オルタナティブ投資の世界で頻繁に目にする「プライベート・エクイティ」「プライベート・デット」――。これらの投資アセットに冠される「プライベート」という言葉の本質的な意味を考えたことはありますか? 今回はオルタナティブ投資における「プライベート」の意味を、対義語である「パブリック」と比較しながら考察します。
「ヘッジファンド」「ハイイールド債券」の本質
投資を成功させる上で重要なことの1つは、投資家だけではなく、金融事業者も投資手法や投資商品などに使われる専門用語の本当の意味を正確に理解することだ。もちろんこれは本連載のテーマである「オルタナティブ投資」に限った話ではなく、資産運用全般に共通する「投資に成功するポイント」であることを強調しておきたい。馴染みのない分野であればあるほど、時間をかけて丁寧に勉強すること。そんな地味な作業が満足できる投資結果を導く近道になる。
しかし、実際の投資の現場では、わたしたちが思っている以上にこのことが軽視されている。投資家、金融事業者両者にいえることだが、生半可な知識で知ったかぶりを通すのではなく、「知らないものは知らない。分からないものは分からない」という態度を示す勇気が欲しい。少なくともその方がお互い、投資の結果について、あるいは責任について、きちんと納得ができるようになるだろう。
ファンドの運用に長く携わってきた身としていわせてもらえば、世間一般で認識されている姿と、実際のそれとの間に大きな溝がある代表的な仕事に「ヘッジファンド」がある。最近でこそ鳴りを潜めた感じもするが、一時期「ヘッジファンド」といえば、「金融市場の暴れん坊」として悪者扱いされたものだ。「ヘッジ」という言葉が示す通り、ヘッジファンドにおける運用とは「コントロールされたリスク」、つまり「合理的に計算されたリスク」を取るための売買執行にすぎない。
だが、株式市場と債券市場をまたぐような売買取引が執行された場合、それぞれの市場からみると、市場をマニピュレート(市場操縦)する「とんでもなくハイリスクな運用」という印象を持たれてしまうことがある。普通に考えれば、まともな金融事業者が市場をマニピュレートして「一か八かの大勝負」をするわけがない。「ヘッジファンド」とは、「相対リターン」の獲得を目指す場合に生じるリスクをヘッジするために「絶対リターン」を狙うファンドのことである。「ヘッジファンド」という言葉そのものに問題があるわけではない。
逆の例もある。その典型が「ハイイールド債券」だ。
多くの投資家にとって「ハイイールド債券」というのは、「ヘッジファンド」と比べると、わりと身近に感じられる投資商品ではないだろうか。おそらく、それほどリスクを感じることのない存在であるかもしれない。実際、一般の個人投資家向けに「○○○ハイイールド債券ファンド」のような公募の投資信託が販売されている。だが、「ハイイールド債券」の本質とは何か、という議論は実はほとんどされておらず、単に、「ハイ(high)=高い」「イールド(yield)=利回り」と英語を日本語に直訳して、「高利回り債券」という程度の意味で理解している人が多い。ここに落とし穴がある。「ハイイールド債券」とは「投資格付けBB以下の債券」のことである。投資格付けBB以下とは、機関投資家などの間では「投資非適格債」や「投機的格付債」と呼ばれる。つまり「ジャンクボンド」のことなのである。「投機的過ぎて『投資適格の債券』には非ず」が「ハイイールド債券」の本当の意味だ。
「プライベート」の対義語としての「パブリック」
「ヘッジファンド」「ハイイールド債券」の本当の意味に関する状況は以上のとおりだ。では、最近の金融業界で耳にすることが多くなった「プライベート」という単語は正しく定義されているのだろうか、というのが今回のメインテーマだ。