誰も教えてくれない海外プライベートバンクの真実 #5
(画像=Hanna/ PIXTA、ZUU online)
長谷川建一
長谷川建一
国際金融ストラテジスト<在香港>、Wells Japan Holdings 取締役兼CFO
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)。シティバンクグループ日本およびニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。2004年末に東京三菱銀行(現MUFG銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009年からは国際部門に異動しアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率いて2010年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015年には香港でNippon Wealth Limitedを創業、香港金融管理局からRestricted Bank Licenseを取得し、一から銀行を創り上げた。2021年5月には再び独立し、Wells Japan Holdings Limitedを設立。香港証券先物委員会(SFC)に証券ライセンスを申請し、香港保険監管局(IA)からは保険代理店ライセンスを取得するなど、アジアの発展を見据えて、富裕層向けに金融サービスを展開する金融グループを立ち上げている。

資産運用や金融に関しては多くの人が、「どこに行って、誰に聞いたら本当のことがわかるのか」という悩みを持っている。特にプライベートバンクに関する情報となると、対象顧客の数が絞られるうえ、ニッチなものであるという理由から情報量がさらに少なく、集めにくい。そのうえ、日本語での情報は限られている。部分的な情報や不正確な情報が理解を妨げることもあり、正しいプライベートバンク像に行きつくことは本当に大変である。連載「誰も教えてくれない海外プライベートバンクの真実」第5回では、プライベートバンクの実情を把握するための情報収集を中心に紹介していこう。

目次

  1. 要望をしっかりと伝える
  2. プロフェッショナルなスキルが要求されるプライベートバンカー
  3. 優秀なバンカーが独立し、顧客資産をサポートするEAMに注目
  4. 富裕層が注目するファミリーオフィスの存在

要望をしっかりと伝える

プライベートバンク(金融機関)によっては、取り扱う商品やサービスの範囲も違えば、対象とする顧客の定義も異なる。そもそもプライベートバンクの設立経緯や「哲学」など、こだわりとでも呼ぶような部分がそれぞれ個性的であるため比較が難しい。顧客のニーズは「資産運用」「相続」「(家業の)経営」「事業承継」「国際ネットワーク」「教育」などに大別され、顧客によって諸条件が異なるため、解決方法はさまざまである。それぞれが用意するメニューとしてのサービスは比較可能だろうが、実際に内部スタッフを抱えているのか、外部リソースを使ってサービスを提供するのかなど、体制も取り組み方も異なるのが実情である。

「承継」1つとっても、個別の事情は様々である。承継の際には、居住国と財産の所在地の関係などによって税務上の取り扱いが異なる。従って、プライベートバンクに相談したとすると、顧客それぞれのケースで提案内容が異なることは当然の帰結である。グローバルにサービスを展開したとして、それを世界中で同じコミュニケーションに乗せることには無理があるのだ。

比較できるとすると、ほとんどの顧客に共通する資産運用でのメニューということになるだろうが、顧客によるリスク許容度の違いで、実際の提案内容は大きく異なる。仮に比較したとしても、金融の世界は金融商品だけで際立った特徴を出すことは難しいため、運用の結果やバックテストでの比較にとどまるはずだ。

あなたのそばに実際にプライベートバンクを使っている、もしくは使ったことがある人がいるのであれば、彼らから得られる情報はとても助けになるだろう。ただ、これまで書いてきたようにサービスの内容は多岐にわたるため、その知人が何を期待してプライベートバンクを利用しているのか、プライベートバンクの何に満足しているのかまで開示してくれれば、という“但し書き”が付く。同じ悩みを抱えているならなおさらである。そして、その課題を前に担当プライベートバンカーがどう動いてくれたかがわかれば、そのプライベートバンクの使い勝手を知るには良い参考になるだろう。

現地のプライベートバンクに直接問い合わせてみる方法もあるが、海外の金融機関では日本語で説明できるスタッフが少ない。というのも近年、アジアや中国の富裕層の急成長で、日本の富裕層顧客1ファミリー当たりの資産は、相対的に小さくなってしまった。そのため、1バンカーが担当できる数を一定とすると、バンカー当たりの効率では、日本人を顧客に抱えるバンカーは組織内で激減している。日本人富裕層がコアの顧客ターゲットとならなくなって久しいのである。実際、日本人向けのチームを組織している金融機関は少ない。仮に海外拠点の日本語スピーカーと話ができたとしても、おぼろげな説明しか受けられないことがほとんどではないだろうか。

では、日本法人に聞いたらよいかというと、それもあまりよいアイデアではなかったりする。というのも、日本で展開できるサービスと、他国で提供可能なサービスは異なる場合が少なくないからだ。日本国内に所属するバンカーは多くの場合、「同じ(外資系金融機関という)組織」に所属し、「同じ(外資系金融機関という)看板」を掲げてはいても、他の海外拠点からは孤立していることがほとんどだ。拠点(国)ごとに法規制が異なるため、提供できる金融サービスも異なるからだ。

もちろん、日本拠点でもマネージメントクラスは、アジアの拠点のレポートラインにあって、情報は共有している。しかし、乗っかっているプラットフォームが異なるため、供給する商品やサービスは異なっているのだ。これは、日本は日本の金融規制に従っているためだ。バンカーがもし、ほかの拠点の商品を紹介すると、規制違反になる可能性も高い。そのため、日本拠点に所属するバンカーは、むしろ海外拠点で何が行われているかを知りたがらない傾向もあるくらいだ。たとえば、現在、香港やシンガポールでは、絶対的なリターンを追求するヘッジファンドなどは主力だが、日本では、一部の証券会社が販売を始めるなど周回遅れで、いまだに、EB債などが主力の運用商品だったりする。