H3は「日本経済衰退の縮図」
こうした「時代遅れ」の製品開発で商機を失うのは、日本企業の経営にスピード感が失われたからだ。スペースXは2002年に設立されたが、6年後の2008年には初の実用ロケットとなるファルコン1を打ち上げ、その2年後の2010年にはH3をはるかに上回るペイロード打ち上げ能力を持つファルコン9を完成させた。H3は2014年の開発開始から、すでに9年も経過している。
世界最高峰の技術力を持つNASAから人材を招き入れたとはいえ、スペースXはベンチャー企業にすぎない。巨大企業の三菱重工業とJAXAが国家プロジェクトとして取り組んだH3の開発スピードの遅さは、深刻な事態と言っていいだろう。
同様の状況は半導体やスマートフォン、有機ELテレビ、電気自動車(EV)でも生じている。しかも、ロケット同様、かつては日本の技術力が世界のトップ集団にいた分野で、だ。なぜ、そうなるのか?そこには日本企業の「キャッチアップ志向」がある。
高度成長期からバブル景気までの日本企業は欧米企業が成功した製品をキャッチアップし、より安く高品質で販売することで先行企業に「追いつき、追い抜く」ことで成長を続けてきた。その「成功神話」から抜け出せていないのだ。
ところが21世紀に入ると技術の進歩は格段に速くなり、一度差がついてしまうと追い付くのは容易ではなくなった。それでも追いつこうとするのなら、先行企業よりも迅速にビジネスを進めなくてはいけないが、日本企業は投資の意思決定や判断が遅いためキャッチアップできないのだ。
さらに中国をはじめとする新興国や欧米の企業に比べると、日本企業は撤退の意思決定も遅い。「キャッチアップできない」と判断すれば、さっさと撤退するか行き詰まる前に事業売却をすればよいのだが、日本企業はこれも苦手だ。三菱スペースジェットでは1兆円の開発費を注ぎ込んだ果てに、事業売却もできず清算で撤退することになった。
こうした日本企業の「キャッチアップ型」の行動様式が変わらない限り、ロケットをはじめとする最先端ビジネスで世界と戦うのは難しいだろう。H3の生き残りの道は、国内需要に特化した「ガラパゴス化」しかなさそうだ。
もっとも民間衛星はコストの安い海外のロケットに流れるだろうから、政府から受注する官需しかない。そうなれば打ち上げ回数も限られるのでコスト削減は避けられず、国際競争力はさらに低下するだろう。まさにバブル崩壊以降の「日本経済衰退の縮図」なのだ。
文:M&A Online編集部