する。割高でも「ここなら欲しいモノがすぐに買える」という目的を達成できるから、日に何度も通います。

これは、ブランドにおける「高くても売れ続けるしくみ」でも、同じことがいえるのではないでしょうか。「習慣とは自動化された行動パターンである。自分にとってメリットがあると、ますますその行動をしやすくなる」と、アメリカ心理学会のAPA心理学大辞典に示されています。

たとえば、あるお客さまがA社の商品を気に入り、繰り返し購入するうちに、「A社の商品であれば安心だ」「高くてもA社の商品が買いたい」と思うようになり、A社でモノを買うことが習慣化されていく。一言でいえば、これが「高くても売れ続ける」しくみです。

人口が減少するなか、今はどの企業も、購入を一度で終わらせるのではなく、「顧客の行動をいかに習慣化させるか」が最重要テーマになっています。

では、どうやって習慣化に導けばいいのでしょう。

日本のビジネスの根幹にあるものはやはりコミュニケーションです。たとえば百貨店の催事で私たちが何をしているかというと、お客さまに恋をするのです。

大吉商店では新宿伊勢丹で月に1回、もしくは2カ月に1回、催事を行っています。もちろん事前に案内のDMやハガキをお送りしておきます。そして、一度でも買っていただいたお客さまのお顔とお名前を覚えておく必要があります。

恋愛ですから、相手に好かれようと思えば、相手がしてほしいことをする。売り場に着いた途端、「ああ、〇〇さま! 来てくださったんですね。ありがとうございます!」と名前を呼ばれ、心からの笑顔を向けられたら、人間、悪い気はしません。気持ちが引き寄せられ、お互いの距離もグッと近づきます。

そこで生まれる会話のなかで、お客さまの好みを知り、こちらのこだわりも知っていただく。最後は、商品、人、会社、3つのどれかに惚れてもらうしかありません。私は口下手ですが、それでも一生懸命アプローチすれば、必ず良さをわかっていただけます。コミュニケーションをとればとるほど関係が深まり、たいていの方が「次もまた来るわね」と言ってくださるのです。

今のところ、百貨店の催事は東京、名古屋、大阪、京都しか行っていませんが、それでも約2万人のお客さまがいらっしゃいます。そのすべてのお客さまの顔と名前を覚えることは一見大変なようですが、努力さえすれば、誰にでもできることだと思います。

高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術
永谷武久(ながたに・たけひさ)
創業125年「大吉商店株式会社」代表取締役(4代目社長)。1969年、京都府伏見区生まれ、23歳のときに3代目の父が急逝。経験ゼロのまま、「大吉商店」の4代目社長に就任。先代と比較され、苦悩するが、近江商人の経営哲学に基づき、前例のない改革を次々と成功させる。「肥育・枝肉卸・精肉・加工品・外食・通販」のキャッシュポイントを作ることで、「6次産業化」を実現。

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