本記事は、加賀隼⼈氏の著書『後継社長力』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。
課題 先代からのビジネスモデルが陳腐化している
中期経営計画は3〜5年以内の目標の達成を目指すため、一般的には既存事業の深化が中心となります。一方で、経営には深化と探索が必要であるとすでに述べたとおり、経営者視点では、新しい製品やサービス、事業を生み出すイノベーションも重要です。
つまり、深化と探索は常に両輪で回していかなければ会社の成長は望めないのです。
特に、先代から引き継いだビジネスモデルが古く、有効性が失われているケースもあります。そのまま既存のビジネスモデルで事業を続けていると、売上は右肩下がりとなり、会社の継続すら危ぶまれることになります。
3つの兆候のうちいずれかを感じたら危険
私が今まで感じたビジネスモデル陳腐化の兆候は以下の3つに現れます。
- (1)製品・サービスが業界全体で小型化
- (2)新しく生まれたビジネスモデルが世の中に認められ浸透
- (3)財務や業績指標の悪化
(1)の製品・サービスの小型化とは、業界的に小口発注するサービスができたりするケースです。従来はB to Bの取引でロット販売していたメーカーや卸業者が、B to Cなどに進出。1個単位で販売する競合他社が出てくるようになると、ビジネスモデルの変化の兆候があると感じます。
(2)では、例えば今では主流となったNetflixやAmazon Primeなどの映画やドラマのサブスクリプション。かつて街の至るところにあったレンタルDVD店というビジネスモデルを駆逐したのがサブスクリプションでした。しかし、Amazon Primeが出た当初は、今ひとつ満足できるとは言いがたかったサービス内容でしたが、満足度が高まることで一気に広がっていきました。
(3)は、原因がよくわからないまま売上はどんどん下がっているとか、利益率が悪くなったりしてしまうという兆候です。原因が明確でないので、「まだ大丈夫かな」とか「現状維持できればいい」「変えたくない」と考えがちですが、実は崖の一歩手前だったということもあります。
自分たちが崖に対してどの位置に立っているのか、経験がないとわからないものです。特に内部留保が豊富なため自己認識が甘く、危機意識の低い経営者に起こりがちで、「うちの会社は大丈夫だよ」と思っている経営者こそ、実際には崖の先端にいる可能性もあります。
地方のとある広告代理店の話です。広告代理店のビジネスモデルは、広告主となる企業にテレビCMや新聞、雑誌などの広告枠を買ってもらうというもの。ところが、新聞や雑誌の購読者が減り、テレビもまた出稿する企業側からするとコストパフォーマンスが低くなっています。
代わって台頭しているのがインターネット上のさまざまな広告です。Google検索やSNSのFacebook、Twitterなどは、広告代理店を介さずに企業が独自に広告を出せる仕組みが整っています。
インターネット上の広告が主流になることで、新聞や雑誌などの広告費も下がっています。そうなると、ビジネスモデルに限らず、広告代理店そのものの存在意義も危うくなっているわけです。
取引関係は安定していても収益が悪化している場合が多い
もう1つ、難しい課題ではあるのですが、品質が高いメイド・イン・ジャパンならではの製造業の悩みもあります。例えば、プラスチック容器などを切断する工作機械の製造会社では、販売から30年間は故障もなく使えるという製品で、その品質の高さが信頼され、同社の強みにもなっています。
しかし、こうしたビジネスモデルは世の中の景気がどんどん上向き、新しい工場も次々とできていくという環境下では、販売台数も伸びて会社の成長と売上に貢献しますが、不況が続く現状では新規導入や買い替えの需要も減るため販売台数が伸びません。
販売以外で収益を上げるのであれば、保証サービスとしてメンテナンスに力を入れるとか、あるいはリースなどを導入して、取引先が融資を受けずとも新しい工作機械を導入できるような仕組みに作り変えていく、といった発想が必要となります。
誤解 先売上を伸ばすために 大号令をかけて営業を頑張る
「売上が伸びない」「お客様が自社サービスに飽き始めている」「事業拡大の見込みが立たない」など、収益が悪化している企業で次にどこへ進むべきなのかを定め、決断することは難しいものです。
何か施策を考えなければいけないことは理解しているものの、焦りばかりが先行した経営者がまず取り組みがちなのが営業の強化です。「もっと営業すれば売れるはずだ」「新規顧客の開拓に力を入れよう」などと大号令をかけたりするのです。さらに、従来のフィールドセールス(外回り)から増員してインサイドセールス(メールや電話などにより内勤・遠隔で取り組む営業スタイル)を始めます。
さらに、営業支援システム(SFA)を導入、営業部門のメンバーの行動や、商談の進捗状況とその結果を情報として蓄積・管理し、効率的に売上へと結びつけることで効率化を図ろうと考えます。
広告費を増やしても効果があるのは短期間だけ
あるいはB to Cの事業では、マーケティングや広告を強化することで、短期的には結果を出すこともできますが、広告をやめてしまうとすぐに元に戻ってしまうものです。「顧客関係管理」(CRM)と呼ばれるシステムを導入する企業も多くあります。CRMは、顧客との関係性、コミュニケーションを管理し、自社の従業員と顧客との関係を一元的に把握するツールです。
もちろん、こうした営業ツールを導入したり、営業を強化したりすること自体は間違いとはいえません。私のところにも、営業研修の依頼はよく来るのですが、「社長、それでは営業パーソンに無理やり『ブラウン管のテレビを売れ』と言っているようなものですよ。今の時代、買う人はいないでしょう」と伝えます。
結局、売上減少の根本原因が営業力ではなく、ビジネスモデルそのものにあるとしたら、営業面でどのような施策を打とうとも効果はなく、単に徒労に終わるだけだからです。
そもそもなぜ先代の頃は売れていた製品やサービスが、今は売れなくなっているのかを正しく把握する必要があるのです。
例えば、固定電話の時代から携帯電話になり、今では1人1台スマホを持つ時代になりましたし、音楽もレコードからCDやMDを経て、今ではスマホでサブスクリプション契約した音楽を聞く時代になるなど、時代と共に変化しています。会社も同様に時代の変化を先読みして、製品やサービス、技術やビジネスモデルを変えていかなければ生き残ることはできないのです。
人は本当に崖っぷちに立たないと動かないものですが、実際にはそうなる前から動き出すことが大切といえるでしょう。
解決策(1) 事業モデルを根本的に見直す
ビジネスモデルの見直しや新規事業の開拓は、企業ごとの課題があったり、業界ごとの課題があったりなど、コンサルをしていても個別のケースによってアドバイスしていきます。また、時代が変われば将来的にビジネスモデルそのものが陳腐化してしまうこともあり、大局観でお伝えするのは難しいテーマでもありますので、ケーススタディを交えながら解説していきます。
古くなった収納棚の買取サービス
まずはキッチンの収納棚の製造販売会社の話です。キッチンの収納棚は住宅ごとにサイズが異なるため、受注生産されるのが一般的です。そのため、引っ越しや建て替えをしてしまうと、サイズが合わなくなるため多くは廃棄されていました。
どんなに状態が良いものでも廃棄されてしまうのはもったいないので、不要となった収納棚を買い取るサービスを同社で始めました。同時に、これまで生産した収納棚のサイズを記したデータベースをつくり、同じサイズで必要としている人がいないか検索できるシステムをつくりました。買い取った収納棚はメンテナンスをして再販するという新たなビジネスモデルを構築したわけです。
さらに、買い取りをしたついでに「引っ越し先でも当社の製品はいかがでしょう?」とセールスにつなげることができます。地方では、高齢者が広い一軒家から駅やショッピングセンターに近いマンションに住み替えることがよくあります。そうした需要をつかんだ新たなビジネスモデルというわけです。
このように、従来のビジネスで収益を生んでいたポイントを振り返りつつ、これまでは収益を生んでいなかった部分でも収益化することが可能か? 意外な課金ポイントがあるのではないか? など、現在のビジネスモデルを改めて見直してみることです。
海外のビジネスモデルを参考にするタイムマシン経営
ほかにも、ビジネスモデルに関しては、図19に近年成長中のビジネスモデルをまとめています。主にベンチャー企業のビジネスモデルをパターン化しています。
例えばシェアリングビジネスなどはサービス開始当初は、顧客の満足度はそれほど高くはなく、一過性の流行と見る向きもありました。しかし、カーシェアリングやシェアサイクルなどは、街の至るところで見かけるようになっています。
ほかにもシェアハウスやシェアオフィスに加え、Uber Eatsの仕組みも配達人を飲食店でシェアするビジネスモデルです。「所有から共有へ」というキーワードと共に一般化され、さまざまなビジネスで浸透しています。
こうしたビジネスモデルは、自社や同じ業界でも当てはまるのではないかという視点で、参考にするのはお勧めです。
また、タイムマシン経営といわれていますが、日本国内だけでなく海外で成功したビジネスモデルやサービスの模倣も、以前からあった経営手法の1つです。例えば、コンビニエンスストアは1920年代にアメリカで生まれたビジネスですが、日本にコンビニが登場したのは1970年前後といわれます。
海外のビジネスモデルを日本風にアレンジしたり、東京や大阪のビジネスモデルを地方風にアレンジしたりするなど、常に最新のビジネスモデルをベンチマークして、「これを日本でやったらどうなるか?」などとチェックしておくことが大切です。