本記事は、中島将貴氏の著書『構造化思考トレーニング』(日経BP)の中から一部を抜粋・編集しています。
職場でよく見る「残念な現場」の実態
残念なケース(1)
部下「部長、資料の直しができました。この前の指摘も反映してます」
部長「うーん、確かに言ったところは直ってるんだけど、なんか違うんだよな~」
部下「え……。じゃあ、このあたりの資料をもっと補強して、説得力を出しましょうか」
部長「いや、そういうことじゃないんだよな~。ちょっと全体の構成をもう1回見直してみようか」
部下「そこからですか~~……」
残念なケース(2)
顧客「すいません、この前お願いした案件なんですが、もう1カ所変更をお願いしてもいいですか」
社員「え、またですか! これで5回目ですよ」
顧客「申し訳ありません。ただ、このままだとうまくいかない気がする、と上から言われてしまいまして……」
社員「そうですか。これきりにしてくださいよ。納期に間に合わなくなっちゃいます(泣き声)」
残念なケース(3)
コンサルタント「……これらのデータから、○○は有望市場であると考えられ、御社が参入すべき市場だと判断いたします」
クライアント「(冷たい視線)これだけ時間と手間をかけて、こういう結論ですか。有望なのはわかってるので、その先どうするかを聞きたかったのですが」
コンサルタント「(焦る)え、いやその……△△という戦略をとれば、シェアをとれると思います」
クライアント「それはちょっと当社では難しいですね。そういうありきたりな意見をうかがいたいわけではなかったのですが」
コンサルタント「え~~(しどろもどろ)」
いわゆるオフィスワーカーにとっては数年も就業経験があれば誰もが目の当たりにするような光景である。
どのケースであっても仕事の担い手は一生懸命に努力し、成果物を提出したにも関わらず、顧客や上司といった仕事の依頼主に満足されずに頭を抱える。依頼主が、一挙手一投足どのように修正すれば満足できるか具体的なイメージを伝えてくれればまだよいが、そうではない場合、もはやどのように対応すべきかわからず途方に暮れてしまう。そんなこんなで、アタフタしている間に締め切りのタイミングが来て、顧客や上司からの評価は下がる一方……そんな悲惨なケースである。
なぜこのようなケースは発生するのだろうか。
それは、仕事の担い手が依頼主の想定する「成果物を利用して実現したいゴール」を理解できていないこと、もしくは、ゴールを実現するために「成果物に何が必要か(どのような観点に留意する必要があるか/どんな要素が盛り込まれているべきか)」を整理できていないこと、またはその両方による。
「お店のリストアップ」は確かにやったのに……
簡単な例を挙げて解説しよう。例えば、あなたが上司から得意先の社長との会食に適したお店の候補をリストアップしてほしいと頼まれたとしよう。背景として、この社長から上司は非常に気に入られており、仕事の成果はもちろん、会食などで素晴らしいお店に招待してくれるといった点でも高い評価を受けているとする。
こうした場合、「お店のリスト」という成果物を利用して実現したいゴールは、その顧客から今回も「さすが!」と思ってもらえるお店選びである。では、今回も「さすが!」と思ってもらうためには、何が必要なのだろうか。
一般的に非常に高く評価されているお店であっても、この社長の食の好みなどにあわなければ社長には評価されないだろう。また、前回と同じカテゴリーのお店であると飽きられてしまうようであれば、前回の会食がどんなタイプの店だったかを認識しておく必要がある。こういった内容が「(ゴール達成のために必要な)成果物の条件」となる。
このような「ゴール」と「成果物の条件」を仕事の依頼主が明確に整理し、細かく指示してくれれば担い手も苦労はないが、残念ながら日々の業務の中で発生する仕事の依頼はそうではないことが多い。
そのため、ここで取り上げた「お店のリストアップ」にしても、依頼主が期待するゴールと成果物の条件に対して何となく/ぼんやりしたイメージしかないままで取りかかっても、結局、仕事の依頼主から評価されないような事態が発生するのである(冒頭で紹介した3つの“残念なケース”もこうしたことが背景にある)。
一方で、こういった背景を理解していない仕事の担い手からすると「リストアップしろといわれたからリストアップしたのに、なぜ依頼主は満足しないのか?」という気持ちにもなる。
しかし、仕事の依頼主の満足を勝ち取るために重要なのは、依頼された行為そのもの(=お店のリストアップ)ではなく、行為を通じて依頼主が実現したいゴールであり、そのゴールを実現する条件を満たした成果物である。
極端に言えば、仕事の依頼主からすれば依頼したとおりに実施されるよりも、ゴールが実現されることのほうがよっぽど重要なのである。
「構造化思考」で考えてみよう
この「ゴール」と「(ゴールを実現するための)成果物の条件」について具体化・明確化し、常に“仕事の依頼主にとって”意味のある成果物を作成できるようにするための「構造化思考」について解説していく。
また、単に思考法を理解するだけでは実践できるレベルに到達できるとは限らないため、5つの実践問題を用意し、当思考術を体感・体得できるような建付けにした。
「構造化思考」と言葉で表現するとやや固い印象かもしれないが、コンセプトやアプローチはシンプルである。少しでも多くの読者がヒントに、上記のような残念な光景を職場からなくしていく、そんな担い手になってほしいとの想いを込めて執筆した。
2019年、米国エモリー大学ゴイズエタビジネススクールMBA修了、ベータ・ガンマ・シグマ会員。中小企業診断士。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます