この記事は2022年7月22日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日本企業の海外進出で直接投資収益は拡大傾向」を一部編集し、転載したものです。


日本企業の海外進出で直接投資収益は拡大傾向
(画像=takasu/stock.adobe.com)

(財務省・日本銀行「国際収支」ほか)

前回、日本企業の海外進出比率が高まったことで、産業財産権等使用料の黒字幅が拡大したことを示したが、日本企業の海外進出の影響を最も受けるのは、国際収支の「第一次所得収支」だ。これは、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を指す。

第一次所得収支のうち、親会社と子会社との間の配当金・利子等の受け取り/支払いである「直接投資収益」は、右肩上がりで推移している(図表1)。2018年以降は、第一次所得収支で最大の黒字項目だ。日本企業の海外進出に伴って現地子会社等の収益が拡大し、親会社に帰属する分(出資所得)も増加した。他方で、2017年まで最大の黒字項目であった「証券投資収益」(株式配当金および債券利子の受け取り/支払い)は近年頭打ちとなっている。これは、海外の金利が低下傾向にあったことが大きい。

直接投資収益を地域別に見ると、アジアと欧州が牽引している。なかでもアジアでは中国が、欧州では英国が高い伸びを見せた。外務省「海外進出日系企業拠点数調査」「海外在留邦人数調査統計」からも、日本企業の海外拠点数は2015年から2020年にかけてすべての地域で増加しており、特にアジアが増加の7割を占めていることが確認できる。

ただし、直接投資収益の黒字幅が拡大していることは、対内直接投資が対外直接投資ほど伸びていないという問題も示唆している。図表2は対外・対内投資を残高ベースで比較したものだ。対内直接投資は海外から人材・技術・資金を呼び込むことで経済の活性化に貢献するとみられるため、政府は2013年に「2020年までに対日直接投資残高を35兆円に倍増する」という目標を掲げた。その後、2020年12月末時点で約40兆円を達成するなど、対内直接投資は増加傾向にある。

しかし、GDP対比(2020年)で見ると、日本の対外直接投資残高は主要国並みである一方、対内直接投資残高は主要国に比べて小さい。この背景には、日本企業が外資系企業に対する事業売却に積極的でないことや、国内の規制の厳しさ、言語の壁などがある。政府は2021年に、「対日直接投資残高を2030年に80兆円へ倍増させる」という目標を掲げており、海外から投資を呼び込みやすい環境の整備を進める予定だ。

日本企業の海外進出で直接投資収益は拡大傾向
(画像=きんざいOnline)
日本企業の海外進出で直接投資収益は拡大傾向
(画像=きんざいOnline)

大和総研 経済調査部 研究員/和田 恵
週刊金融財政事情 2022年7月26日号