カンブリア宮殿,デロンギ
(画像=テレビ東京)

この記事は2022年12月15日に「テレ東プラス」で公開された「世界的企業デロンギ~家電革命の全貌:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. ヒーター、グリル、電気ケトル…ファン熱狂のお洒落家電
  2. 欧州ではコーヒーマシンで有名~日本は12年で売り上げ3倍に
  3. 「ヒーターをデジタル化して」~VSイタリア本社との攻防
    1. イタリア本社との攻防1~アナログをデジタル化
  4. 日本のアイデアが世界に?~驚きのキッチン家電も
    1. イタリア本社との攻防2~小さなサイズが欲しい
    2. イタリア本社との攻防3~オイルヒーターの進化系
  5. ~村上龍の編集後記~

ヒーター、グリル、電気ケトル…ファン熱狂のお洒落家電

家電量販店にはさまざまなタイプの暖房器具が並んでいるが、「ゼロ風暖房」というキャッチコピーがついていたのがオイルヒーター。「暖まり方がやわらかい」「乾燥して喉が痛くならない」など、熱狂的ファンがついている。

オイルヒーターは本体内部のオイルを、燃やすのではなく電気で温めて循環させる。その放射熱で部屋全体をじっくり温める仕組み。スタイリッシュなデザインも人気に一役買っている。

オイルヒーターで国内シェア90%と圧倒的な人気を誇るのがデロンギだ。人気声優、津田健次郎さんを起用したCMでは喉に優しいことをアピールする。

オイルヒーターをさらに進化させたのが、オイルを使わず金属モジュールを加熱し部屋を暖めるマルチダイナミックヒーター。オイルヒーターに比べて半分の時間で部屋が暖まるのが最大の特徴だ。

そこまで知名度の高くないデロンギだが、その本拠地はイタリア北部の街トレヴィーゾ。

始まりは1902年。最初は薪ストーブなどの部品を作る小さな町工場だった。転機となったのが1973年のオイルショック。世界的な石油不足が起こり、デロンギは石油を使わないオイルヒーターを製造する。これが大ヒットし、一躍トップメーカーに成長。今や世界の130を超える国と地域で展開している。

そのデロンギが大切に守り続けているのが「イタリアニティ」。イタリアの建築家や芸術家達が積み上げてきたイタリアらしさを生むデザイン哲学だ。マーケティング・マネージャーのマッシモ・ポリは「イタリアのデザインは妥協も何かを犠牲にすることもありません。それがフェラーリでありデロンギなのです」と言い切る。

イタリアニティを守りながらお洒落なキッチン家電も作っている。

「アイコナトリブート 電気ケトル」(1万1,000円)はイタリアの伝統的な模様を大胆な色使いで取り入れた。「クレシドラ ドリップコーヒーメーカー」(2万9,800円)のモチーフは砂時計だ。「ケーミックス ポップアップトースター」(1万3,800円)は装飾を削ぎおとし、とことんシンプルでかわいいルックスになっている。

▽イタリアの伝統的な模様を大胆な色使いで取り入れた「アイコナトリブート 電気ケトル」

カンブリア宮殿,デロンギ
(画像=テレビ東京)

デザインだけではなく、売りはその機能性にある。

大手企業のCMや雑誌なで引っ張りダコのフードコーディネーター・梅澤由佳さんが愛用しているのがデロンギの「マルチグリル エブリデイ」(1万6,800円)。

「両面上下で火を入れてくれる。チキンなどプレスしながら火の通りがすごく早いんです」(梅澤さん)

両面を一気に焼き上げてくれるので料理の時短にもなると言う。

ヨガの人気インストラクター・野島裕子さんが毎朝、使っているのが「アイコナ 温度設定機能付き電気カフェケトル」(1万4,800円)。お湯の温度が50度から100度まで5段階で設定できる機能がついている。野島さんは50度の白湯が欠かせない。

▽野島裕子さんが毎朝使っている「アイコナ 温度設定機能付き電気カフェケトル」

カンブリア宮殿,デロンギ
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「朝起きて必ず白湯を飲むのですが、50度で作ると人肌のぬくもりのようで、すぐ飲めます」(野島さん)

内臓に優しい一杯で身体を起こす。

欧州ではコーヒーマシンで有名~日本は12年で売り上げ3倍に

デロンギにはもう1つ柱となる商品がある。コーヒーマシンのCMに出演するのはブラッド・ピット。監督は映画「ラ・ラ・ランド」を撮ったデイミアン・チャゼルという贅沢なCMだ。海外ではヒーターよりコーヒーマシンの方が有名なのだ。

商品CMにはなかなか出ないと言われるピットは、オファーは受けた理由を「デロンギは別次元。自信を持っておすすめできるものは自然体で表現できるものだ」と言っている。CMは持ち上げた演技ではなく、自然体だったのだ。

そんなコーヒーマシンを体験できるのが、東京の表参道にある直営店のデロンギ表参道店。店内は白を基調にしたお洒落な空間が広がる。さまざまなコーヒーマシンが並ぶが、どれも一般的なコーヒーメーカーとは違う。

▽さまざまなコーヒーマシンが並ぶ「デロンギ表参道店」

カンブリア宮殿,デロンギ
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粉からではなく豆から淹れるのだ。ミルの機能が入っていて挽いてくれるので、スイッチ1つ、1分足らずで挽きたての味と香りが楽しめる。商品は全て、無料で試飲体験までできる。価格は約6万円から31万円までとなっている。

デロンギの日本法人のオフィスは東京・有楽町にある。社内にはショールームもあり、イタリアらしいカラフルなキッチン家電が並んでいる。

「こういう色は日本人にはできないです。競合メーカーが色を真似しようと似た商品をだしましたが、色が出ないです」と言うのはデロンギ・ジャパン社長・杉本敦男(67)だ。社長就任は2010年。以前は大手企業でマーケティングを担当していたが、その手腕を買われてヘッドハンティングされた。

その当時、看板商品のオイルヒーターはジリ貧状態に陥っていた。売り上げが年々落ちていたのだ。杉本はマーケティングのノウハウを生かしたさまざまな手を打っていく。

まず、オイルヒーターの使われ方を調査すると、「オイルヒーターをどこで使われているのかというと、寝室が多いんです。ポイントは寝ている間も乾燥しない。ほんわかして熟睡ができるというポジティブな意見が挙がってきた」(杉本)。

そこで打ち出したのが「おやすみ暖房」訴えかけるポイントを絞ると効果はてきめん。1年で売り上げはV字回復したのだ。

オイルを使わないマルチダイナミックヒーターも日本法人の発案。その売り上げはオイルヒーターと並ぶデロンギ・ジャパンの稼ぎ頭となっている。

杉本は結果を出し続け、今年の売り上げは社長就任時の3倍になる見通しだ。

「ヒーターをデジタル化して」~VSイタリア本社との攻防

デロンギ・ジャパンの若手社員が集まっていた。2年前にコーヒーのサブスクという企画を立ち上げ大ヒットさせたメンバーだ。

「3年前ぐらいからアイデアはあって、イオンモールでイベントをやったり、お客さんに『こういうプランがあったらどうですか?』と聞いて、こぎつけたという感じです」(マーケティング部・木村健二)

聞き取り調査を重ねて値段などを決定。「ミーオ!デロンギ」という毎月5,400円~好みのコーヒー豆が届くサブスクを開始した。客には6万円するコーヒーマシンを無償でレンタルし、しかも2年間続ければもらえるという特典をつけた。

▽好みのコーヒー豆が届くサブスク「ミーオ!デロンギ」

カンブリア宮殿,デロンギ
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2020年にサービスを開始すると想定の5倍以上の申し込みがあり、一時は受付を止めるほどの人気となった。

日本法人はこうしたサービスや商品の提案はするが、商品開発はイタリア本社が行う。

「商品開発についてはヨーロッパでやるので、ヨーロッパの市場を見ていることが多いんです」(杉本)

まず「イタリアニティ」ありきだから、日本向けの商品を作ってもらうのは大変なのだ。

イタリア本社との攻防1~アナログをデジタル化

2010年当時のオイルヒーターは、あたたかさの設定が500ワット、700ワット、1,200ワットの切り替えで、温度は設定できなかった。一方、現在の商品はデジタル表示で、1度単位で温度を設定できる。この変更を提案したのが杉本だ。

だがその時、イタリア本社の反応は「世界では十分に売れている。デジタル化する必要なんてない」だった。

杉本が何度電話しても、答えは同じ。当時、電話の相手をした担当者の前出のポリは「デロンギのデザインは感性に訴えかけるものです。デジタル化したら、それが損なわれてしまうと思ったんです」と振り返る。

埒があかないと思った杉本はイタリアに乗り込み、「日本ではデジタル化しなければ売れない。とにかく一度、日本に来てくれないか」とかけあった。

「結構しつこくやりました。私の顔を見ると逃げる人もいました」(杉本)

杉本の粘りに根負けし、開発担当者が来日すると、日本の住宅を見てもらった。エアコンやテレビを見せ、日本の家電はデジタル表示が当たり前だと訴えかけたのだ。

かくして2011年、日本向けにデジタル化されたオイルヒーターを発売。これを機にリモコンも標準装備となった。そして今やデロンギのオイルヒーターは世界中でデジタル仕様となっているのだ。

日本のアイデアが世界に?~驚きのキッチン家電も

カンブリア宮殿,デロンギ
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イタリア本社との攻防2~小さなサイズが欲しい

デロンギの人気商品の1つ電気ケトル。いかにもイタリア的な色とデザインだが、1.7リットルと1リットル、2つのサイズがある。小さいほうは杉本がイタリア本社に掛け合い、作ってもらった。

しかし、この交渉も一筋縄ではいかなかった。「この大きさこそイタリアニティ。小さくしたら美しくなくなってしまう」というイタリア側に、杉本は「イタリアのキッチンでは美しいかもしれないが、日本では大きすぎて邪魔になる。それはイタリアニティとは言えないだろう」と反論。こうした説得を何度も繰り返し、小さなケトルは生まれたのだ。

「日本からの提案は、他の国とは比べものにならないほど多いんです」(前出・ポリ)

イタリア本社との攻防3~オイルヒーターの進化系

杉本が社長になった頃、デロンギといえばオイルヒーターだったが、「買われなかった人に聞くと『暖まるのに時間がかかる』という方が多かった」(杉本)。そして生まれたのが、オイルの代わりに金属モジュールを使ったマルチダイナミックヒーターだった。

▽オイルの代わりに金属モジュールを使ったマルチダイナミックヒーター

カンブリア宮殿,デロンギ
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この開発提案については、イタリア本社は「スギ(杉本)はいつもとてもパワフルです。そしていつも明確なビジョンを持って提案してきます」(前出・ポリ)と、前向きだった。毎日の様に繰り返されたやり取りが信頼を生み、開発を約束してくれたのだ。

マルチダイナミックヒーターは2年がかりで完成。知らせを受けた杉本はイタリアに飛んだ。

「今でも覚えていますが、開発担当者とハグして涙、涙で『ありがとう』と言った」(杉本)

前出のフードコーディネーター・梅澤さんが「ブラウン」のハンドブレンダーを使って料理を作っていた。2センチ角に切った大根を容器に入れ、その上にハンドブレンダーをセットする。

「押し具合によって回転数を変えられる。押すと回転スピードが上がります」(梅澤さん)

スイッチの力加減1つで好みの荒さの「大根おろし」ができる。

「200グラムぐらいの大根なら10秒ぐらいで擦りおろせます」(梅澤さん)

便利そうなハンドブレンダーは電気シェーバーや電動歯ブラシで知られる「ブラウン」の商品だが、2012年からそのキッチン家電部門はデロンギの傘下となった。

そこで杉本は日本向けに大根おろしのアタッチメントを作ってほしいとイタリア本社に要請。このアイデアが採用され、またまた売り上げを伸ばしたのだ。

~村上龍の編集後記~

カンブリア宮殿,デロンギ
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収録前打ち合わせには、10数人が参加するが、デロンギのマシンでコーヒーを飲んでいる者は誰もいなかった。何らかのマシンで朝コーヒーを飲んでいる人も、わたしと、あと2人しかいなかった。

いったいどういうことかと思った。実は、朝ゆっくりとコーヒーを楽しむという文化が希薄なのではないか。そういった文化は、今後、広まると思われる。

デロンギは、さらに成長する可能性がある。北イタリアののんびりした文化と、突き詰めて考える論理が交錯する。製品はすべて美しいフォルムを持つ。

<出演者略歴>
杉本敦男(すぎもと・あつお)
1954年、愛知県生まれ。1978年、一橋大学卒業。1984年、シカゴ大学MBA取得。1978年、コニカミノルタ入社。1998年、退社。2010年、デロンギ・ジャパン代表取締役社長就任。