SX実現に向けた課題

現代企業にとってSXの必要性は高いが、実現に向けては課題も存在している。ここからは国内企業に絞って、中小経営者が押さえたい2つの課題を解説する。

投資家との相互理解

SXは中長期的に取り組むものであり、短期的な利益・業績には結びつかないケースも多い。そのため、企業からすると投資家の理解を得ることが難しく、積極的な施策を打ち出しにくい側面がある。

経済産業省も前述のレポート内で、「投資家からの理解を得にくいテーマ」として次の3点を挙げている。

○投資家からの理解を得にくいテーマ
・多角化経営や、複数事業におけるポートフォリオマネジメントの在り方
・「種植え」に関する取り組み(新規事業やイノベーションに関わるもの)
・経済的価値と社会的価値の両立に向けた取り組み

上記の点を理解してもらわない限り、企業が本格的なSXを進めることは難しい。そのため、企業側は対話の機会を積極的に設けて、投資家のメリットや方針を説明することがポイントになる。

SXではこのようなコストも含めて、全体のプランを組み立てる必要があるだろう。

人的または時間的なコスト

SXは全社的に取り組むものであり、実現に向けては以下のようなプロセスが必要になる。

○SX実現に必要なプロセス
・企業の方向性や存在意義の明確化
・長期経営計画などの戦略プラン策定
・マテリアリティ(重要課題)の設定
・ガバナンスの整備

上記の通り、SX実現には多くの人的または時間的なコストがかかる。特に人材が限られた中小企業では、SX実現と本業の両立が難しいケースもあるだろう。

そのため、SXでは具体的な施策・取り組みだけではなく、全プロセスの進め方を考えることも重要だ。

SXの事例

SXの計画を立てる前には、すでに成功した事例から明確なイメージをつかんでおきたい。ここからは有名な事例のうち、中小企業が参考にしたいものを3つ紹介する。

【事例1】環境再生型食料システムの推進/ネスレ日本

大手食品メーカーのネスレ日本は、環境再生型の食料システムの推進に力を入れている。

2019年には主力商品のキットカットにおいて、プラスチック製の外装を紙製に切り替える方針を示した。菓子メーカーの主力商品としては国内初の試みであり、この施策によって年間380万トンのプラスチック削減が実現される見込みだ。

同社はパーパス(存在意義)として「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」と掲げており、ほかにもさまざまな角度から環境問題にアプローチしている。

【事例2】社会問題に取り組むためのブランドを新設/富士通

総合エレクトロニクスメーカーである富士通は、企業パーパスとして「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」を掲げている。その一環として、同社は2021年に自社ブランド「Fujitsu Uvance」を始動させ、社会問題の解決にフォーカスした事業を進めてきた。

同社のSXは、公式サイト上で背景や目的が細かくまとめられているため、外部から見ても内容が分かりやすい。また、行動規範や価値観を見ると、全社的な取り組みであることもうかがえる。

【事例3】6つのマテリアリティを設定/住友商事

大手総合商社の住友商事は、社会とともに持続的成長をするためのマテリアリティ(重要課題)として次の6つを設定している。

○住友商事のマテリアリティ
・地域環境との共生
・地域と産業の発展への貢献
・快適で心躍る暮らしの基盤づくり
・多様なアクセスの構築
・人材育成とダイバーシティの推進
・ガバナンスの充実

例えば「地球環境との共生」では、再生可能エネルギー事業やリユース蓄電池プロジェクトに取り組んでいる。本業とうまく組み合わせた事業・プロジェクトも多いため、同社の取り組み事例を見るだけでもプラン策定の参考になる。