本記事は、中野信子氏の著書『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
グチをまったく言わない。
── 周りの人や環境のせいにしない
貴族家系であるがゆえに味わった苦労の連続
イスラエルのヘブライ大学で言語学を教えている、イタリア系ユダヤ人のSさんは、20ヶ国語を操る天才。歴史や宗教にも造詣が深く、何を聞いても何でも知っているという感じで、「本物の博士というのは、こういう人を指すんだろうなあ」と思わせる人です。
また、Sさんは爵位(伯爵)を持っており、イタリアとイスラエルに自宅があります。人懐っこく、とてもフランクなので、あまり貴族っぽくは感じないのですが。
こんな風に彼を紹介すると「家柄が良く、資産にも恵まれているから、学問を存分にやらせてもらえたのだろう。天才になって当然だ」と思う人も多いかもしれません。
ですが、Sさんの少年時代は、恵まれたものではありませんでした。
確かに爵位持ちではあるのですが、彼は幼い頃に両親を失っています。その後、養父母のもとで少年時代を送るのですが、それはとても過酷なものだったと聞きます。彼が自由にできる財産は一銭たりともなく、不条理な扱いを耐え忍んで、生きていかなければならなかったそうです。
貴族社会のことは私にはよくわかりませんが、本来、彼が継ぐべきものを狙う大人たちから自分の身を守っていくというのは、並大抵の苦労ではなかったでしょう。
彼の学者としての能力、また彼の現在の地位や資産は「家柄が良いから得られた」あるいは「親から与えられた」というようなものではなく、彼がたゆまぬ努力をして、着実に築いてきたものなのです。
どんなに悪い人からも学ぶという攻めの姿勢
Sさんは厳しい少年時代を送ってきたにもかかわらず、その明るさや負けない性格をねじ曲げられることなく、逆境に耐えて学問の世界で成功できたのは、なぜだったのでしょうか?
私は、彼の強さの秘密は「人のことを悪く言わない」という一点に尽きると思います。
「人のことを悪く言わない」という姿勢は一見、受け身的ないわゆる「草食系」のように思えるかもしれません。でもこれは、ちょっと見方を変えてみれば、「どんな状況にあっても、それを拒絶せず、自分の成長の源にしていく」という力強さがなければできない生き方であるともいえます。
むしろ逆に、どんな人からも、自分の血肉となるものを貪欲に吸収していこうという、究極の「肉食系」なのかもしれません。
Sさんは、逆境にあった少年時代に、どんな人からも学んで、自分の力にしていこうという、能動的な「攻め」の生き方を身につけたのです。これは困難に立ち向かうとき、誰のことも傷つけずに戦うことができる、最善の方法といえるでしょう。
これは、どんなに悪い状況でも、何か別の物事のせいにしないということでもあります。何かのせいにするというのは、例えばこんな感じです。部長が短気だから、せっかくうまくいっていた案件も途中でおじゃんになってしまった。自分はもともと運が悪い男だから、いい上司に恵まれない。今日は出勤するときに階段でつまずいたから、契約がうまくいかないんだ……、などなど。