この記事は2022年8月16日に「The Finance」で公開された「DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】」を一部編集し、転載したものです。


DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】
(画像=gopixa/stock.adobe.com)

本稿では、DCJPYの概要から注目される背景、実証実験の一例について基礎からわかりやすく解説します。

目次

  1. DCJPYとは
  2. DCJPYのホワイトペーパー(デジタル通貨フォーラム発行)
  3. 他のステーブルコインやCBCD(中央銀行デジタル通貨)との違い
  4. DCJPYが注目される背景
  5. DCJPYのメリット
  6. デジタル通貨フォーラムメンバー一覧(2022年8月現在)
  7. DCJPYの実証実験の一例
  8. まとめ

DCJPYとは

DCJPYとは、発行・送金・償却などデジタル通貨の管理を行う「共通領域」と、アプリ・サービスなどをはじめとしたさまざまな商取引が行える「付加領域」の二層構造を持つデジタル通貨です。

共通領域とは、DCJPYの残高元帳の管理や民間銀行がデジタル通貨を発行するために、それぞれの銀行システムと連携するための仕組みを提供する領域です。一方で付加領域とは、モノやサービスなどを利用した際に、そのニーズに応じてプログラムの書き込みが可能となる領域です。

つまり付加領域でなんらかのサービスなどを売り買いした場合、自動的に共通領域と連動して、デジタル通貨が送金できたりする仕組みになります。

DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】
(画像=The Finance)

出典:デジタル通貨フォーラム「DCJPY(仮称)ホワイトペーパー」2021年11月

DCJPYは日本円を裏付け資産とするステーブルコインとして設計されており、民間銀行が債務として発行することを前提として作られています。そのためDCJPYの利用者は、デジタル通貨用の口座を開設し、保有、利用をしていきます。

日本におけるデジタル通貨の実用性を検討する取り組みを行っているのが、日本国内の企業や銀行、自治体など計80社以上が参加している「デジタル通貨フォーラム」です。デジタル通貨フォーラムではデジタル通貨のインフラ整備や銀行預金をデジタル通貨DCJPYにするスキームなどの検討を進めています。

DCJPYの利用範囲は、当面は日本国内の法人企業や個人を想定しており、利用範囲も日本国内を想定しています。また発行されるDCJPYの最小単位は1円としており、1円未満の決済ニーズがある場合、取り扱いを検討していく予定です。

DCJPYのホワイトペーパー(デジタル通貨フォーラム発行)

DCJPYの実用化に向けて動いているデジタル通貨フォーラムでは、DCJPYの概要が記載されているホワイトペーパーを発行しています。 ホワイトペーパーには、DCJPYの特徴はもちろんのこと、インフラとして構築していくためのプラットフォームの仕組み、デジタル通貨にどのような価値があるかが解説されています。

DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】
(画像=The Finance)

出典:デジタル通貨フォーラム「DCJPY(仮称)ホワイトペーパー」2021年11月

他のステーブルコインやCBCD(中央銀行デジタル通貨)との違い

DCJPYは日本円と連動するように設計されたステーブルコインです。ステーブルコインにはDCJPYの他にもTether(USDT)やTether Gold(XAUT)などがあります。

Tether(USDT)やTether Gold(XAUT)は、それぞれ米ドルや金を担保に発行されているステーブルコインのため、日本円とは連動していない点が違いです。また、Tether(USDT)やTether Gold(XAUT)は、DCJPYと同様に法定通貨などに価格をペッグ(紐付け)し、価値を安定させているのが特徴です。

ステーブルコインの概要については、以下の記事を参考にしてください。

*参照:ステーブルコインとは?初心者向けに解説【2022年版】

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは、「Central Bank Digital Currency」の頭文字を取ったもので、その国の中央銀行が発行しているデジタル通貨です。発行元が中央銀行になるため、民間で発行できるDCJPYとは異なり、国家による資産の裏付けがされているのが特徴です。なおCBDCもDCJPYも同じデジタル通貨ですが、CBDCは民間サービスとの共存を前提に開発されており、敵対するものではありません。
CBDCについては、以下の記事に詳細を記載しているため、参考にしてください。

*参照:CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?先行国と日本の状況【2022年版】

DCJPYが注目される背景

DCJPYに限らずデジタル通貨への注目は、年々増しています。背景には「経済のデジタル化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)への変革」が挙げられます。

経済のデジタル化とは、IT技術の進歩による技術革新や、スマートフォンの普及などによって経済活動を、インターネットを通じて行われることです。経済協力開発機構(OECD)では、経済のデジタル化を、「デジタル化やデータ利用によって向上する全ての経済活動」と定義しています。

ECサービスなどが一般的になり、利用者はいつでもどこでも、好きな時に買い物やサービスを簡単に利用したいというニーズが高まっています。加えて新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、人との接触を極力避けることが求められるようになりました。そのため物理的な距離があっても経済活動を行える仕組みが求められるようになり、経済のデジタル化が促進しています。

さらに「デジタルトランスフォーメーション(DX)への変革」です。デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を用いて、社会や人々の生活に変革をもたらすことです。これまでのサービスをIT化やデジタル化するだけでなく、利用するユーザーの生活が変化する程の取り組みを指します。

経済のデジタル化によって、ユーザーは簡単に商品の購入やサービスを利用したいというニーズが高まってきています。こうしたニーズに対応するためには、デジタル上で扱える新たな決済インフラが必要です。そしてその決済インフラは、誰もが使いやすく分かりやすいものでなければなりません。

日本でもこうしたニーズに応えるべく、デジタル通貨であるDCJPYが注目されています。

DCJPYのメリット

DCJPYのメリットは以下のようなものが挙げられます。

  • 日本円建てによる価値の安定
  • 経済圏間の連携による利便性向上
  • 業務の自動化によるコスト削減、生産性向上
  • 人々の経済厚生の向上

日本円建てによる価値の安定

ビットコインなどの仮想通貨は価値が安定せず、投機的な意味合いで利用することが多くあります。なぜなら裏付けされる資産がないため、価格変動が大きいからです。そのため実用性に乏しいという課題があります。

しかしDCJPYは、日本円を裏付け資産としているステーブルコインのため、価格が乱高下せず、価値の安定が見込めるのが強みです。価値が安定していれば、法定通貨のように利用者が利用しやすくなるため、実用性が高くなります。

経済圏間の連携による利便性向上

これまでデジタル技術を利用してきた電子マネーなどの決済手段は、サービスの範囲が限定的になってしまい、幅広いユーザーへの利用が促進されていませんでした。なぜなら自社の決済手段を活用して、自社の経済圏の拡大などを戦略としていたからです。

しかしDCJPYには、共通領域があるため、それぞれの経済圏での相互運用が可能です。これまで多くの民間企業が作り上げきた経済圏を飛び越えて、利用ができます。そのためユーザーの利便性は向上し、企業側は新たなサービス展開などの価値創出につながっていきます。

業務の自動化によるコスト削減、生産性向上

取引や決済などの業務は、これまでオペレーションが煩雑になりやすく、担当者の負担となっていました。また資金化されるまでに、長い期間が必要になるなど利便性にも課題を抱えていました。

DCJPYでは、付加領域にプログラムを書くことが可能です。この付加領域に取引と決済を、自動化できるプログラムを装備できれば、経理作業などの自動化が実現できます。そのため事務コストの削減などにもつながっていきます。また業務の自動化が実現できれば、担当者を自社のコア事業に回すなど生産性向上にも貢献できるでしょう。

実際にデジタル通貨フォーラムでは、企業決済業務の自動化に向けた実証実験を開始しています。

人々の経済厚生の向上

DCJPYを有効的に活用していくためには、「共通領域」と「付加領域」の二層がリアルタイムで連動することが重要です。このリアルタイムでの連動を実現させるための技術が、ブロックチェーンとされています。

ブロックチェーンとは、「利用者の取引履歴を、暗号技術を用いて1本の鎖のように繋げ、正確な取引履歴を維持するための技術」です。ブロックチェーンの技術はビットコインでの取引をはじめ、セキュリティトークンやNFTなど新たな資産創造にも活用されています。

ブロックチェーン技術を活用して生まれた新たなモノやサービスを取引する際に、支払い決済手段であるDCJPYでもブロックチェーン技術が利用できれば、連携がしやすく大きなメリットになります。

デジタル通貨フォーラムメンバー一覧(2022年8月現在)

【参加企業・組織】

株式会社三菱UFJ銀⾏株式会社三井住友銀⾏
株式会社みずほ銀⾏株式会社セブン銀⾏

(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)
NTTグループ東⽇本旅客鉄道株式会社
KDDI株式会社株式会社インターネットイニシアティブ
森・濱⽥松本法律事務所アクセンチュア株式会社
株式会社シグマクシス
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社会津若松市
株式会社アスコエパートナーズイオン株式会社
株式会社インダストリー・ワン株式会社インテック
株式会社インテリジェント ウェイブANA グループ(株式会社ACD)
SBIホールディングス株式会社株式会社エナリス
auカブコム証券株式会社auじぶん銀行株式会社
auフィナンシャルホールディングス株式会社⽚岡総合法律事務所
関⻄電⼒株式会社合同会社Keychain
⼀般社団法⼈キャッシュレス推進協議会京セラ株式会社
xID株式会社気仙沼市
株式会社ジェーシービー株式会社JPX総研
一般社団法人スーパーシティAiCTコンソーシアム住友商事株式会社
住友⽣命保険相互会社Securitize Japan株式会社
セコム株式会社綜合警備保障株式会社(ALSOK)
ソニー銀⾏株式会社ソニーペイメントサービス株式会社
ソフトバンク株式会社SOMPO ホールディングス株式会社
⼤同⽣命保険株式会社⼤⽇本印刷株式会社
株式会社⼤和証券グループ本社株式会社大和総研
中部電⼒株式会社株式会社ツルハホールディングス
TIS株式会社株式会社電通
東京海上⽇動⽕災保険株式会社株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループ
株式会社東京金融取引所東京都
凸版印刷株式会社トッパン・フォームズ株式会社
西日本旅客鉄道株式会社⽇鉄ソリューションズ株式会社
⽇本住宅ローン株式会社日本電気株式会社
株式会社野村総合研究所野村ホールディングス株式会社
株式会社HashPort阪急阪神ホールディングス株式会社
PwCコンサルティング合同会社株式会社⽇⽴製作所
BIPROGY株式会社株式会社広島銀行
株式会社ファミリーマート株式会社BOOSTRY
フューチャーアーキテクト株式会社株式会社ペイロール
三井住友海上⽕災保険株式会社三井住友信託銀⾏株式会社
三菱商事株式会社三菱UFJニコス株式会社
三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社明治安⽥⽣命保険相互会社
ヤマトホールディングス株式会社株式会社ゆうちょ銀⾏
楽天Edy株式会社株式会社りそなホールディングス
株式会社ローソンローレルバンクマシン株式会社

[アドバイザリー]

森・濱⽥松本法律事務所 増島雅和 弁護⼠野村総合研究所 井上哲也 主席研究員
明治⼤学政治経済学部 ⼩早川周司 教授早稲⽥⼤学⼤学院経営管理研究科 ⻫藤賢爾 教授
鈴⽊智佳⼦ 公認会計⼠

[オブザーバー]

⾦融庁総務省
財務省経済産業省
⽇本銀⾏

DCJPYの実証実験の一例

DCJPYの実証実験は2022年度中に5件以上予定していると、デジタル通貨フォーラムは発表しています。その中の一例をご紹介します。

<電力Peer to Peer(P2P)取引で利用するデジタル通貨の商業サービス(店舗)での実証実験>
電力の発電車と需要家をマッチングさせる電力P2P取引の関心が高まっていることに加え、電力データを活用した新たな事業創出への関心を背景に、電力売買を伴う決済にデジタル通貨を活用した実証実験を行いました。

実証実験の内容は以下の通りです。

  1. 電力P2P取引プラットフォームとデジタル通貨プラットフォーム間のAPI連携の実機検証
  2. 電力取引で得た模擬デジタル通貨を用いて、店舗で模擬商品の購入が可能かアプリを利用し実機検証
  3. デジタル通貨の商業・サービス利用に関する新たなビジネスモデルの検討に加え、アプリケーションの具体的要件について検討
DCJPYとは?概要から参加企業までやさしく解説【2022年8月版】
(画像=The Finance)

出典:デジタル通貨フォーラム 電力取引分科会(サブグループA)による実証実験開始のお知らせ

実証実験では、模擬デジタル通貨を用いて店舗での商品購入決済が可能かどうかを検証しました。結果として、スマートフォンのアプリ上で電子取引を行い、利用者側から店舗側へ模擬デジタル通貨の移転が確認されました。

今後は、「電力P2P取引による環境価値取引の普及と、電力P2P取引で得たデジタル通貨の有用性について引き続き検討・検証したい」としています。

*参照:デジタル通貨フォーラム 電力取引分科会(サブグループA)による実証実験開始のお知らせ
参照:デジタル通貨フォーラム 電力取引分科会(サブグループA) による実証実験結果のお知らせ

まとめ

「経済のデジタル化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)への変革」により、新たな決済インフラの整備が進んでいます。

DCJPYの実用化が実現できれば、将来的に誰でも簡単に利用ができる決済手段として普及することが期待できます。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ