特集「不動産業界トップランナーに聞く アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

2012年に創業し、2014年には日本初の不動産特化型クラウドファンディングサービスを開始し、急成長しているロードスターキャピタル株式会社。企業と顧客がWin-Winとなる事業の仕組みを目指す同社が、勝率の高いビジネスを実現するために実践しているさまざまな取り組みについて聞いた。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

ロードスターキャピタル株式会社
岩野 達志 (いわの たつし)
――ロードスターキャピタル株式会社代表取締役社長
1973年生まれ。不動産鑑定士、宅地建物取引士。
1996年に一般財団法人日本不動産研究所に入所後、不動産鑑定業務・コンサルティング業務に従事。
2000年にゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン、2004年にロックポイントマネジメントジャパンLLCに転職後、2012年にロードスターキャピタル株式会社設立。日本初の不動産特化型クラウドファンディングサービス『OwnersBook(オーナーズブック)』を開始し、2017年に東京証券取引所マザーズ市場に新規上場、2022年にプライム市場へ移行。

不動産とフィンテックという2つの領域で、3つの事業を柱に成長

― ロードスターキャピタル様の現在の事業と、立ち上げからこれまでの変遷を簡単にご紹介ください。

ロードスターキャピタル代表・岩野氏(以下、社名・敬称略):当社グループは現在、不動産投資領域とフィンテック領域という2つの領域にまたがってビジネスを展開しています。不動産投資領域のメインはコーポレートファンディング事業で、不動産を購入し、管理運営をしながら賃料収入を得て、最適なタイミングで売却することで適正な売却益を確保しています。当社グループで最も売上の大きい事業です。

ロードスターキャピタル株式会社
(画像=ロードスターキャピタル株式会社 提供)

2つ目の柱は不動産投資領域のアセットマネジメント事業です。不動産を取得・管理・運営、売却するという点ではコーポレートファンディング事業と似ていますが、アセットマネジメント事業では資金の出し手が当社ではなく投資家であり、また物件はコーポレートファンディング事業で扱う物件よりもサイズが大きいことが多いです。

また、不動産投資領域では不動産に関する仲介コンサルティングも行っています。

3つ目の柱はフィンテック領域のクラウドファンディング事業で、『OwnersBook』というサービスを展開しています。

ロードスターキャピタル株式会社
(画像=ロードスターキャピタル株式会社 提供)

2012年、私を含めて3人でロードスターキャピタルを設立しました。設立当初はそれほど資金がなかったため、仲介やコンサルティング業務を行ってフィーを得ていましたが、その後ご縁があって自己資金で都内の中古ビルを取得する機会に恵まれました。それが、今のコーポレートファンディング事業の始まりです。

その後、これもまたご縁ですが、アメリカで上場している中国の会社から出資を受けたことを機に、海外で芽吹き始めていた不動産クラウドファンディングを知りました。クラウドファンディングの仕組みを活用すれば、個人も機関投資家が扱うような不動産に小口から投資できるというのです。これは逆に言うと、これまで機関投資家向けとされてきた不動産であっても個人投資家に紹介でき、個人から直接資金調達できるということでもあります。ここにクラウドファンディングがもつ大きな可能性を感じ、2014年に『OwnersBook』というサービス名でクラウドファンディング事業を始めました。

その後当社は2019年にロードスターインベストメンツ株式会社という子会社を設立し、2021年からはアセットマネジメントマネジメント事業も本格的な成長軌道に乗り、グループとして順調に育っていると思っています。

― いまお話いただきましたが、ロードスターグループ様の展開されているサービスに、1万円から始められる不動産特化型クラウドファンディング『OwnersBook』がありますが、こちらのサービスの特徴や実績、不動産業界における強みをお聞かせください。

岩野:2014年に当社が立ち上げた『OwnersBook』は、不動産特化型としては日本初のクラウドファンディンサービスです。『OwnersBook』では「貸付型」と「エクイティ型」という2種類の投資案件を提供していて、ほとんどの案件は、お金を借りたい企業に対して不動産等を担保として融資する「貸付型」です。「貸付型」は一口1万円から投資可能で、案件の多くは実績利回り(IRR:年換算・内部収益率)で4%前後です。「エクイティ型」の実績は2件のみですが、こちらの実績利回り(IRR)は22.8%、10.4%と非常に良い結果となりました。

『OwnersBook』の強みは、当社グループが不動産投資領域で日々不動産の情報に接していることから、業界の最前線の情報を入手でき、その情報を『OwnersBook』の運営に活かせることです。また人材面でも、IT領域を母体とするクラウドファンディング業者では採用することが難しい不動産金融の専門人材が当社グループには揃っており、そうした人材の意見を反映して『OwnersBook』の案件組成をしていますので、質や内容が高く、リスクを限定するような形で案件を提供できていると自負しております。

投資型クラウドファンディング業界では過去、さまざまな企業がサービスを展開してきましたが、専門性が高くない会社は自然に淘汰されたり、大手の会社でも不祥事が起きたりしました。他社が苦労する中でも当社グループがプライム市場に上場できたことで一定の信頼をいただけたと思っています。

― ロードスターキャピタル様がビジネスを行う上で最も重視するポイントは何ですか?

岩野:企業と顧客のWin-Winの関係と言いますか、信頼関係の構築を重視しています。ビジネスの報酬は相手に感謝されることで得られるものと思っています。そのため、収益は後からついて来ればよいと考えて目先の利益を追うことはしていません。それは、創業当時から変わっていません。

特にクラウドファンディング事業は相当な規模でやらなければ利益にならず、いつ黒字になるかもわからないものです。許認可も含めて不確実なこともあり、短期的に見ると収益性は乏しく見えるかもしれません。しかし10年後、20年後を見据えた長期的な目線で見れば、他の事業との相乗効果が出てくる時が必ずやってくると思っています。その点も含めて、目先の利益ではなく、長期的な視点を持った経営を心がけています。

― 『OwnersBook』のようなフィンテック事業のサービスを立ち上げられて、苦労されたことはありますか?

岩野:いっぱいありますね(笑)。でも大きいのは2つです。1つは『OwnersBook』立ち上げ時からシステム内製化に取り組んだことです。『OwnersBook』立ち上げ時、当社にいたメンバーは不動産金融中心の経験を持つメンバーが多く、また世間的にも不動産テックという言葉はまだない位でした。どのようなエンジニアが優秀なのかもわからない中でのIT人材の採用や、ITの要素をどのように不動産や金融の分野に融合させるのかはまさしくゼロからの試行錯誤で、とても苦労しました。

もう1つの大きな苦労は、当局との調整でした。私たちが『OwnersBook』を立ち上げた頃は日本でクラウドファンディングというビジネスの知名度があまりなかったので役所側も試行錯誤で、いろいろな意見や指導をいただきました。その中には納得のいかない指導もありましたが、特に違和感があったのは「貸付型クラウドファンディングでは融資対象を特定してはいけない、案件化する際は匿名化・複数化してファンド仕立てにしなければならない」というルールでした。

そのようなルールでは、投資家は自分のお金が何に投資されているのか分からない状態です。投資家保護の真逆をいくルールのため当局に問い合わせたところ、融資対象を明確にすると、投資家が貸金業を営んでいると判断されるリスクがあるという旨のコメントが返ってきました。私たちは役所の方たちと継続的に話し合いをしましたが、なかなか受け入れてもらえず、貸付型クラウドファンディングは担保物件も債務者も分からない、ブラックボックスのような投資商品のまま長い時間が経過してしまいました。

そうこうしているうちに当然、そのルールを悪用する業者も出てきました。業界で不祥事が次々と出てきたことから数年後には国の方針が変わり、現在は投資判断に必要な情報をより開示できるようになっています。フィンテック事業のような新しいサービスを始める際は、現場をよく知る事業者が適正と考えるルールで進められるとは限らず、当局との調整に長い時間を要する可能性があるという点は覚悟しておく必要があると思います。

ホームとなる地場で情勢に負けないビジネスを行う

― ロードスターキャピタル様はクラウドファンディング事業、コーポレートファンディング事業、アセットマネジメント事業、仲介コンサルティング事業という4つの事業を展開されていますが、近年、ロードスターキャピタル様のお客様が抱える問題や課題にはどのようなものがありますか?

岩野:どの事業にも共通して言えることかもしれませんが、世の中の動きとしてどこも資金が余る時期を迎えています。BtoBで言えば、機関投資家や事業会社を含めて「投資案件や投資先がなくて困っている」または「かなり利回りが下がっているので投資するか待つべきかを迷っている」というお話をよく聞きます。

当社グループはアセットマネジメントというかたちで投資家の物件購入のサポートもしています。良い物件が少ない中でしっかりと物件を吟味し投資家のニーズに応えることは、ハードルが高いものの非常にチャレンジングなことだと思っています。

『OwnersBook』も同じで、お客様のニーズに見合う物件を探すのは大変です。日本はまだ金融緩和の中にあり、伝統的な金融機関が前向きに融資している状況です。こうした状況では、新サービスはどうしても金利の面などで勝負しづらく、リスクリターンの見合った案件の組成には苦労しています。

― 昨今の新型コロナウイルスの流行を始め、空き家問題や2022年問題、高齢化社会の加速、若年層の人口減少など、日本全体の問題が不動産投資業界に与える影響についてどのようにお考えですか?

岩野:なかなか難しい問題ですが、日本全体で考えなければならないタイミングだと思います。一方で私たちがフォーカスしているのは東京都心部で、東京は今でも人口の流入があり不動産投資熱は非常に高いです。今後数年は活況をキープできるだけの資金が集まっていることもあるため、当社としてはリスク管理という意味も含めて、東京を中心にビジネスを行っていきたいと考えています。

― さらにミクロな視点で、現在は経営課題や事業課題のようなものはありますか?

岩野:会社も大きくなってきたので、「東京だけでなく、地方や海外にも目を向けないのか」というご意見も出てくるのではないかと思っています。

一方で、私はホームアンドアウェー方式と呼んでいるんですが、土地勘のあるホームでのビジネスのほうが圧倒的に勝率が高いという事情から、ホームの中でビジネスをどれだけ拡大していけるかな、とも思っています。会社の規模がもっと大きくなる過程で東京以外のエリアに出たり、多少リスクを取ったりするという選択肢はありますが、現在はまだ東京にフォーカスしている状況です。

アウェーで戦うためには、そこにホームとなる基地を作る必要があると思います。大阪でも名古屋でも、いきなりそのエリアで最良の物件を探そうとしてもなかなかうまくいかないでしょう。その土地に根差した支店を設けて、そこでしっかりと物件情報を取れるチームを作ってからでないと勝負には勝てないと考えています。

独自の資金調達インフラを構築し不動産マーケット全体を盛り上げる

― ロードスターキャピタル様の5年後、10年後の目標や未来構想はありますか?

岩野:当社は中期経営計画を策定していまして、3年後には売上・利益ともに2倍を目指しています。これは、社内でも共有されています。

5年後、10年後は当然ながら規模を拡大したいと考えており、過去に不動産投資ビジネスで規模を拡大していった企業と同じ道を辿るのかなと思っています。

ロードスターキャピタル株式会社
(画像=ロードスターキャピタル株式会社 提供)

一方で当社の強みは、やはり『OwnersBook』という個人から資金調達ができる仕組みがあることだと思っています。不動産会社は金融機関の動向の影響を受けがちで、リーマンショックのような金融クラッシュがあると大きな打撃を受けてしまいますが、当社は金融機関にお世話になりつつも自社サービスで個人から資金を調達するインフラも構築してきました。

『OwnersBook』での調達額が現在の10倍になれば、不動産投資の考え方もかなり変わってくるのではないかと思っています。例えば、今は1ヵ月以上かけて金融機関から融資を取り付けて不動産を購入するのが一般的ですが、資金調達の方法が変われば今日物件を申し込んで明日買えるようになるかもしれません。

その意味で、この新しい資金調達の仕組みは不動産業界における革新になるのではないかと考えており、当社では資金調達のあり方を非常に大切にしています。

あと、まだ法律的な課題も多いのですが、STO(セキュリティトークンオファリング)にも興味があります。不動産が本当に小口化して流動性が高くなり、所有権の売買が簡単にできるような仕組みが実現すれば非常に合理的になりますし、管理の部分も強化していけば不動産マーケット自体がさらに盛り上がると思っています。

ブロックチェーン技術を使いこなせるような法整備やマーケットの整備が進めば、不動産業界の社会的地位向上にもつながるのではないでしょうか。

― 目標に向けて現在取り組んでいる自社内の動き、または取り組もうとしている事業やサービスはありますか?

岩野:社内ビジネスの効率化や合理化には力を入れています。当社は社内にエンジニアもいますので、改善案を実際に取り入れて自分たちの専門分野に反映できるという面では、他の不動産会社より恵まれているかもしれません。

先日、とある経済誌で発表された「1人当たりの利益率ランキング」という企画で当社が5位になりまして、1人当たりの利益は約1億円でした。現在もそのような面でも効率的にやっているつもりではありますが、従業員の幸福というものも含めて、仕事を楽しみ、それが利益につながるような会社づくりをしていきたいと思っています。

事業の面では、不動産投資事業とクラウドファンディング事業は近いものの、相乗効果はまだまだ期待できると思っています。例えば、先ほど申し上げた資金調達の部分でクラウドファンディングをもっとダイレクトに活かせれば、当社独自の価値もより顕在化していくのではないかと思っています。

日本全体の投資リテラシーを上げることが経済成長につながる

― これから本格的に不動産投資を始めたい、または現在行っている不動産投資のパフォーマンスを最大化するために何か変化が欲しいと考えている投資家の皆さまへ、ロードスターキャピタル様からメッセージをお願いします。

岩野:一般的に不動産投資ではまとまった金額が必要になるので、どうしても入口のハードルが高くなりがちで、また勉強する必要もあるため敬遠する方もいらっしゃるかと思いますが、何事もチャレンジしていただきたいと思います。世界的な視点で見ると日本人はチャレンジ精神がなくなって、経済の成長性が感じられないムードになっているように感じます。

リスクを取るのは勇気が必要ですが、取れる範囲のリスクを吟味しながらチャレンジしていただきたいと思います。我々には8年以上も運営していて十分なトラックレコードがある『OwnersBook』のようなサービスもありますし、こういった少額投資サービスにチャレンジする中で投資の考え方やリスクの範囲などを学び、ゆくゆくは大きな不動産を買うというように経験を積まれていってもよいでしょう。未経験でいきなり2億円の投資用マンションを買うのは難しいと思いますが、若い世代の方が投資に触れていくことが、日本の再成長につながればよいと思いますね。

『OwnersBook』はリスク商品ではありますが、投資後は配当と償還を待つだけで、運用は難しくはありません。銀行口座に眠っているお金を投資に向けるきっかけになるサービスであると思っており、当社としても、そのようなニーズに対してサポートさせていただければと思っています。