投資にはリスクが伴う。しかし、アセットアロケーションを決定することや、ポートフォリオを組むことは、そのリスクを抑える効果がある。アセットアロケーションとポートフォリオは、どちらも複数の商品に投資対象を分配するという点で似ているため、混同されることが多い。今回はこの2つの違いを明確にし、投資リスクを抑えるための具体的な分散投資の方法を解説する。

目次

  1. アセットアロケーションとポートフォリオの違い
  2. アセットアロケーションやポートフォリオの考え方が重要な理由
  3. アセットアロケーションを決める際の3つの視点
  4. アセットアロケーションの具体的な組み立て方
  5. アセットアロケーションに基づいたポートフォリオの組み立て方
  6. アセットアロケーションが手間……そう思う人向けの投資商品は?
  7. まとめ:投資の大損失は「アセットアロケーション」で避けられる

アセットアロケーションとポートフォリオの違い

アセットアロケーションとポートフォリオの違いとは? 具体的な決め方を解説
(画像=Chaosamran_Studio/stock.adobe.com)

アセットアロケーションとポートフォリオは、どちらも割合を決めるという点で似ているため、混同されることが多い。まずはこの2つの用語の違いを理解しておこう。

アセットアロケーションとは?

アセット(Asset)は「資産」、アロケーション(Allocation)は「配分」という意味である。つまり、アセットアロケーションとは、国内株式や外国債券などといった各資産クラスに、どの程度の配分で投資するかを決めることである。

このアセットアロケーションの目的は、投資におけるリスクの軽減だ。

投資には、「価格変動リスク」、「為替変動リスク」、「信用リスク」、「インフレリスク」、「金利変動リスク」など、さまざまなリスクがある。

例えば、外国株式は高い成長が期待できるが、世界的な景気後退が起こったときは大きな損失を被るリスクがある。さらに、安全資産と言われる「現金・預金」であっても、急激なインフレが起これば資産は目減りする。

つまり、1つの資産クラスですべてのリスクに対応することは不可能なのである。

アセットアロケーションで複数の資産クラスに分散投資することによって、想定される複数のリスクに対する軽減効果が期待できるのだ。

アセットアロケーションで知っておきたい「資産クラス」とは?

資産クラスとは、同じような特性を持つ商品のグループを指す。具体的には、「現金・預金」「国内株式」「国内債券」「外国株式」「外国債券」「不動産」「商品・金」などがある。

株式や債券は、国内と外国で資産クラスを区別されることが多い。これは、為替の影響などもあり国内と外国では特性が異なるからだ。また、外国のなかでも先進国と新興国はリスクが異なるので、「先進国株式」「新興国株式」などと区別されることもある。

ポートフォリオとは?

ポートフォリオとは、金融商品の組み合わせのことで、特に同じような特性を持つ商品のなかで、運用商品を詳細に組み合わせることを指す。ポートフォリオを組むとは、例えば国内株という資産クラスのなかで、どの銘柄の株を何株持つか、などを検討することである。

このポートフォリオを組む目的は、各資産クラスのパフォーマンスの最適化である。

アセットアロケーションで配分されたそれぞれの資産には、本来期待されるパフォーマンスがある。例えば国内債券は安定性や国内株の下落時の影響の緩和、海外株式では高いリターンの期待などだ。

つまり、さまざまなリスクに対応するアセットアロケーションに比べ、ポートフォリオはより細かい目的、つまり資産クラスごとの最適なパフォーマンスを目指すために組まれるのである。

アセットアロケーションやポートフォリオの考え方が重要な理由

アセットアロケーションもポートフォリオも、投資の対象を複数にすることを前提とした考え方である。では、なぜ投資対象を複数にすること、すなわち分散投資が重要なのだろうか。

分散投資とは?

分散投資とは、投資金額を分割して、1つではなく複数のものに投資する手法だ。

投資ではリターンが期待できる反面、リスクも伴う。分散投資は、リスクを抑え安定したリターンを目指すために有効な投資方法と言われている。

分散投資のメリット

分散投資の1番のメリットは、リスクを分散できることである。

例えば、投資資金のすべてを会社Aの株式に投資していた場合、会社Aが倒産してしまえば資金は0になってしまう。しかし、会社Aと会社Bに半分ずつ投資していれば、会社Aが倒産しても損失は半分で済む。さらに、会社Aを含め、10社に分散投資していれば、損失はそれだけ低い割合に抑えられることがわかるだろう。

会社が倒産するのは極端な例かもしれないが、業績の悪化などで株価が一時的に大きく下落した場合でも同じである。会社Aの株が下落しても、他の会社に分散投資していれば、その影響は少ない。

結果的に、分散投資をすることによって、資産全体が乱高下することを防げるのである。

分散投資のデメリット

一方、分散投資は集中投資に比べ、大きな利益が期待できないというデメリットもある。

「Googleの株を上場時に買っていたら、今ごろは億万長者になっていた」などの話にあるように、例えばベンチャー企業に集中投資し、その企業が大きく成長すれば、大きな資産を手にできる可能性がある。

しかし、分散投資ではベンチャー企業だけでなく、さまざまな業種の会社に投資資金を分散する。したがって、集中投資の場合と比べてどうしても資産の増加スピードは遅くなるのである。

また、分散の内容も重要だ。せっかく分散投資していても、その内訳が適切でないと分散投資の効果は得られない。

例えば、国内株式という資産クラスを考えてみよう。複数の企業に分散投資しても、投資先がすべて自動車産業の会社とすると、分散投資の効果は限定されるだろう。

アセットアロケーションを決める際の3つの視点

アセットアロケーションは資産の配分を大まかに決め、ポートフォリオではそれぞれの資産クラスの詳細な組み合わせを考えることになる。したがって、まずはアセットアロケーションを考え、次にポートフォリオを組むのがセオリーである。

ここではアセットアロケーションを決める際に考えるべき要素を解説する。

アセットアロケーションのための視点1:リスク許容度

リスク許容度とは、その人が「どの程度のリスクなら受け入れられるのか」、その度合いのことである。

例えば、投資資金が1,000万円あるとしよう。資産が700万円に減っても、投資の結果だから仕方ないと割り切れる人もいれば、100万円の損失で夜眠れなくなるほどのストレスを感じる人もいる。前者は比較的リスク許容度が高く、後者はリスク許容度が低いと言える。

リスク許容度が高い場合は、ハイリスク・ハイリターンが期待できる海外株式やリート(不動産投資信託)などへの資産配分を増やせる。一方、リスク許容度が低い人のアセットアロケーションは、現金・預金や国内債券が中心となるはずだ。

アセットアロケーションのための視点2:投資の目的

なぜ投資をしたいのか、その目的も明確にしておく必要がある。一般的には、老後資金の確保や住宅購入の頭金、教育費などが考えられるが、他にも起業や海外旅行のためなど、目的は人それぞれのはずだ。

目的が決まると、それを達成するためにいくら必要なのか、いつまでに達成すべきなのか、どの程度リスクが取れるのかがより具体的になる。

アセットアロケーションのための視点3:運用期間(年齢)

どれぐらい運用期間が取れるのかも大切な要素だ。特に、目的が老後資金の場合は、自分の現在の年齢によって取れるリスクは変わってくる。

20代、30代であれば、投資資産が一時的に目減りしていても、その回復を待つ時間が十分にあるし、万一損失が確定したとしても今後の収入でカバーできる可能性は高い。

一方、60代で収入が年金のみだと、投資で損失が出ており売却したくないタイミングでも、生活のために資産を切り崩さなければならないこともあるだろう。また、いったん損失が出ると老後の資金計画を下方修正しなければならないだろう。

したがって、年齢が上がるにしたがって、アセットアロケーションは安全な資産クラスを中心としたものに変更するのが望ましい。

アセットアロケーションの具体的な組み立て方

投資の目的やリスク許容度などを理解したら、具体的にアセットアロケーションを行ってみよう。

アセットアロケーションの組み立て方1:リスクとリターンに見合った資産クラスを選ぶ

運用期間と目標金額が決まれば、当然だがその目標を達成できる資産クラスを選ばなければならない。そこで必要なのが、資産クラスごとのリターンやリスクといった特性を把握することである。

ここでは代表的な資産である「現金・預金」「債券」「株式」「リート(不動産投資信託)」の特性を見てみよう。

▽資産クラスごとのリスクとリターン

資産クラスリターンリスク
現金・預金低い低い
債券国内低い 〜 やや低い低い 〜 やや低い
海外やや低い 〜 中程度やや低い 〜 中程度
株式国内中程度やや高い
海外やや高い 〜 高い高い
REIT(リート)やや高いやや高い 〜 高い
※筆者作成

リターンは狙いたいが、リスクは取りたくないというのは、誰もが思うところだ。しかし、投資の世界では、高いリターンが期待できるものほどリスクは高く、リスクが低ければ期待できるリターンも低いのが常識である。

実際のアセットアロケーションでは、目標とするリターンだけではなく、自分が取れるリスクなども考えて資産クラスを配分することが大切である。

アセットアロケーションの組み立て方2:必要に応じて分散投資を検討する

アセットアロケーションは、基本的には上記で紹介した伝統的な資産クラスで行う。

さらに、世の中には金・プラチナやコモディティ、仮想通貨など、さまざまな資産クラスもある。必要に応じてこれらも分散投資に加えることで、よりリスクを軽減することができる可能性もある。

ただし、新たな資産クラスの組み入れを検討するときは、その資産クラスがどのような特性を持っているか、しっかりと把握することが大切だ。

アセットアロケーションに基づいたポートフォリオの組み立て方

アセットアロケーションが決まったら、具体的な金融商品を選んでポートフォリオを組み立てる。ポートフォリオの目的は各資産クラスのパフォーマンスの最適化である。

ポートフォリオにおいて、具体的な金融商品を決める際の視点

特定の資産クラス内でポートフォリオを組む場合でも、金融商品によって特性が大きく異なることは珍しくない。

例えば海外株式という資産クラスの場合、先進国の株式と新興国の株式ではリスク・リターンは異なる。また、国内株式に限定しても、IT産業と食品産業では特性が異なるのは理解できるだろう。

具体的な金融商品を選んでポートフォリオを組む場合、こういった投資地域や業種などを分散させることで、より分散投資によるリスクの軽減効果が高まる。

他にも、投資対象が円建て・外貨建てのどちらなのか、上場している市場は成熟市場か、それとも成長市場なのか、なども検討項目となる。

アセットアロケーションが手間……そう思う人向けの投資商品は?

アセットアロケーションによる分散投資はリスクを軽減するのに有効だが、いざ資産の配分を考え、実際に各資産クラスの商品を買う作業は、時間も手間もかかるものだ。

ここではアセットアロケーションの手間を減らす投資商品を紹介する。

アセットアロケーションの手間を減らす金融商品1:投資信託のバランス型ファンド

投資信託とは、「投資家から集めた資金を、運用の専門家が株式や債券に分散投資する商品」である。それぞれの投資額に応じて、投資家に運用成果が分配されるという仕組みである。

投資信託には、株式のみや債券のみなど、1つの資産にのみ分散投資するものがある一方、複数の資産や市場にバランスよく投資するものもある。後者の投資信託は「バランス型ファンド」と言われる。

さらにバランス型ファンドのなかには、国内株式と国内債券の2つの資産クラスに分散しているものから、海外株式、海外債券を加えた4つの資産クラスに投資するもの、さらにREIT(リート)を加えているものまで、さまざまな種類がある。

例えば、自分が国内外の株式と債券で投資の配分を行いたい場合、国内外の株式と債券の4つの資産クラスに分散投資しているバランス型ファンドを1本選べば、手間をかけずアセットアロケーションを行えるわけだ。

しかし、各資産クラスの配分の割合は、投資信託を運用している専門家が決めるため、自分で関与できない点には注意が必要である。

アセットアロケーションの手間を減らす金融商品2:単一の資産クラスで構成される投資信託

株式のみ、あるいは債券のみに分散投資する投資信託は、アセットアロケーションの資産クラスの配分を自分で決めたい場合に有効である。

バランス型の投資信託では、株式50%、債券50%のように、配分の割合はあらかじめ決まっている。しかし、株式のみの投資信託と債券のみの投資信託を組み合わせると、この配分を自分で決めることができる。

例えば、100万円の投資資金のうち、株式のみの投資信託に70万円、債券のみの投資信託に30万円を配分すると、アセットアロケーションは株式70%、債券30%となる。

バランス型よりもアセットアロケーションを行う手間は少し増えるが、よりリスクとリターンを調整しやすくなる。

アセットアロケーションの手間を減らす金融商品3: ETF

アセットアロケーションの手間を減らすためには、ETF(上場投資信託)を組み入れるのも有効だ。ETFは、証券取引所に上場し、TOPIXなどの株価指数に連動するパフォーマンスを目指す投資信託である。

ETFは投資信託の一種だが、上場株式と同じように売買できる点や、一般の投資信託に比べて信託報酬が低く設定されているなどの特徴を持つ。

ただし、現在では一般の投資信託の信託報酬も下がってきており、どちらが良いとは一概には言えなくなってきている。

まとめ:投資の大損失は「アセットアロケーション」で避けられる

投資で想定されるリスクを抑えるために、アセットアロケーションを考え、ポートフォリオに落とし込むことの必要性を紹介した。アセットアロケーションやポートフォリオについて考える際には、リスク許容度、投資の目的、そして年齢を考えることが何より大切である。

この3つの視点を考慮し、資産クラスや具体的な金融商品を選ぶことになる。しかし、すべてを1から考えるのは相応の労力と時間が必要だ。少しでも手間を省きたいのなら、バランス型の投資信託や一般の投資信託、ETFなどの利用も検討したい。

文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所