世界85ヵ国以上で事業を展開する配車アプリ、Uberの想像を超える“闇の経営戦略”を示す、大量の機密情報(通称「Uberファイル」)が漏洩した。世界各国で数々の違法行為を繰り返し、当局や警察を欺き、政府に密かに働きかけを行ったその実態が明らかになるにつれ、政治界の首脳級をも巻き込んだ一大スキャンダルに発展している。
「タクシー業界の海賊」として急成長
「Uberファイル」は2014年から2年間にわたり、Uberでロビイスト(圧力団体の利益を政治に反映させるために、政党、議員、官僚などに働きかける工作者)を務めたマーク・マクガン氏が、英ガーディアン紙に漏洩したものだ。
12万4,000点を超える“証拠”には、共同創設者兼前CEOのトラビス・カラニック氏が2013~17年にわたり、幹部とやり取りしたIMessageやWhatsAppのメッセージ、メール、音声ファイルなどが含まれている。
ライドシェアリング(一般ドライバーが運転する自家用車で有償の旅客運送を行う)が新たなビジネスモデルとして脚光を浴びた当時、ライドシェアリングを取り締まる法的規制環境は整備されていなかった。
Uberは安全管理責任や旅客運送法といった規制網を巧みにすり抜け、「タクシー業界の海賊」として世界規模で事業を拡大していった。その“野蛮で攻撃的な拡大戦略”は、桁違いの世界的成功を同社にもたらす反面、各国で批判と論争を巻き起こした。
当局の捜査を妨害する「キルスイッチ」発動
各国がライドシェアリングの規制に乗り出したことで、提訴や行政処分に直面したUberは、あらゆる手段を講じて法執行を阻止しようとする。その一つが「キルスイッチ」と呼ばれる、データシステムの遮断作戦だ。
ファイルによると、捜査の手が伸びるやいなや、幹部は即座に主要なデータシステムへのアクセスを遮断する指示をITスタッフに送り、当局の証拠収集作業をことごとく妨害した。キルスイッチは欧州やインドのオフィスで、少なくとも12回使用されたという。
「暴力と対立」をロビー活動に悪用
当局との激戦の裏でUberが重視していたのが、各国政府や国際機関へのロビー活動である。同社がロビー活動のために接触した重要人物のリストには、当時副大統領だったバイデン大統領を筆頭に、世界各国の首脳級の要人や億万長者、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)などが名を連ねている。
ロビー活動というと、日本では賄賂と勘違いされるなどあまり良いイメージがないかもしれないが、欧米においては企業が自社に有利な政策や規制決定を取り付ける上で、極めて重要な役割を果たしている。Uberがロビー活動を行っていたこと自体は合法なのだが、問題視されているのはその手口だ。同社は運転手に対する暴力行為(殺人を含む)やタクシー業界との対立を、ロビー活動に悪用した。
2016年1月、パリで起きたタクシー運転手による大規模な反Uberデモは、Uberにとってフランス政府との交渉を有利に進めるための好機となった。このデモでは2,000人を超えるタクシー運転手が集まり、そのうち20人以上が暴行や放火の罪で逮捕された。さらに、各地でUberの運転手が暴行を受けるという騒ぎに発展した。
驚くべきことに、カラニック氏はデモの前線にUberの運転手を送り込み、対立をあおるよう幹部に示唆した。自社の運転手の安全を懸念する幹部に対し、同氏はこう言い放ったという。
「(送り込む)価値はあると思う。暴力は成功を保証する」
Uberが政府から譲歩を勝ち取るために運転手への暴力行為を利用したのは、フランスだけではない。オランダやベルギー、ドイツなどでも、自社の運転手が暴力事件に巻き込まれるたびに、ロビー活動の戦略として利用してきた。