デジタルツインの市場動向と今後の予測

デジタルツインの市場動向は、どのような現状にあるのだろうか。ここでは、デジタルツインの市場動向と活用について今後の予測を解説する。

世界的にデジタルツイン市場が拡大傾向

デジタルツインの市場規模は、2021年では103億米ドル(1米ドル147円換算で約1兆5,141億円)。2027年には546米億ドル(同レート換算で約8兆262億円)と大幅な拡大が予測されている。その場合、同期間の年平均成長率(CAGR)は31.7%も及ぶ。当初は製造業、航空宇宙産業、自動車産業が中心であった。

しかしここにきて小売、不動産、銀行・金融、ヘルスケアなどの業界へと需要が急速に拡大している。コロナ禍の影響を受けてデジタル化への急進が促されたことが大きな要因といえるだろう。

国内でのデジタルツイン活用

デジタルツインの活用分野は、日本国内でも世界の動きと同様に拡大を見せている。例えば医療分野では、医療機器の監視・保守や病院業務オペレーションなどデジタルツイン活用のさらなる可能性が広がる。今後は、個々の人の特徴をシミュレーションし投薬や治療に活かす個別化医療(パーソナル・ヘルスケア)への対応も可能となるだろう。

さらに疾患や臓器・器官のサイバー空間における複製や人口集団の複製への応用に期待がかかる。またマーケティング分野では「ヒトのデジタルツイン」に着目するケースも。対象となる顧客とAIの会話、カメラやセンサーを介したフィジカル的なデータ収集によりサイバー空間にユーザーの価値観などを再現したデジタルツインを構築する。

この方法を使えば個々人による微妙な価値観の違い、ユーザー自身も気づいていない価値観を従来よりも正確に把握できるようになるだろう。細分化する消費者ニーズに対して、的確に対応できる新たなマーケティング手法として注目されている。

デジタルツインの活用事例

最後にすでに実用化され成果を上げている各分野でのデジタルツインの活用事例を紹介する。

都市計画

・バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)
本事例では、「国家全土を丸ごと3Dバーチャルツイン化」という壮大な構想を実現化している。リアルタイムで都市情報を可視化、各インフラを整備する計画の最適化を遂行。国家全体でのエネルギー効率最大化、インフラオペレーションのリアルタイムでのモニタリング、物流の最適化や公共交通機関の最適化などが可能となる。

・PLATEAU
日本の国土交通省が中心となり全国約50都市の3Dデジタルツインを整備するプロジェクトだ。「3D都市モデルの整備とユースケースの開発、利用促進を図ることで、全体最適・市民参加型・機動的なまちづくりの実現を目指す。(PLATEAU)」という。都市全体を対象にシミュレーションできれば、より有効で具体的な災害対策や、人口減少に対応するコンパクトな街づくりへの対応もしやすくなるだろう。

建設業

建設業では、すでに設計・施工・維持管理における各工程をデジタルツイン化する活用法が広がっている。そのため効率的な工程管理や現場の安全性の確保、生産性の向上に寄与にすることが期待できるだろう。建築現場の遠隔監視によりリアルタイムの施工状況を可視化し作業の遅れや不備の発見への早期対応が可能となる。

製造業

製造業においては、デジタルツイン工場により設備や機器、建屋まですべてをデータ化で再現。電力消費量や状態をリモートで監視する。異常箇所のリアルタイムでの検知により、迅速な応・改善を実現する。熟練工の視点をデジタルツインで記録し、技術継承の課題解決に向けた取り組みも始まっている。

災害対策

災害対策の分野でもデジタルツインの技術が大きな貢献を果たす。サイバー空間に地形、ダムの形状、水位、上流の河川の情報、ダムが放出した水の推移などリアルなダムの状況を再現し、ドローンで撮影した映像、スマートダムのデータを5Gでリアルタイムに送信。氾濫・決壊の予測により被害の拡大を食い止める役割を担う。