本記事は、加賀隼⼈氏の著書『後継社長力』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
必要なのは経営理念よりも存在意義
具体的な「事業承継の成功ステップ」に入る前に、最近注目する企業が増えている「パーパス」について触れておこうと思います。
パーパスとは企業や企業に属する個人の目的や存在意義(価値)を意味する言葉で、具体的には「社会の中で何のために存在しているか」を示すものとされています。
パーパスと近い言葉に「経営理念」があります。経営理念とは、経営者の価値観や思いを表し、社員はその経営理念を共有します。皆が同じ方向とゴールを目指して一丸となって進み、企業のさらなる成長を遂げるためのものです。
多くの企業では、経営理念を掲げ、会社案内のパンフレットやホームページでは最初のページの目立つ位置に掲載されていたりします。
例えば、以下のような経営理念を目にしたことがある人も多いと思います。
「お客様にご満足いただくこと(顧客満足)を第一義に、安心、安全、快適な生活・環境の創造とその価値の向上に全力を尽くし、お客様からの信頼を日々積み重ねていくことを使命とする」
いかがでしょう。どこかで見たことがあるような文言ではないでしょうか。実は、経団連(日本経済団体連合会)が提唱している企業行動憲章の中に書かれているものです。
どの企業でも使えるテンプレートのようなもので、文言も難しく、社員にとっても、まったく腹落ちしませんし、自分事のようには思えないあいまいで抽象的な表現です。
「存在意義」は松下幸之助が行き着いた経営哲学
だから私は、「経営理念なんて書くのをやめませんか?」と、多くの経営者の方々に話しています。そして代わりにお勧めしているのが、パーパス(=存在意義)なのです。
実は松下幸之助が、この存在意義の重要性について図4のように述べています。経営の神様とまでいわれた松下幸之助は、60年にわたって事業経営に携わるなかで、1番大事だと確信したのが存在意義であると述べているのです。
例えば、松下幸之助が提唱した経営哲学である「水道哲学」こそが、松下電器産業(現パナソニック)のパーパスといえます。
水道哲学とは、生産量や供給量を豊富にすることで、モノの価格を下げ、栓をひねれば水が出てくる水道水のように、誰もが容易に商品を手に入れられる社会を目指すというものです。そのために松下電器産業が存在しているのだということです。
ちなみに、当社ストロングポイントの存在意義は、「地域の次世代社長を元気にする」です。ほかにも私のセミナーに参加した経営者の方々は、以下のような存在意義をそれぞれ回答されていましたので、ぜひとも参考にしてみてください。
- 世の中に本物の製品をつくるために(製造業例)
- 計測で日本を元気にする(卸売業例)
- ホンモノを未来に伝えていく(サービス業例)
- お客様の全員に使ってもらえるシステムを提供する(IT業例)
これは、セミナーをしているときに実感したのですが、いきなりカルチャーを変えたりつくったりという話をすると、後継者の多くがとても唐突に感じてしまうようです。カルチャーを語る前に、まず企業としてのパーパス(存在意義)が必要です。
当社でいえば「地域の次世代社長を元気にするため」という存在意義があるからこそ、そこから具体的に経営者や社員たちはどのように考え、どのように行動すべきなのかというカルチャーも明確になってくるものだからです。
すなわち、会社のパーパスを実現するためのHOWがカルチャーというわけです。