特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。
今回は、地域の食の産直プラットフォーム型店舗「わくわく広場」を運営する株式会社タカヨシ(千葉県千葉市)代表取締役社長の黒田智也にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2003年株式会社タカヨシに入社。
入社後は一貫して「わくわく広場」の店舗運営業務に従事し、2017年から主に西日本の店舗運営を統括。
2019年に店舗運営部門の部長に就任した後、同部門を管掌する取締役に就任。
2022年4月、代表取締役社長に就任。
地元の人が地元の人に地元の人の商品を売る店舗を運営コンセプトとし、各地の生産者ご自慢の商品が出品される「リアルなプラットフォーム型の店舗」です。
今後もわくわく広場を通じて地域経済の活性化に貢献し、安心と笑顔が広がる世界を目指します。
ショッピングモール内に食のプラットフォームを展開
―― 最初に、株式会社タカヨシの事業内容をお聞かせください。
タカヨシ代表取締役社長・黒田智也氏(以下、社名・氏名略):弊社は地域の食のプラットフォームとして、「わくわく広場」を運営しています。わくわく広場は食に関わる地元の生産者と消費者をつなげる場であり、ここでしか買えない商品も多数提供しています。私たちは「地域還流型のビジネスモデル」と呼んでいて、全国に136店舗(2022年9月末)出店しています。
▼わくわく広場の店舗
――わくわく広場では、どういったものを扱っていますか。
一見小さなスーパーで、地元の野菜や果物を中心に、お弁当やお惣菜、和洋菓子など、地元の生産者の商品を扱っています。他にはない品揃えで多くの方からご支持をいただいていると自負しています。
――道の駅や農産物直売所などとの違いや強みは何でしょうか。
わくわく広場は、委託販売スタイルの食のプラットフォームです。集客力のあるショッピングモール内の区画に弊社がテナントとして入居し、周辺の生産者を募り、登録生産者が自分のペースで店頭に品物を納品・値付け・陳列しますが、レジ・清掃・商品管理・生産者とのやり取りといった店舗運営業務は、わくわく広場が行う仕組みです。
▼わくわく広場のコンセプト
農産物直売所といえば、最初にイメージするのは野菜だと思いますが、わくわく広場も当初は野菜を中心に取り扱っていました。しかし、野菜は市況に応じて価格が変わり、「豊作で安かったから売上が下がった」「不作で単価が高くなり売上が上がった」といったように、外部要因に左右されます。わくわく広場は委託販売スタイルですから、野菜中心だとビジネスモデルが安定しないため、農産物以外のもう1つの柱としてお弁当屋総菜類を強化しました。結果的にコロナ禍の中食需要も相まって、成長できたと思います。現在も野菜とお弁当のどちらかにこだわるのではなく、各店舗におけるお客様のニーズに沿った品揃えで展開しており、そういった柔軟性の高さがわくわく広場の強みだと考えています。
例えば飲食店なら駅近や駐車場完備など、利便性が高いお店が選ばれがちです。一方で立地が悪く、注目されないお店も地元にはたくさんあり、お弁当などの販売によってそのようなお店を紹介できます。生産者ご自身の店舗以外ではわくわく広場でしか流通しておらず、それも魅力といえるでしょう。
▼わくわく広場でしか買えない商品が多い
ショッピングモールに出店していることも特徴です。従前はロードサイド店が中心でしたが、それだとわくわく広場が目的のお客様しかお見えになりません。ショッピングモールに出店するようになってからは、当店を知らないお客様にもご利用いただけるようなりました。
ショッピングモール内に出店すると店内のスーパーとのバッティングが気になりますが、同じ野菜でも生産者が直接持ってくるものは鮮度が違います。地元で手に入らないものは無理して揃える必要はなく、欠品があっても構いません。隣のスーパーで買っていただけますから、むしろお互いにお客様を融通し合うという良好な関係を築くことができます。
価格競争に巻き込まれないビジネスモデルを目指す
――次に、今日までの事業の変遷をお聞かせください。
弊社は、現会長の高品(政明氏)が1970年に創業した会社です。もともと農家でしたが、腰を悪くして別の仕事を探したところ、在庫が不要な事務機器のカタログ販売にたどり着き、これが祖業となります。その後もガソリンスタンドや書店、ビリヤードホールなど展開するなど10を超える小売関連の事業に挑戦し、1979年にはホームセンター事業に参入しました。ホームセンターは在庫を多く抱えるため、資金繰りに悩まされたそうです。その後、2000年に店舗の一角で野菜を販売する委託形式の直売所ビジネスを始め、これが現在のビジネスにつながりました。カタログ販売と同じで在庫がなくてもできるのがメリットで、当時は路面店を地道に広げていましたが、2009年にショッピングモールに出店したところ売上が好調で、現在に至ります。
――2021年には東証マザーズ(現東証グロース)に上場しました。
2021年9月末に現事業の利益によって債務超過を解消し、同年12月24日に上場することができました。おかげさまで知名度や信用力、企業価値は上がったようで、出店や生産者の開拓にはプラスに働いています。個人の農家は別でしょうが、企業体の生産者に対しては、上場していることが信用力につながっていますし、金融機関との取引にも良い影響を与えていると思います。また、メディアに取り上げていただく機会も増えました。
――昨今は円安や資源高に伴う値上げが相次いでいます。現在日本経済が直面している課題や今後の動向、御社のビジネスへの影響について、どのようにお考えですか。
正直なところ、電気代高騰のインパクトは大きいですね。「商品の値上げはしないのか」とよく聞かれますが、弊社のビジネスモデルのテーマは「いかに出店を加速させ、生産者の販売拠点を増やすか」です。販売チャネルが増え、生産者とWIN-WINの関係を築いていけば、エネルギーコストの上昇を吸収できるくらいまで成長できると考えています。いつの時代も値上げが始まると1円でも安く売ろうとする価格競争が起きますが、それに乗りません。わくわく広場のコンセプトは「ここでしか買えない商品を提供すること」ですから、その点で差別化を図りたいと思います。
ちなみに、現在は子ども食堂とのやり取りに力を入れていて、提供に同意いただいた生産者の野菜などをお使いいただいています。これによって、弊社は食材の廃棄ロスを減らしています。
1,000店舗展開が当面の目標
――今後の目標や5年後、10年後に目指す姿をお聞かせください。
明確な時期は定めていませんが、社内では指標の一つとして「1,000店舗出店」を目標にしています。そのためには仕事のあり方や社内の仕組みを変える必要がありますが、生産者の販売チャンスを増やしたいですし、未出店の地域もありますから、より多くの方にわくわく広場を知っていただきたいと思います。
――出店の重点地域はありますか。
基本的にはチャンスがあれば、どこでもチャレンジする考えです。現在ご登録いただいている生産者数は約2万5,000件ですが、近くに複数の店舗があると参加しやすく、ドミナント戦略を採ったほうが有利だと思います。また、東京都内の店舗はこれまで錦糸町くらいでしたが、2022年10月には天王洲アイルや東京オペラシティに出店しました。東京の都心部や大阪など、これまで出店してこなかった地域でも展開したいですね。
――店舗が増えると生産者の開拓が課題になると思います。
他の会社だと物流網があるところに出店するのがセオリーだと思いますが、弊社の商品は基本的に現地調達です。先に店舗が決まり、そこから足を使って生産者を探す専門の部署と開拓専門のコールセンターがあり、これらの部署が登録生産者や飲食店を募るという流れです。
――ZUU onlineには富裕層・投資家の読者が多いのですが、そのような方々へメッセージをお願いします。
弊社のビジネスモデルは活字や口頭で伝わりにくいところがあり、道の駅のような場所や施設を思い浮かべる方が少なくないのですが、そうではなく「地域の食のセレクトショップ」です。今後も店舗は増えていきますので、見かけたらぜひお立ち寄りください。ご利用いただくことで、ビジネスモデルをご理解いただけると思います。