東京・目黒の池尻大橋駅から徒歩4分、デザイナーズビルの4階にある「and the line」は、外看板のない隠れ家のようなBarです。
色味のない内装は洗練された印象で、多くのBarと違いバックバーにお酒がありません。
デザインしたのは「and the line」のオーナー兼店長で、株式会社MALK DESIGNの代表も務める西山歓司さん。
今回は西山さん(以下、敬称略)に、内装デザインのコンセプトやお店の成り立ち、おすすめのウイスキーを伺いました。
「and the line」のコンセプト
言葉や人をつなぐ「and the line」
西山 僕はもともとデザイナーで、お店の内装やコンセプト、店名まで自分で考えました。
言葉と言葉をつなぐ“&”という記号と、人も含んだオブジェクトをつなぐ“line”から、Barでは言葉や人のつながりを大事にしたいというインスピレーションから、「and the line」という店名にしました。
--「コミュニケーションを楽しめる場所」というのがコンセプトでしょうか。
西山 おっしゃるとおりで、お店を出すならそういうBarにしたいと思って。
僕は飲みに行くとき、いろんなことを教えてくれるBarには通うけど、バーテンダーさんが好きじゃないと行かなくなることが多い気がします。
単にお酒を飲みに行くのではなく、会話やお客様同士のつながりが心地よくてBarに行くので、僕のお店でも、お客様とのコミュニケーションを大事にしたいと思っているんです。
情報のない空間で楽しむ会話
西山 「and the line」の内装はほぼ無彩色で、“会話を邪魔しない”というコンセプトでデザインしました。無彩色とは、白、黒、グレーといった何も邪魔をしない色のことです。
カウンターは木ではなく、タイルです。
木のぬくもりがあるデザインのほうが落ち着くし王道だと思うんですが、僕は無機質というコンセプトを強く出したくて、暖かみのある木をなくし、色は使いませんでした。
そのかわり、照明にこだわって無機質の中にも暖かみが出るように気を付けました。
ややこしいし、多分Barの基本のデザインではないですよね。
変わり種だと思いますが、お客様は「お洒落」と言ってくれるので、良かったと思っています。
--なぜ、バックバーにお酒がないのでしょうか?
西山 バックバーのお酒を見て楽しみたい方もいると思うんですが、僕はお客様との会話を大事にしたくて。
派手なお酒のラベルは、酒屋さんならプロダクトデザインの役割を果たしますが、コミュニケーションをメインと考えたとき雑情報になると思ったんです。
会話を邪魔する物や情報は極力省きたかったので、バックバーにお酒を置いていません。
少し大変ですが、全てのお酒を下の棚にしまっています。
「and the line」にはメニューもありません。新規のお客様が来たら「普段は何を飲まれていますか」という会話から始めます。
メニューがないので、必ず会話ができるんです。
ポーカーが楽しめるBar
西山 少しの遊び心で、Barでは珍しいポーカーテーブルを設置しています。ポーカーは僕も好きですし、流行っているのか好きなお客様も多くて。
つながりのないお客様なのに、それぞれがポーカー好きを連れてくるんですよ。
こんなに好きな人がいるなら……と、ポーカーテーブルを置くことにしました。
僕は、取引先の知人が誘ってくれたのがきっかけでポーカーを始めました。
その知人が酔っぱらったときに「ポーカーをやりませんか」って言って、できる場所に連れていってくれたんです。遊んだら、面白かったんですよね。
ポーカーは最高9人で遊べるんですが、4人集まれば十分面白いです。
今、流行っているのは、本場のカジノでやっているテキサスホールデムポーカーで、カードは2枚しか配られません。
全然知らないお客様同士がポーカーを一緒に楽しんで、横のつながりができていくのは楽しいですね。
以前はお酒を楽しむだけの場所だったBarが、いろいろなエンターテイメントを設置することで少しずつ変わり始めていると思います。