Sony Corporation brand logo embossed in the plastic case of an audio equipment.
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ソニーグループの経営体制が吉田憲一郎会長兼CEOと十時裕樹社長の「2トップ」体制になりました。同社はこの10年で、エレクトロニクス事業主体からテクノロジー*エンターテインメント事業主体の企業に変わりました。今回の経営体制の変更は、その「改革」を盤石のものにするものと市場では見られています。このようなソニーの動きは、過去10年の日本企業を取り巻く市場の変化を間接的に物語るものと言えるのでしょうか。また、ソニーの動きは、日本企業の今後の経営の方向性を示唆するものと言えるのでしょうか(ZUU online編集部)。


日本を代表するグローバル企業、そして時価総額で第1位と第2位であるトヨタ自動車とソニーグループがわずか一週間の違いで4月からの経営体制の変更を発表した。どちらも見かけは「現社長が会長に就任、そして新しい社長が誕生する」ということだが、その真意はまったく異なるものと思われる。真のステークホルダーは誰かという視点で評価すると違う背景が見えてくるのだ。

正直にいうと、今回のソニーグループの経営体制変更が本当にその「改革」を盤石なものとするのに資するかどうかは、現段階では評価できない。ひらたく言えば、トヨタ自動車の役員人事と比べ、実質的な変化がどこにどう起きるのか、見た目上はよく分からないからだ。

だが、もしソニーの歴史を振り返り、同社がとりわけ1990年代以降にどういう取り組みをガバナンスの面でしてきたかを紐解くと、そもそもトヨタ自動車の役員人事と比較すべきものでもないという真意が見えてくる。そして、それがこれからの日本のグローバル企業に求められる1つの重要な要素となりそうだとも言える。そのキーとなるのがCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)とCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)という職責だ。余談だが、日本で初めてCEOを導入したのはソニーである。1976年に創業者の盛田昭夫氏が会長兼CEOに就任した。

そもそも日本では、「取締役」と「執行役員」の職責や権限、選任のされ方の違いがあまり意識されていないようにわたしには思える。社長の英語の肩書についても同様で、CEOであろうが、Presidentであろうが、ほとんど頓着されていないのではないだろうか。だが、実際には、「取締役」は株主総会で選任されるが、「執行役員」は会社が指名するという根本的な違いがある。最近は「ガバナンス」という単語をよく耳にするが、「肩書」の根本的な差異を正しく理解していなければ、本来の意味でのガバナンスの良し悪しは見えてこないのではないだろうか。執行役員制度はガバナンス強化のために米国で生まれた制度なのだ。そして、それを日本でいち早く取り入れたのはソニーだ。やはりソニーという、日本を代表するグローバル企業は、今でも米国流経営感覚の取り込みでは最先端を走っているようだ。また、走らざるを得ない立場にあるのだろう。ここからその謎を紐解いていく。

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まずは事実を正確に把握しよう。

ソニーグループの2023年2月2日付のニュースリリースをみると「グループ経営体制の強化を目的として『現 取締役 代表執行役 副社長 兼 CFOの十時裕樹が、2023年4月1日付で、取締役 代表執行役 社長 COO 兼 CFOに就任することを決定しました。現 取締役 代表執行役 会長 兼 社長 CEOである吉田憲一郎は、同日付で、取締役 代表執行役 会長 CEOとなります。』」と発表されている。

このような文字列では非常に分かりずらいので、表にまとめてみると下記の通りとなる。こうすると新旧の違いがよくわかる。

 現役職新役職
吉田憲一郎取締役 代表執行役/会長 兼 社長/CEO取締役 代表執行役/会長/CEO
十時裕樹取締役 代表執行役/副社長/CFO取締役 代表執行役/社長/COO 兼 CFO

ご覧の通り、ソニーグループの役員人事で何がどう変わるかというと、(1)吉田憲一郎氏の社長の肩書が外れて会長だけになり、(2)十時裕樹氏の肩書が副社長から社長に変わる。そして(3)十時氏に新たにCOOという肩書が付与され、CFOはそのまま継続、同じように(4)吉田憲一郎氏は引続きCEOの職責を全うする。

比較のために、トヨタ自動車のそれも表にまとめてみた。

 現役職新役職
豊田章男代表取締役社長/執行役員/CEO代表取締役会長
佐藤恒治執行役員/Chief Branding Officer執行役員/社長/CEO

取締役の就任は株主による経営委任である。当然、それは株主総会での決議事項であり、定時株主総会前の2023年4月1日時点では佐藤恒治氏には代表取締役社長の肩書は付与されない。ただよほどのことがない限り、6月の定時株主総会で新任取締役として選任決議され、その後の取締役会で代表取締役社長に就任することになる。従って、ソニーのそれとの比較において注目すべきポイントは、CEOの職責が豊田章男氏から佐藤恒治氏に変更されることだ。なお、トヨタ自動車にはCOOという肩書は現時点では採用されていない。

さて、こうしてみると当然次は「CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)」とは何かということを紐解かないとならない。そして、ソニーグループの十時氏に加わった新しい職責である「COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)」とは何かということも適切に理解しないとならない。その上で、CEOとCOOの関わり合いとはどういうものなのか、その結果としてどうして今よりも「グループ経営体制の強化」が図れるのかという目でこの役員人事を評価しなければならない。

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Wikipediaを見ると、CEOとは

「米国の法人における役員のことであり、一般に取締役会によって選任されるが、定款の定めにより株主総会で選任する場合もある。取締役会はいつでもCEOを解任することが出来るとされる。CEOの職務は取締役会の指揮の下で法人のすべての業務執行を統括し法人の経営に責任を負うとされる。これに対してCOOの職務は取締役会による指揮および最高経営責任者 (CEO) による統括の下で、法人の日々の事業運営、特に営業活動に関する業務執行を統括し責任を負う」(Wikipediaより抜粋引用)

とある。つまりCEOは経営に、COOは業務執行にそれぞれ最大の責任を持ち、CEOとCOOの間には明確な上下関係があるということだ。

一方、日本の法人で古くから伝統的に使われている「会長」や「社長」、あるいは「副社長」という肩書には実は法的な定めが何もない。事実、会社の設立や運営、管理などを法的に定める「会社法」には「代表取締役」や「取締役」しか定義されていない。つまり、法的には(「副社長」というのは)「部長」や「課長」と同じ意味合い(会社による勝手な定義)でしかないということだ。

だとすると、今回のソニーグループの経営体制変更を純日本的な視点だけで捉えると、実質的には何も変わらないと見ることもできる。つまり「社長→副社長」という上下関係は「会長→社長」という関係に置き換わっただけであり、単に「CEOの下でのCOO」という職責が業務上、明確になったということに過ぎないともいえるからだ。

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話は変わるが、平成元年(1989年)の頃には世界の上場企業の時価総額ランキングでは、上位50社中なんと32社が日本企業だった。しかし、現在では全上場企業時価総額を合算しても世界の時価総額の5%程度にしかならないほど日本企業の地盤沈下は著しい。さらにいえば、日本の投資主体別売買動向を見ると、久しくその7割前後は常に海外投資家が占めるようになっている。つまり日本の株式投資の現状は、その市場規模が小さくなっただけでなく、その方向性を決めることさえも海外投資家次第だということだ。本来これはとても看過すべきではない由々しき問題を提起している。なぜなら、株式とはいうまでもなく「企業の所有権」であり、株主こそ企業の最大のステークホルダーだからだ。つまり、現在では、「日本企業」だと思っていても、その所有権を主に売買しているのは海外の投資家だということがめずらしくない、ということだ。

そこでソニーグループの真の所有者たる株主構成を確認すると、なんと59.7%(2021年3月31日現在)が「外国人」(決算資料上の表記を引用)と分類されている。ソニーグループの登記上の本社所在地は日本だが、株式のマジョリティは「外国人」が所有するということ。見方によっては、ソニーグループは日本の企業ではなく、外資系企業と呼ぶべきなのかもしれない。翻って、トヨタ自動車のそれは20.28%に過ぎない。そこで閃くのが、ソニーグループの経営指針はやはり、日本的なそれではなく「外国」流であり、ならば今回の役員人事の勘所は「会長・社長」ではなく、十時氏の「COO」就任ということになる。なぜなら、約6割のステークホルダーが見ているのは「会長・社長」という肩書ではなく、「CEO・COO」の方だからだ。

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COOが欧米の企業で強く求められるようになった最大の理由はガバナンスにある。企業のビジネスフィールドが世界各地に拡がり、経営ガバナンスの観点から、経営と業務執行の分離を求める必要性が強くなったからだ。その結果、欧米の企業では会長が経営の責任者であるCEOに、社長が業務執行の責任者であるCOOになることの方が多くなった。今回の組織改編ではまさに「その通りのこと」をソニーグループは行った。それがソニーグループに対する海外投資家からのリクワイヤメントということなのだろう。

ただこの視点で整理すると、近時の日本電産における役員人事も日本的な是非とは別に、その流れはよく分かるようになる。なぜなら、永守会長はずっとCEOであり、退任した関潤・元社長はCOOだったからだ。この意味ではトヨタ自動車はグローバル企業だが、まだ日本的な企業だといえるのではないか。なぜなら「社長がCEO」だからだ。

たかが役員人事、されど役員人事。日本企業を取り巻く情勢はマーケット環境の変化と共に変わってきている。