本記事は、中島将貴氏の著書『構造化思考トレーニング』(日経BP)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビジネス,アプローチ
(画像=buritora/stock.adobe.com)

場当たり的アプローチの恐怖

新人営業がとりがちなやり方

構造化思考を用いたアプローチの内容に入る前に、対(つい)の概念といえる「場当たり的アプローチ」について、まずは具体例を用いながら説明したい。

仮にあなたが小売店を顧客とする中堅総合商社(XY商事)の新人営業だったとしよう。あなたの上司から「今後の営業先へのアプローチのために、営業先リストを作成してほしい」と頼まれたとしたら、どうするだろうか。

場当たり的アプローチでいえば、こんな感じである。

「まず、外部のデータベースを使って当支店担当エリアに所在する企業を一覧化しよう」
「この際に、営業を行うのが前提となるので、電話番号も一緒にデータベースから引っ張ってこよう」
「あと、実際に訪問する可能性もあるので、住所も記載しておこう」

こうして、早々にリストを作って、颯爽と上司に報告する、といった感じである。

「やり直せばすむ」問題ではない

このリストが上司のイメージと合致していればよいが、残念ながら必ずしもそうはいかない。

上司から「営業効率を考えて、企業規模と業種の情報はリストに加えておいてほしい」といわれ、改めて同じデータベースから企業規模と業種についても情報を抽出し、リストに追記する。

その後、改めて上司に提出した段階で、「新規顧客へのアプローチなので、既存顧客は対象から外したいのだけど、既存顧客との重複はない?」とリクエストされ、内心「先に言ってくれよ……」と思いながら、既存顧客リストをもとに作成したリスト内の企業との重複を確認しようとする。

そこまできて、既存顧客リストの作成元であるデータベースは別のデータベースであり、企業名などをもとに作成した、今回のリスト上の企業との紐づけが難しいことに気づき愕然とする。目で見て確認・紐づけていくことも既存顧客が数百社あることから難しく、結局、ため息をつきながら、別データベースを活用して最初から作業をし直す……こんな顛末(てんまつ)である。

この例は、単にやり直せば解決する問題でもあるが、仕事が複雑になってくると“やり直せばすむ”といった単純な話ではなくなってくる。

なぜコンサルタントは、最初に論点について学ぶのか

その提案が的外れな理由

この商社の新人営業はなぜ、前述のような骨折り損な仕事をする羽目になってしまったのだろうか。

それは仕事の依頼主(上司)がリストをどう活用する想定なのか(=上司にとってのゴールは何か)、それを踏まえるとリストがどのような建付けであるべきなのか(=ゴールを満たすための条件とは)、を事前に押さえていなかったからである。

別の例を用いてこのような場当たり的アプローチについてさらに説明しよう。

先ほどの商社で新人営業だったあなたはうまくキャリアを積みかさね、若手ながら比較的順調に係長という役職に就くことができた。そんなあなたの将来を期待する課長から「当課では来年度に営業成績を20%向上させることを目標としているが、実現に向けた方策について案を出してほしい」といわれたとしよう。

ここで場当たり的アプローチの思考回路で案を出すとこんな形になる。

「当支店管轄の小売店にはかなり営業してきたが、なかなか業績が伸び悩んでいるし、どうしたらいいのだろうか……」
「そういえば、B2Bビジネスもデジタルマーケティングが重要という記事を最近雑誌で読んだな。うちの営業はいまだに人海戦術だし、デジタルマーケティングの実施を提案しよう」
「特に○○というSaaS型サービスが流行っているようなので、その導入も盛り込んでみよう」と考え、意気揚々と次のように提案する。

「最近はB2Bビジネスでもデジタルマーケティングが流行っているようです。特に、○○というSaaS型サービスが人気のようなので導入を検討しませんか?」と。

確かに、デジタルマーケティングツールの導入を通じて売上向上に寄与する可能性はある。

しかし、課長が検討したいことが、ツールの導入ということではなく、仮に「20%売上を向上させる際のメインターゲットと、そのターゲットに対するアプローチをどうすべきか」であった場合、「○○というSaaS型デジタルマーケティングツールの導入」というあなたの回答は的外れとなってしまう。

コンサルタントがこだわっていること

このような例からもわかるように、仕事の依頼者が“何を解きたいのか”“何を明らかにしたいのか”を把握した上で、それに解を出さなければ、その仕事は依頼者にとっては意味をなさない。

このため、コンサルタントもクライアントが何を明らかにしたいのか、何を解きたいのかの把握にはこだわるし、新人の時から「自分のアウトプットは何を解くため/明らかにするために使われるのか」をしっかりと理解してタスクに取り組むことが重要であると学ぶことになる。

構造化思考はあくまで仕事の依頼主が(最終的に)何を解きたいのか、明らかにしたいのかの把握を第一に行い、それを解くため/明らかにするための論理構造を前もって明確にしたうえで、(ようやく)手を動かし始める(=作業に取り掛かる)というアプローチだ。

このアプローチにより、「(場当たり的な対応と比較し)仕事の依頼主が解きたい/明らかにしたい内容に対して、最終的にほころび・欠点の少ない論理構造を組み立てやすくなる」というのが、構造化思考の大きなメリットである。

構造化思考トレーニング
(画像=構造化思考トレーニング)

ロジカルシンキングとの違い

ちなみに、よくいうロジカルシンキングと構造化思考の違いについてもここで簡単にふれておきたい。

ロジカルシンキングとは、簡単にいえば断片的な事象・概念などについて因果関係や主従関係を矛盾なく構造的に整理するための思考法である(構造的に整理する際にツリー/ピラミッド状に整理することが多い)。

一方、構造化思考はロジカルシンキングを踏まえて、より高い成果を挙げるための実践的な思考法である。具体的にいえば、キークエスチョンを設定すること、構造化する対象が“論点”であること、末端の論点に解の仮説を作ること、などロジカルシンキングには含まれない実践的な要素が多々含まれている。

一方、「論点を構造化する」という部分にロジカルシンキングの要素が含まれている(なので、論点の構造化もツリー/ピラミッド構造で実施する)という点だけ付け加えておきたい。

=構造化思考トレーニング
中島将貴
2008年、早稲田大学政治経済学部卒業、野村総合研究所入社。マーケティング戦略の策定支援、新規事業企画、ビジネスデューデリジェンスなどの取り組みのほか、シェアードサービスセンター設立やマイナンバー対応支援といった業務改革など、幅広いテーマのコンサルティングに携わる。近年はD2C、データサイエンス、AIなどといったデジタルトランスフォーメーション関連の活動に注力。2022年度より野村総合研究所のグループ会社であるブライアリー・アンド・パートナーズ・ジャパンに出向し、CX(カスタマーエクスペリエンス)、CRM、ロイヤリティマーケティング関連のコンサルティング活動に従事。
2019年、米国エモリー大学ゴイズエタビジネススクールMBA修了、ベータ・ガンマ・シグマ会員。中小企業診断士。

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