この記事は2022年10月19日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「アネスト岩田【6381・プライム】スプレーガン、空気圧縮機の開発系専業メーカー 海外販売伸長で過去最高の売上・利益を更新」を一部編集し、転載したものです。
アネスト岩田は、スプレーガンなどの塗装用機械・設備、圧縮機製品や真空機器等を開発・製造・販売するBtoBの機械メーカーだ。祖業のハンドスプレーガンで国内シェア7割超(*)を占めるなど、高い技術力と専門性で知られる。
また、現在21の国と地域に35の拠点を持ち、海外売上比率6割超のグローバル企業でもある。2022年3月期は過去最高の売上高、利益を更新。2022年4月1日付でトップに就任した深瀬真一社長に、同日からスタートした新中期経営計画の戦略などについて聞いた。
▼深瀬 真一社長
塗装機器製品国内トップ オイルフリー圧縮機が拡大
アネスト岩田は昭和元(1926)年、国産初の塗装用スプレーガンの開発・販売で創業。現在、スプレーガンなどの塗装機器製品や塗装設備製品を扱うコーティング事業と、空気圧縮機(コンプレッサ)や真空機器製品を扱うエアエナジー事業を手掛けている。売上構成ではコーティング事業が約4割、エアエナジー事業が約6割となる。
「もともと塗料は刷毛で塗っていたのですが、霧にして噴き付けるときれいに塗れる。そこで国内初となるスプレーガンの製造で創業しました。また塗料を霧状にするには圧縮空気が必要なため、空気圧縮機も自分たちで作りました。さらに空気の吸込み時に真空状態を得られることで、真空ポンプも開発するなど領域を拡大。今は塗装機器を組み合わせた、鉄道車両向けの大型塗装から、自動車部品など小物の塗装に関する設備の設計や施工も行っています」(深瀬真一社長)
国内外で1,200件以上の特許を取得し、多くの製品を市場に投入している。中でも1991年に開発した『スクロール圧縮機』は、潤滑油を使わない世界初の“オイルフリー”の製品だ。クリーンな空気を供給できることから、病院や食・飲料、薬品などの生産工場への納入を増やしている。
また静音性が高いため、研究開発施設や、電動の鉄道・バスをはじめとする車両搭載など、環境配慮型製品として需要が拡大している。
祖業のハンドスプレーガンは国内トップの70%以上のシェア、世界ではドイツのSATA社に次ぐ約25~30%のシェアを占める(*)。自動車の製造や補修に係る塗装や家電、金属製品、木工家具、皮革などへの色付けで多く使用。その他、塗料以外にも離型剤や接着剤、光触媒などの機能材や食用の液体の噴き付け用途もある。
一方空気圧縮機は、主に機械の駆動源として、世界中の産業、製造の現場で使用される大きな市場だ。スプレーガン(塗装機器)の世界市場約1,400億円に対し、空気圧縮機はその10倍の約1兆4,000億円といわれる。基本的にモノづくりを行う上で必須とされることから、地域を問わず、その需要は増加し続ける見込みだ。
「スプレーガンでは、国内トップ企業としてプライスリーダーになっています。加えて自社設備でアルミを溶かして成形し、最終製品までほぼ内製していますので、コストコントロールもしやすい。市場でしっかり収益を獲っていきたいと思います。一方空気圧縮機は、私どもの海外の金額シェアはまだ1%ほど。そこが2%になるだけで売上が倍になるわけですから、まだまだ成長の余地は大きい。海外売上を増やしていきたいと思っています」(同氏)
国外売上比率6割超 36年、1,000億円売上視野に
同社は1987年から海外展開を本格化させ、現在21の国と地域に35拠点を置いている。海外売上比率は2012年3月期に40%だったが、現在は62%まで伸長した。
2022年3月期の連結売上高は、前期比19%増の423億3,700万円、営業利益は同38.8%増の47億8,000万円。売上高、利益ともに過去最高を更新した。世界的な景気回復基調と同社施策の奏功により、海外市場が伸長。特に、2018年に子会社化した中国のSCR社の売上が好調だった。
中国上海市に本社のあるSCR社は、中・大型のコンプレッサ製造を得意とし、40カ国以上に世界展開する。小型コンプレッサが主力の同社と連携することで、扱うラインナップが小型から大型までに拡充。また東欧などSCR社の販路が加わったため、双方の販売チャネルが拡大した。
「工場では1つの大きなコンプレッサでまかなうケースと、各工程で小さいものを分散設置して使う考え方があります。製品レンジが拡大したことで、生産工場の圧縮空気使用状況に応じ、いろいろな提案が出来るようになりました」(同氏)
2022年4月、深瀬氏の新社長就任と同時に中期経営計画「500 & Beyond」がスタートした。2025年3月期に売上高500億円以上、営業利益55億円以上の計画と、2036年3月期には“売上高1,000億円を視野に!”という目標が示された。
「3年後の売上高500億円は通過点。その先となる700億円、1,000億円の売上体制を作る足固めが、今回の計画の核です」(同氏)
その実現には、既存事業のオーガニックな成長の上に、新規事業やM&Aをどう増やすかが鍵になるという。新事業では、例えばサービス事業の運営体制を見直し、機器の貸し出しやメンテナンスのサブスクリプションサービスを開始した。またM&Aについては、単純な売上高の積み上げなどは求めない。
「1+1を2ではなく3にする、シナジーが高い会社のチャンスがあれば、常に狙っていきます」(同氏)
高付加価値な高級スプレーガン
フラッグシップモデルのスプレーガン『WS-400』の最新モデル。イタリアの高級車フェラーリのデザイナーのピニンファリーナ社との協同設計。より精度の高い塗装を実現すべくデジタル式の空気圧力計を装備し、優雅なデザインと実用性を兼ね備える。2022年5月に欧州で先行発売開始。
ターンパイク箱根のネーミングライツ効果
ターンパイク箱根は神奈川県小田原市から箱根を経由し湯河原町に至る15km程の有料道路。標高1,000m超の大観山山頂は富士山と眼下に芦ノ湖が見える絶景スポットだ。同社は2018年にネーミングライツを取得。利用する車やバイクのユーザーに周知が進み、SNSによる投稿なども増加。リクルートにも効果を感じているという。
2022年3月期 連結業績
売上高 | 423億3,700万円 | 前期比 19.0%増 |
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営業利益 | 47億8,000万円 | 同 38.8%増 |
経常利益 | 55億7,200万円 | 同 31.0%増 |
当期純利益 | 35億4,100万円 | 同 35.0%増 |
2023年3月期 連結業績予想
売上高 | 440億円 | 前期比 3.9%増 |
---|---|---|
営業利益 | 49億円 | 同 2.5%増 |
経常利益 | 56億5,000万円 | 同 1.4%増 |
当期純利益 | 35億8,000万円 | 同 1.1%増 |
*株主手帳2022年11月号発売日時点