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「オルタナティブ投資戦略」が再び脚光を浴びている理由

今から約40年前、イラン革命後の石油生産の減少によって引き起こされた第2次石油ショックに伴う強烈なインフレが米国の長短金利を揃って16%前後にまで押し上げた。そしてその後、多少の波はありながらも米国金利は一貫して低下し続けた。そして2020年3月、パンデミック・ショックの中で遂にFFレートはゼロ%にまで低下した。マイナス金利という概念を取り入れなければ、さらなる低下余地はなく、この先の米国金利のトレンドは横ばい、もしくは上昇という選択肢しかない。

世間一般に「債券運用」というのは「株式運用」に比べてリスクが低く、安定的な運用ができるという認識が固定化している。その背景の1つに過去40年間の米国における金融政策の歴史がある。債券は市場金利が低下する限り、(デフォルトの場合を除いて)価格上昇により「必ず儲かる」仕組みになっている。多少買うタイミングを間違えても、保有している間に市場金利が低下すれば、必ず債券価格は上昇(キャピタルゲイン)し、さらに当然、クーポン収入(インカムゲイン)も得ることができる。

多くの投資理論は、各アセットクラスの時価と過去の値動きの解析を論拠としている。マーコビッツの「平均 - 分散モデル」(*1)も、その後の「ブラック - リッターマン・モデル」(*2)も、リスクについては過去の値動きの標準偏差を年率換算したものを使うといった点は一緒だが、期待リターンの考え方が異なる。年金基金などの大規模資金を運用する機関投資家も、だからこそ、パラメータなどに多少の違いこそあれ、時価と過去の値動きを重要な判断材料として最適アセット・アロケーションを導き、運用している。


*1:各資産の期待リターンの平均(期待値)と分散(標準偏差の2乗)によって投資家の意思決定が行われるとみなし、最適なポートフォリオの構成を分析するモデル。

*2: ファイナンスにおけるポートフォリオ選択についての数理モデル。ゴールドマン・サックスに所属していたフィッシャー・ブラックとロバート・リッターマンによって1990年に考案された。


「オルタナティブ投資戦略」が近年、再び脚光を浴びている最大の理由は、少なくともこの10数年以上、株式や債券といった伝統的な資産だけでアセット・アロケーションを組んでも、充分な投資収益を得ることが難しくなってきたからだ。さらに過去40年も続いてきた金利低下という大きなトレンドが遂に変わるとなれば、債券のリスク・プロファイルが従来とは変わる可能性が高いことは明らかだ。「保有している間に市場金利が低下すれば、必ず債券価格は上昇する」のと同様に、「金利上昇により債券価格が下落する」という状況の発生確率も高まるということだ。