本記事は、永谷武久氏の著書『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています

高級品を身につけると、人はどう変わる?

富裕層,見た目,お金
(画像=PIXTA)

神ブランドのつくり方についてお話ししていきます。

神ブランドとは、ここでは一流の発想、思考、技術によってつくりあげられたモノを指します。たとえばスーツなら、どんな生地を使い、どんな縫製をしているのか、何を目指しているのか。すべてを突き詰めた先に生まれるスーツだけが、神ブランドとなりうるのです。そして、それを身につけた人は、無意識にそのスーツに釣り合うよう立ち居ふるまいが変化します。

自分が身につけているものは、自分の心にも影響を与えます。良いスーツを着れば自然と背筋が伸び、いつもの寝間着になったら、意識せずとも体の力がすっと抜ける。でも、また高級な時計やバッグを身につければ、セレブになった気分でちょっとした仕草や言動もそれらしくなるでしょう。モノと自分がシンクロした経験は、日々あなたも体験しているのです。

一流ホテルや、有名なフレンチレストランに行ったときも同じです。昼間、背中を丸めてインスタントヌードルをすすった人が、リッチな空間、リッチな食事にふさわしい紳士・淑女に変身するのも神ブランドのなせる技。すなわち、今までと同様の感覚、やり方の延長上だけの〝積み上げ式発想〟では、「神ブランド」は生まれないのです。

では、なぜ神ブランドが支持されるのか。一言であらわせば「驚き」が存在するからです。

人が認識する価値には、次の4つの段階があると考えます。

【基本的価値】価格と見合っている製品やサービス。顧客にとっては当然とされる段階で、これが欠けていると、販売する意味がない。

【期待通りの価値】顧客が当たり前のこととして期待する製品やサービス。たとえば、飲食店に入れば、冷たい水やおしぼりが出てくるレベル。

【願望通りの価値】顧客が「ここまでしてもらえればうれしいが、難しいだろう」と思われる製品やサービス。これが提供されれば高く評価し、感謝する。満足度が上がり、リピート率向上が期待できる。

【予想外の価値】顧客が思ってもみなかった、予想外の驚きを与える製品やサービス。製品そのもの以外にも、接客の場の要素も含めて想像を超えると、強烈な特別感、大きな感動を与えられる。この感動が満足度を大きく押し上げ、リピート率、口コミ効果、顧客のロイヤルティを向上させる。

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(画像=『高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術』より)

私自身、この三角形のピラミッドの一番上、予想外の価値を常に目指すこと。そして、それが伝わる売り方や製造方法を考えることを大切にしています。顧客を驚かせ、感動をもたらすことは容易ではありません。しかし、それだけの価値を提供すれば、その体験自体が競合他社との大きな差別化になります。

エルメスが京都・祇園の町家で季節ごとのブティックをオープンしているのをご存知でしょうか。1837年の馬具工房としての創業以来、職人の美しい手仕事を守りつつ、ものづくりの精神を現在に受け継ぐエルメス。同様に、さまざまな伝統文化や価値を生み出すとともに革新を続ける古都・京都。両者のアイデンティティがシンクロする世界観は、エルメスの既存顧客にすら衝撃を与えています。

その後、スイスの高級時計ブランドであるウブロも京都の町家にブティックをオープンしました。ウブロののれんをくぐると、1階は侘び寂びを感じる和の空間にウブロのカラフルなポップアートの世界が広がり、2階は西陣織のソファがあるVIPルーム、奥には茶室もあるそうです。ウブロと京都の町家というギャップや違和感を「伝統と革新の融合」というストーリーに仕立て、東京のブティックとはまったくちがう世界観をつくったのです。その思惑をファンも受け入れ、劇場でオーケストラを楽しむようにその世界観に浸ります。つくづくすばらしい試みだと思います。

みなさんも、まず自社ブランドの世界観を映像として思い描いてみてください。それを言葉にしたらどうなるか、素材や味で表現したらどうなるか、顧客を驚かせるためにどんなシーンを用意したらいいか、可能性を広げてみるのです。エルメスとうちはちがう、など微塵も思う必要はありません。

私たちは顧客が想像しうる以上の努力をしないと、ものを売ることなどできません。ピラミッドの【願望通りの価値】は当たり前。それでも大変な努力が必要です。でも、そこからもう一歩の努力を足さないと、プレミアムリッチの市場では成功できないというのが私の持論です。目指す価値の本質こそが明確になれば、必ず日々の努力から「予想外の価値」を見出すことができるはずです。

「一点突破、全面展開」でブランドをつくる

私が経営する大吉商店のブランドの世界観は何かというと「豊かな自然から生まれ、世界が感動する風土食」です。ローカルブランドの強みは、その地域にしかない価値を提供できることだと、お伝えしました。ベースとなるのは自分が住んでいる土地の気候風土を反映させたもの。大吉商店なら、自然豊かな土地で大事に育てた近江牛や地元の熟成樽仕込み醤油、近江商人の「三方よし」の考え方などがそれに当たります。

しかし、風土食も昔と同じことをなぞっているだけでは、ただの「田舎の味」になってしまう。そうではなく「世界に通用する風土食」をつくりたいというのが私の目標です。この土地が与えてくれたもの、ご先祖さまが残してくれたものの力を信じながらも、時代に合うエレガントさを少しだけ加えて、海外の人たちにも「おいしい」と言ってもらえるものをつくろうと、努力の上にさらに努力を重ねていきました。

その一つの結果が、国際的な食・健・美のオリンピックといわれるモンドセレクションで最高金賞を7年連続受賞した「和風ローストビーフ」です。

それはわが家で1年に1度、クリスマスにしか食べられない父親の手づくりの味でした。近江牛を醤油、みりん、生姜のタレに一昼夜浸けて焼いた香ばしさと肉の旨み、それが口のなかでとろけていったのです。

田舎の風土食が世界にどれだけ通用するのか知りたくなって、2010年、初めてベルギーのモンドセレクションに出品したところ、ローストビーフが最高金賞、同時に近江牛100%のハンバーグステーキが銀賞を受賞。この一点突破がきっかけで、翌年から【予想外の価値】まで高められたと思う加工品を次々出品し、大吉ブランドを全面展開していきました。

現在、「和風ローストビーフ」の7年連続最高金賞を筆頭に、「近江牛味噌漬け」が6年連続最高金賞、「近江牛コンビーフ」「千本煮込み」「テール煮込み」がそれぞれ3年連続金賞、「近江牛和風ビーフハンバーグ」が4年連続金賞、「近江牛カレー」が2年連続銀賞を受賞しています。

コンテストのフィードバックから審査の内容を調べていくと、100点満点中審査員の平均が95点以上が最高金賞という基準に対して、「ローストビーフ」は97点や98点をだした審査員がほとんどだったといいます。総評として「かなりインパクトのある商品だった」ということでした。満点に近い高評価だったことを知り、私自身、驚きました。

ローストビーフやハンバーグ、カレーなどは日本の市場でもよく売れています。みなさんがよく知っているポピュラーなものですが、やり方次第で予想外の商品は生み出せるのです。

日本人はえてして「なぜ売れないのか?」という方向で突き詰めていきますが、「なぜ?」「なぜ?」と思いながら改善しても、今いる領域から抜け出すことは決してできません。同じハンバーグでも別次元に行こうと思ったら、「なぜ?」をやめ、予想外のものをつくるために「どうする?」と考える。そうすることで、まったく新しい価値観の商品基準に達します。

一つ例を挙げましょう。私は、和牛の大きな塊をどんどん小分けして、細分化していきました。同じ赤身のもも肉でも、細分化していくと、うちもも、ダルマ、シンシン、そともも、ランプ、イチボ、ラムシンに分かれ、それぞれの肉の柔らかさやサシの入り方、旨みにちがいがあることがわかります。その特徴を調べ尽くし、どの部位がどんな調理法に合うか研究を重ねて加工品にしたのです。

日本には有効利用という考え方があり、当時、ステーキでそのまま使える部位を加工品に使おうなどと、誰も考えていませんでした。「誰もやらないなら、自分でやろう」「高くて誰も追いつけないような商品をつくろう」と、当時は非常識だった「高級な部位を加工品にする」ことにしました。だからこそ、顧客に驚きや感動をもたらしたのだと思います。商品を世にだすタイミングがベストであれば、必ず多くの人の目にとまります。日本人気質は必ず世界に通用するトップ基準を考え出せたり、つくれたりすると確信しています。

高いから、売れる。 125年続く近江牛の老舗社長が教えるブランド管理術
永谷武久(ながたに・たけひさ)
創業125年「大吉商店株式会社」代表取締役(4代目社長)。1969年、京都府伏見区生まれ、23歳のときに3代目の父が急逝。経験ゼロのまま、「大吉商店」の4代目社長に就任。先代と比較され、苦悩するが、近江商人の経営哲学に基づき、前例のない改革を次々と成功させる。「肥育・枝肉卸・精肉・加工品・外食・通販」のキャッシュポイントを作ることで、「6次産業化」を実現。

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