この記事は2022年10月4日に「第一生命経済研究所」で公開された「9月短観から見た22年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=NicoElNino/stock.adobe.com)

目次

  1. 上方修正も下期減益計画は変わらず
  2. 売上高大幅上方修正の「鉱業」「通信」「物品賃貸」
  3. 経常利益大幅上方修正期待は「運輸」「サービス」「非鉄金属」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性も

上方修正も下期減益計画は変わらず

2022年10月3~4日にかけて公表された9月短観の大企業調査は、2022年8月下旬~9月下旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1,900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、2022年10月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、9月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、2022年度は下期にかけてプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも上方修正となっている。

一方、経常利益を見ると2022年度上期・下期とも前回から上方修正となったものの、2022年度下期は減益計画になっている。このことから、企業は四半期決算発表で2022年度の企業業績見通しを引き続き慎重に出してくることが予想される。

第一生命経済研究所
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つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で上方修正される一方、経常利益については引き続き下期が減益計画になっているということである。

しかし、今年の夏場以降は電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の出荷在庫バランス(出荷前年比―在庫前年比)のマイナス幅が縮小しており、半導体を中心とした部品不足が最悪期を脱しつつあることから、景気循環的に最悪期を脱しつつあることが経常利益計画上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。

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売上高大幅上方修正の「鉱業」「通信」「物品賃貸」

続いて、9月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は2022年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

結果を見ると、2022年度は「小売」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「鉱業・採石業・砂利採取業」で+16.4%である。それに続くのが「通信」の同+9.3%、「物品賃貸」で同+4.0%である。

まず、「鉱業・採石業・砂利採取業」や「石油・石炭製品」、商社を含む「卸売」等の上方修正については、ロシアのウクライナ侵攻に伴う鉱物性燃料や金属の世界的な供給不足に伴う価格上昇や代替需要の増加が価格転嫁された可能性が推察される。

また、「通信」の上方修正は、某通信端末の販売価格引き上げが計上された可能性が推察される。一方、『物品賃貸』の上方修正は機械器具や自動車、スポーツ・娯楽・映画・演劇用品等の物品を賃貸する事業所が分類されることから、コロナからの経済正常化や世界的な部品不足の緩和等により、供給の拡大を見込んでいることが推察される。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

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経常利益大幅上方修正期待は「運輸」「サービス」「非鉄金属」

続いて、9月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは新型コロナに対する国民の恐怖心低下や観光支援策再開等による経済正常化を期待する「運輸・郵便」「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」となる。それに続くのが、原燃料価格の下落などにより交易条件の改善が期待される「非鉄金属」や「石油・石炭製品」となる。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、新型コロナに対する国民の恐怖心低下や観光支援策再開等よる経済正常化期待の恩恵を受けることが期待されるサービス関連産業に加えて、一次産品価格下落の恩恵を受けやすい製造関連等が指摘できる。

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為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、9月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料5にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で122.7円/$、ユーロ円で133.0円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは140円台を大きく上回っている。

中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「輸送用機械」と「はん用機械」となっている。

なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれており注意が必要だが、特に輸出関連の製造業が122円/$台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後はコロナの感染状況やロシアのウクライナ侵攻の動向、更には米国の景気後退懸念などに伴うリスクオフを通じて、世界的な金融引き締めに対する警戒感が急速に萎むなどして為替レートの水準が急速に円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高水準に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が大幅に修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

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第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣