「国家スキャンダル」 仏マクロン大統領に飛び火
その一方で、フランスのマクロン大統領がロビー活動の域を超えて「便宜を図った」疑惑を受け、窮地に追い込まれている。前述した通り、ロビー活動そのものは合法だ。しかし、活動が公平性を欠いているなど過度の支援があった場合、違反行為と見なされる。
Uberファイルには、同大統領が前政権下で経済・産業・デジタル大臣を務めた2014~2016年の期間、カラニック氏と合計4回の「秘密の会談」を行った証拠が示されている。それにもかかわらず、公式な記録にはそのうちの1回だけしか報告されていない。その他、仏当局がUberの抜き打ち検査を実施した際、Uberがマクロン大統領に「助け」を求めたことを示唆する証拠なども示している。
新民主党所属の憲法制定国民議会代議士オーレリアン・タシ氏は、出演したラジオ番組で「(事実であれば)国家スキャンダルになる」と述べた。
多方面から議会の調査を求める声が上がる中、マクロン大統領自身は「フランスの閉鎖的なタクシー業界」を解放するために、「Uberのロビー活動を支援したことを誇りに思う」と強気の構えだ。しかし、内心は冷や汗をかいているだろう。
4月の大統領選で再任したとはいえ、足元は大きく揺らいでいる。6月に実施された国民議会(議会下院)選挙では、大統領率いる与党連合が議席の過半数を失い、左派連合と極右政党国民連合に分散した。選挙結果を受けたボルヌ首相は、近年の仏国民会議で議席がこのように割れるのは異例のことだとし、「状況は我が国にとってのリスクを反映している」との懸念を表明した。
今回のスキャンダルの行方次第では、マクロン大統領の政治的立場がさらに弱体化する可能性もある。
今、本当の幕が切って落とされた
Uberは、セクハラ容認、競合への営業妨害、自動運転技術奪取疑惑など、その無秩序な企業文化から「世界で最も悪名高い米企業」の一つという汚名を受けたが、2019年にカラニック氏が退任したことにより、一連の騒動は幕引きとなったかのように見えた。
Uberファイルの漏洩は幕引きどころか、今、幕が切って落とされたばかりであることを示唆している。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)