トヨタ自動車株式会社や三菱重工業株式会社のCMなど企業の広告でも頻繁に耳にするようになったカーボンニュートラルという言葉。何となく理解しているつもりでも、「具体的な取り組みや正しい意味を聞かれるとうまく答えられない」という人は多いのではないだろうか。

本稿では、カーボンニュートラルとはそもそも何を指しているのか、なぜ今の社会で大きく取り上げられるようになってきたのかなど基本的な知識を解説する。あわせて世界や日本、企業の取り組みや動きについても紹介していく。

目次

  1. カーボンニュートラルとは?
    1. カーボンニュートラルの目的
    2. カーボンニュートラルと気候変動の関係
  2. カーボンニュートラルの実現に向けた技術の進歩
  3. カーボンニュートラルのメリット
    1. 地球温暖化問題の抑制
    2. 企業イメージの向上
    3. 光熱費の削減
    4. 資金調達の優位性獲得
  4. カーボンニュートラルのデメリット(問題点)
    1. 初期費用が高い
    2. 検証が難しい
    3. 推進人材の確保が困難
  5. カーボンニュートラルの動向
    1. 世界の動き
    2. 日本での取り組み
  6. カーボンニュートラルの企業による具体的な取り組み
    1. 大手企業
    2. 中小企業
  7. カーボンニュートラルとクレジット
    1. 国際的な活用
    2. 国内でのカーボンクレジット
  8. カーボンニュートラルの取り組みは身近なところから
  9. カーボンニュートラルでよくある質問
    1. Q.カーボンニュートラルとはどういう意味?
    2. Q.カーボンニュートラルの仕組みは?
    3. Q.カーボンニュートラルではどのような取り組みがある?
    4. Q.カーボンニュートラルの具体例は?
    5. Q.カーボンニュートラルはどうやって実現する?
カーボンニュートラルとは? 今さら聞けない基本的知識と取り組みへの参考情報をまとめて解説
(画像=picturecells/stock.adobe.com)

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること(出典:環境省)」
と定義されている。

カーボンニュートラルは、英語のCarbon neutralityであり、和訳すると「炭素中立」を意味する。プラスマイナスをゼロとし、「中立」を保つことで結果的に環境にこれ以上の負荷を与えないことを目指している。現代社会の営みにおいて温室効果ガスの排出は、どうしても避けられない。

排出を完全に抑えるのが現実的に不可能である以上、排出量と吸収・除去量の差し引きをゼロにすることでニュートラルな状態を保つのが最も合理的な解決法といえるだろう。日本では、2020年10月に以下のようなカーボンニュートラル宣言を公布した。

「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」
出典:首相官邸

上記の宣言では、CO2(二酸化炭素)だけではなく、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスなどを含む温室効果に関わる幅広い物質が対象だ。2021年11月現在時点においては、日本を含めた154ヵ国と1地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明している。

カーボンニュートラルの目的

カーボンニュートラルの目的は、地球温暖化の抑制だ。わが国の宣言では、さまざまな温室効果ガスを対象としている。しかし実際は、日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2だ。つまり「カーボン=CO2」の削減による効果が最も高い。カーボンニュートラルでは、CO2排出量および吸収量をプラスマイナスゼロにし、大気中の炭素量を一定とし、できるだけ「自然な状態」に戻していく。

CO2は、炭素(C)の酸化物だが炭素は地球上のいたるところに存在する物質だ。地表・地中・水中で循環を行っており基本的に一定量が保たれている。例えば植物は光合成でCO2を吸収し、動物は呼吸によってCO2を排出、海洋はCO2を吸収し大気に放出されるCO2の量を調整しているのだ。このように自然界では、物質のバランスを保つ自動システムを持っている。

しかし人間による経済活動では、地中の化石燃料を掘り起こし本来固定されるべきCO2をせっせと大気に放出してきた。人間社会の発達に伴い自然が持っているサイクルの力を超えたCO2が放出された結果、炭素濃度が上昇し続けている。

カーボンニュートラルと気候変動の関係

カーボンニュートラルが世界的な取り組み、課題となった背景には、地球温暖化による自然環境の激変と気候変動が関係している。先述したようにCO2は、自然界に存在するもので人間が化学的に生み出したわけではない。もともと地球上の大気には、温室効果ガスが一定量含まれており、これが命を育む要因にもなっている。

温室効果ガスが赤外線の吸収と放出を行うことで地表の大気を温め、この働きによって生物の生息が可能な温度が保たれる。人間を含めた生き物が存在するための環境の維持には、温室効果ガスが不可欠だ。しかし近年温室効果ガスの濃度が高まることで環境異常が誘発されている。温室効果ガスは、さまざまなデータから地球温暖化の要因の一つに挙げられる。

18世紀の産業革命以降、温室効果ガスが増加している。経済成長中にある国のCO2排出量は、特に顕著な傾向にあり国の経済成長とCO2の排出量には明確な相関関係が見られる。

CO2だけが温暖化の要因ではないにしろ、地球環境に深刻な影響が表れており、多くの陸地で猛暑日や熱波が増えているのだ。北極圏の気温は、地球平均の2倍のペースで上昇を続けている。

2022年の夏は、欧州各国で異常な猛暑が観測された。英国では、観測史上最高となる40度を超えている。中国では、観測史上最悪の熱波により広大な長江さえ干上がる勢いだ。都市部における高温現象は、ただ暑いだけではなく社会活動に大きな影響を及ぼす。過去に例を見ない暑さに見舞われた英国では、空港滑走路の一部が隆起し線路が曲がるなど交通機関にもダメージを与えている。

日本でも熱中症による救急搬送が過去最多を更新するなど、連日暑さ関連のニュースを頻繁に目にするようになった。屋外での作業中に深刻な症状に陥るケースも頻発している。大規模な森林火災もその一つだ。

森林火災そのものは、気候変動が問題視される以前から自然発生が見られた。しかし近年の森林火災は、より大規模で長期的なものになってきている。自然発火の原因は、主に高気温や乾燥、落雷。温暖化により気温の高い状態が長く続くと土壌の水分を蒸発させ、樹木の枝枯れを誘発している。火が点いても本来一定地域で収まる火災が広い地域に拡大し大規模火災へと発展しやすくなっているのだ。

また温暖化は、感染症の増加にも関与しているといわれる。例えば「感染症を媒介する虫や生物の活動地域が温暖化の影響により拡大する」「気候の変化により菌やウイルスが存在しやすい環境が増える」など目に見えにくい脅威が確実に迫ってきている。さらに温暖化により永久凍土が融解し封じ込められていた未知のウイルスが出現するリスクも懸念されている。

気象では、大型サイクロンやハリケーン、台風発生の増加も目立つ。日本では、これまで台風の影響が比較的少ないといわれてきた地域でも災害を被る危険性が高まっている。以前は、目新しく感じられた「線状降水帯」といったワードも近年は耳にしない年がない。激甚化する自然災害による人命および経済損失は、すでに計り知れない規模を示している。

世界に目を向ければ干ばつによる食料不足で栄養不良や貧困、テロといった問題が深刻化する地域が広がっている。さらに氷河や氷床の融解による海面上昇でツバルやフィジー諸島共和国、マーシャル諸島共和国といった海抜が低い国では生活が脅かされる事態となり国家消滅の危険さえあり得る。地球温暖化の影響を受け絶滅危機に瀕している生物種は、4,000種以上(2020年時点)ともいわれる。

この現実に立ち向かわない限り、やがては人類もその仲間入りをすることになるかもしれない。