富裕層が今「米ドル長期債」に投資する理由
Stockbym / stock.adobe.com、ZUU online

純資産数億円以上の富裕層は、米ドル建て債券を資産の中心に据えることが多い。その米ドル債の中でも今、償還までの期間が「10年以上」の長期債に投資するケースが増えている。今回は富裕層向けに資産運用コンサルティングを行う株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口氏に富裕層が今、米ドル長期債に投資する理由について解説してもらう。

世古口俊介
世古口 俊介(せこぐち しゅんすけ)
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして最年少でヴァイス・プレジデントに昇格し、最高預かり残高は400億円超。2016年5月に同社を退職。2016年10月に富裕層向けに資産運用コンサルティングを行う株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者7000名超のYouTubeチャンネル『世古口俊介の資産運用アカデミー』等での情報発信を通じて富裕層の資産形成に貢献。

高利回りを長期間享受したい

アメリカの金利は歴史的に高い水準にある。2023年3月現在の10年国債利回り4%は、2022年を除くと14年ぶりに高い水準である。リーマンショック以降はアメリカも低金利が続いたため、久しぶりの高金利に富裕層たちは我先にと米ドル債に投資をしている。

しかし、多くの富裕層や専門家は「現在は急激なインフレを抑えるためのFRBの金融政策で一時的に押し上げられた高金利で、やがて金利は下がっていくだろう」と考えている。

上記の考えに基づくと、今の高金利を期間数年の短期債で終わらせるのはもったいない。「償還までの期間が10年以上の債券で長期に渡り高利回りを享受したい」と考えて今、日本の富裕層の間でも米ドル長期債投資が増えているのである。

富裕層が今「米ドル長期債」に投資する理由
アメリカ10年国債利回り(過去20年)(出典:TradingView)

長期債ほどキャピタルゲインが狙える

戦略的な富裕層は長期債を利用してキャピタルゲイン(値上り益)も狙っている。実は償還までの期間が長い債券ほどキャピタルゲインを狙いやすい。

アメリカ国債の利回りなど基準になる金利が低下したとき、世の中に存在する債券の魅力が相対的に増すため、債券価格が上昇する。以下のイラストを参考にしてほしい。

富裕層が今「米ドル長期債」に投資する理由
長期債ほど金利低下で価格が上昇する(出典:株式会社ウェルス・パートナー)*本イラスト中の予想価格は筆者の経験則によるイメージで設定しているため参考にとどめてください。本イラストは投資の利益や成功を保証するものではありません。

イラストを見れば、償還までの期間が長い債券ほど金利低下で価格が上昇していることがわかるだろう。1%の金利低下で10年債は+7%、20年債は+14%、30年債は+21%となっている。金利の下落幅が2%だと、その倍程度(たとえば30年債であれば+42%)は価格が上昇する可能性が高い。

前述の通り「アメリカの金利水準は一時的に高騰していて、いずれ低下していくと考えると十分にキャピタルゲインも狙える」(世古口氏)というわけである。賢い富裕層は債券投資の本筋であるインカムゲインはしっかり得ながら、世の中の金利が低下して債券価格が値上がった時はキャピタルゲインも得ることを視野に入れている。

なおイラストの予想価格は、最近の金利と債券価格の推移からウェルス・パートナーが設定したイメージだ。債券の内容やその他の諸条件によって価格が上昇しない可能性も十分にあるのでご留意いただきたい。

円高のリスクヘッジになる

もう1つ富裕層が長期債に投資する理由は「米ドル安・円高のリスクヘッジにもなる」(世古口氏)からだ。

米ドル債は投資したときより米ドル安・円高が進むと、円換算したときの評価金額が減少するため損をしてしまう。しかし、実は米ドルの長期債に投資して米ドル安・円高が進むと、投資している債券の価格が上昇している可能性が高い。

その理由を説明しよう。まずは以下の比較チャートを見て欲しい。

富裕層が今「米ドル長期債」に投資する理由
アメリカ10年国債利回り(青・右縦軸)と米ドル/円(オレンジ・左縦軸)の比較チャート〔過去1年〕(出典:株式会社ウェルス・パートナー)

アメリカ10年国債利回りと米ドル円の推移は、見事に連動していることがわかる比較チャートだ。この連動が今後も継続すると仮定すれば、米ドル安・円高のときはアメリカの金利が低下するので債券価格が上昇する。為替差損が発生しても、債券価格の上昇で(ある程度)相殺できる可能性が高い。

もちろん逆に米ドル高・円安のときは、金利が上昇しているので債券価格は下落し、債券単価の下落を為替差益で(ある程度)相殺できる可能性が高い。

そして、世古口氏は「この円高のリスクヘッジでも『債券の長さ』が重要になる」と指摘する。

償還までの期間が数年などの短期債では金利が下がっても、債券価格があまり上昇しないため、米ドル安・円高の十分なリスクヘッジにならない。しかし期間が10年以上の長期債であれば、前述の理屈で金利下落時にはしっかり値上りしている可能性が高く、リスクヘッジの効果を発揮するわけだ。

債券は期間も「分散」

富裕層が米ドル長期債に投資する理由をご理解いただけただろうか。高金利を長期間享受でき、キャピタルゲインも狙えて、円高のリスクヘッジにもなる。米ドル長期債に取り組まない理由を探す方が難しいだろう。

今回はテーマを長期債に絞って説明したが、長期債だけで債券ポートフォリオを組むのはあまりお勧めしない。金利が今よりもさらに上昇して、債券価格がさらに下落する可能性もあるからだ。

債券ポートフォリオは期間も分散するのが基本だ。短期債と長期債を織り交ぜながら償還期限を分散し、どのような金利環境になっても困らないようにするのが定石である。

さらに情報を知りたい方へ

キャッシュフローの最大化を図るには、節税はもちろん、さらに効果的な資産運用サービスを知っておく必要がある。

詳しい情報をご希望の方は、株式会社ZUU 富裕層向け金融サービス専用フォームからのお問い合わせをおすすめしたい。

資金調達の方法に始まり、運用から、償却に至るまでのキャッシュフロー全般の情報を、 金融機関65社との接点を持つZUUグループなら「中立的」な立場で紹介可能だ。

ZUUグループでは、これまでに保有資産額10億円〜100億円超の方々に至るまで、 不動産、外国債権、ブリッジローンといった幅広い金融サービスをご提案している。

まずは以下のフォームで回答してみよう(所要時間1分)。