本記事は、豊嶋智明氏の著書『「働かないおじさん」を活かす適材適所の法則』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ダンディ,スーツ,男性
(画像=PIXTA)

「行動特性学」でわかる“ハイパフォーマンス”の法則

行動特性学を活かして組織の人財配置を行うと、大きく結果を出すことが可能です。行動特性学とは、「人の行動には法則性がある」と考えて、個人が持つ行動原理とその背景にある考え方をベースにした学問です。

ビジネスにおける行動特性学では、人財を大きく3タイプの人に分けています。


タイプ1 仲間と一緒に協力する人
タイプ2 1人で成果を出す人
タイプ3 昇進のために努力する人

タイプ1の仲間と一緒に協力する人は、市場調査に向いています。タイプ2の一人で成果を出せる人は、企画を立てて他と競争することが好きな傾向があります。タイプ3の昇進するために努力する人は、広告・宣伝に向いています。なぜなら、普段から自分が認められる方法を考えているため、世の中から認められたり、ブランド力を高めることが得意だからです。

このように相手を理解することで、それぞれの個性に対して、具体的な方法で教育することができます。しかし、多くの企業で社員の本当の個性を把握していないのが現状です。

ある化粧品会社では、マネージャークラスにPI分析の勉強会を開催しました。勉強会の後、マネージャーたちの適性を考え、それぞれの部署を入れ替えることにしました。マネージャーたちは、先ほど紹介した3つのタイプがあることを知り、部下の個性と自分の個性の相性に上手くいかない原因があることに気づいたのです。

なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?
(画像=なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?)

その後は、部下に対する話し方や仕事の振り方を一変させ、部下のタイプ別に指導方法を変えることにしました。すると、上司と部下がお互いのタイプを知ることで相互理解ができ、社内のコミュニケーションが円滑に進むように変化しました。部署内で、「〇〇さんはヒトタイプだね」と言ったような共通言語が生まれ、雑談も交わせるようになり、雰囲気が良くなりました。

その結果、社内のコミュニケーションが円滑になり、チームメンバーが気兼ねなく発言できるようになります。何気ない雑談や、ふとした思いつきも共有され、問題が起こるメカニズムがわかるため、問題解決の糸口になる可能性があります。その成果がクレーム処理に大きく影響して、お客様のタイプ別に起きる問題点を共有することで、お客様と同じタイプのスタッフから問題が起こった原因がわかります。どのような対応・対処をするとお客様の望む結果が得られるのかを理解できるようになり、クレームが激減しました。

この法則を理解し、人の性格や適性を把握することで、社内が活性化して成果を出せる集団に変貌していきました。また、課題や問題についても率直に指摘しやすくなり、問題の早期発見、早期解決が出来るようになり、商品開発の精度が上がり、業績を2倍以上にすることが出来たのです。

このように、行動特性学を応用して、適材適所の人財配置を行うだけで、組織は高いパフォーマンスを出すことが可能です。人財配置のメリットは、人と人を入れ替えることで対応できるため、多額の経費がかからないことです。その結果、大幅に業績がアップすることがあるため、コストパフォーマンスの高い施策と言えるのではないでしょうか?

企業が求める「知識・技術・スキル」は二の次

私は、組織においては個々のスキルよりも人間関係が一番大切だと考えます。なぜなら、上司と部下の仕事に対する満足度が成果に大きく影響を与えるからです。そして、部下に自分の性格を認識してもらうと、目的意識を持って働けるようになります。さらに、「上司が自分の性格を理解した上で指導してくれている」と感じると、社員のモチベーションがアップします。

あるIT系の人材派遣を行っていた大手企業のグループ会社で実際にあった話です。以前から私のコンサルを受けていたAさんが、子会社から親会社のIT人材派遣会社の部長に昇進しました。ちなみにAさんは、PI分析で言うと「未来型(希望)」で、先頭を切って動く人です。「やってみなければわからない」が口癖のタイプでした。

当時のAさんの課題は、派遣する人財と派遣先企業のミスマッチが起こることでした。それが「働かないおじさん」を生んでいました。例えば、PI分析で言う「過去型(リスク)」の慎重さが求められる企業に対して、「未来型(希望)」の人財を派遣してクレームが発生することなどが多くありました。つまり、慎重な作業が必要な現場に、思いきりの良い「未来型(希望)」の人財を派遣してしまったのです。スキル的には問題ない人財でも、本人の性格が派遣先の社風に合わない場合があったのです。

AさんはPI分析を活用し、派遣先企業と派遣する「人財」の相性を考えることにしました。例えば、慎重派でしっかり準備する「過去型(リスク)」の人財を、慎重さを重視する大手企業に派遣するなど、人と企業の相性を考慮しました。

その結果、派遣先の企業からのクレームが激減。それに留まらず、派遣社員に対して「ぜひ、うちの正社員に採用したい」というオファーも受けるようになったのです。

IT系人材の派遣だと、PC関連装置の立ち上げなどで数カ月以上常駐する場合もあります。そのため、スキルだけでなく、職場でのコミュニケーションが大切になってきます。

そこで、Aさんは、出向先の上司と派遣する人財のPI分析を行い、お互いの相性を考慮した上で派遣先企業を決めるようにしました。Aさんは派遣先企業の上司にも、派遣する人の性格を事前に伝えておく根回しも忘れませんでした。その結果、派遣された人が職場でのコミュニケーションを円滑に行うことができ、クレームが6割減少するという大きな成果を出せたのです。

このように、単にスキルの高さだけで人財配置を行うとトラブルを招くこともあります。上司と部下のタイプを考慮し、適材適所の人財配置を行うことでスムーズに進むことが多いのです。

「生まれ持った能力」を“見抜いた配置”が社運を決める

社員の本来の能力を活かせると、同じメンバーでも業績を大きくアップさせることが可能です。強みを伸ばす人事を行うと、社員ひとり一人が楽しみながら働けるため、仕事に対して積極的になるのです。

ある地方の広告代理店のA社長が実際に行った、大きな成功を収めた人財配置の事例を紹介しましょう。A社長は、もともと現場の広告デザインや企画などを行うクリエイターからの叩き上げ社員から、現在の会社を創業した方でした。事業が軌道に乗り、会社は大きく成長しました。しかし、社長業に専念せざるを得なくなり、現場から離れていくのを寂しく思っていました。

あるとき、A社長は幹部たちに対して、「社員の好きな業務をさせることはできないだろうか? 部署間をまたいで仕事ができるようにしたい」と提案しました。幹部全員が反対しましたが、A社長本人も現場で企画の仕事をやりたい希望もあり、何としても実現したいと考えていました。

A社長から私に相談があったのはこの頃です。そこで、私は社員の好きなこととやってみたいことを聞く社内アンケートを実施することを提案しました。A社長はすぐ実行し、その後「自分の好きなことを会社でどうやって活かすのか?」というテーマでフリートーク会議を定期的に開催したのです。

このようなフリートーク会議を何度か繰り返すうちに、少しずつ社内に変化が見られました。上司たちが部下の才能を活かせる部署について考え始めるようになったことです。

そして、A社長は幹部と相談して、従来の業務もやりながら自分の好きな仕事もできるような体制を構築しました。メンバーの才能を活かせる部署がない場合は、新しい部署を新設したのです。

すると、会社に明らかな変化が起こりました。ひとり一人が好きな仕事をやっているため、笑顔があふれる職場になったのです。周りのメンバーと協力し合う雰囲気になり、社内の部署間の垣根もなくなりました。そして、業績面でも過去最高記録を達成。もともとは広告代理店業だけでしたが、新しく不動産事業も立ち上げ、6億円だった年商が5倍の30億円まで増えたのです。

成功の要因は、部下の弱点を強みと捉え直した人財配置にあります。

例えば、「仕事が遅い社員=慎重で仕事が正確」といったように、強みにフォーカスしたのです。そして、社員ひとり一人の強みが活かせる部署に配置することで、楽しんで仕事ができるようになりました。社内全体の楽しい雰囲気がクリエイティブ性を高めたのです。

その結果、クライアント企業への提案の幅が広がり、売上5倍という素晴らしい実績を実現できたのです。そして、それぞれの個性を活かす職場になったことで、優秀な人財が集まってきたことも大きな成功要因の1つでしょう。このように、才能を活かした人財配置は、良い流れを作り出す力があるのです。

「働かないおじさん」を活かす適材適所の法則
豊嶋智明
1954年東京生まれ。株式会社World One 取締役 能力開発事業部。
人財活性のコンサルティングと研修、企業における能力開発サポートを行い、35年超のコンサル業で企業2,000社以上、延べ10万人を超える実績を持つ。組織の人間関係を円滑に図る方法や、適材適所の人事構築などに定評がある。経営者から従業員に至るまで、その人の個性を活かして成果を生み出すための、具体的な戦略・戦術を伝えている。

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