本記事は、中村英泰氏の著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
社員のやる気がある職場とない職場の決定的な違い
「部長が急に朝礼で、『毎月1回、上司と部下が、面談をすることに決まりました。今月から実施するように』って言いはじめて……。うちの会社って中身を決めずに、とにかくノルマにしたがるんです」
「社長が突然、思いついたかのように『パーパス(目的や意図)が重要』って言い出して、翌週からなにをするにも『君のパーパスはなにか?』って、まるで合言葉のように、上司たちが連呼しはじめて……。パーパスの重要性をわかっている人なんて、絶対1割もいないですよ。そのとき、この会社ダメだって思ったんです」
「なんとか現状を変えようと提案をしたんですよ。でも、上司は事なかれ主義なのか、まったく取りあってくれなかったんです。なのに、あるとき役員との打ち合わせで『うちの部門はやる気が低くて、提案も上がってこないんです』って言っているのを聞いて、正直心が折れました」
このように、社員がやる気をなくす瞬間は日常にあふれています。
その瞬間が、いつしか習慣になって積み重なり、我慢の容量を超えてしまったとき、社員の思いは職場を離れ、「転職」という選択へと向かいます。
これまでは、妊娠・出産、育児や介護などのライフイベントによって、仕事と家庭の両立が困難になったために行う「やむを得ない退職や転職」が当たり前でしたが、現在では、仕事と生活の両立が多くの企業で実現可能になり、そうしたケースは随分と減少しているように感じます。
にもかかわらず、転職者があとをたたないのは、やる気をなくす瞬間が職場に、あふれかえっているからではないかと考えられます。
人のやる気を上げるために必要なことは?
「なぜ、転職したのですか?」と、転職した人たちに前職の離職理由を尋ねると「ダメだ」と思った瞬間を本音で話してくれます。
採用フローに問題がない限り、辞めるつもりで入社する人はいません。
辞めるつもりで入社したわけではない限り、その転職は本人にとって、本当に不本意な選択です。
多くの日本企業が戦略なき転職者に対して優しくない現実を考えても、できるなら続けて働きたかったのではないでしょうか。
では、社員の「やる気」を高めるにはどうしたらよいのでしょう。
それさえわかれば、定着率は改善に向かい、募集広告費、面接や入退社手続きなど間接的なコストの削減に限らず、事業計画に対する計画的な人員配置ができるようになるなど、企業にとって多大なメリットがもたらされるはずです。
「やる気」を上げるものは大きくわけると2種類あります。
1つが給与を上げたり賞与や役職を与えたり、職場の設備環境を改善したり、福利厚生や就業規則を整えたりといった、物的側面です。
これら物的側面からの「やる気」の向上は資金と、改善する意思があればどの企業でも整えられます。
これで全面解決となればよいのですが、実はもう1つ、社内の雰囲気や価値観、従業員同士の関係性、コミュニケーションのあり方、上司と部下間のパワー関係、仕事のストレスや満足度といった人的側面が「やる気」には大きく影響を及ぼします。
双方の特徴として、物的側面からの取り組みは比較的短期間で対応可能ですが、効果は長続きしません。
一方、人的側面からの取り組みは、改善までの時間に長くを要しますが、ひとたび定着すればその効果は持続します。
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。 年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。※画像をクリックするとAmazonに飛びます