本記事は、豊嶋智明氏の著書『「働かないおじさん」を活かす適材適所の法則』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=taka/stock.adobe.com)

個性無視で配置転換した会社の末路

年功序列の日本型マネジメントは、会社の業績を低迷させることがあります。年功序列の人財配置は、個性と実力を全く無視しているからです。そもそも、モチベーションを下げ「働かないおじさん」を生みやすい構造になっているのです。

具体的な事例だとわかりやすいので、創業50年の通信設備会社の2代目社長に起こった出来事を紹介しましょう。70代の創業社長は、50代の息子の2代目、A社長に事業継承しました。A社長は、会社では10年間現場の設備工事の業務を経験したタイミングでした。

A社長に代替わりして5年が経った頃、社内の役職は、先代の頃から在籍している古参社員で固められていました。総務部長も人事部長も30年以上のベテラン社員で、同じ部署から昇進する「ザ・年功序列」という組織です。

大きな課題は、多くの若い社員が退職していったことでした。新入社員は入社して成果を出しても、上層部の役職が詰まっているため、やりがいを感じる事が難しいのです。年数が経たないと昇進できず、ベテラン社員の割合が多くなります。そのため、IT技術が競合より10年以上遅れており、大手の案件は受注できません。

私の講演会を聞いてくれたA社長から、「会社が何ともならない状況です。何とか解決できませんか?」と相談があったのです。PI分析を行った結果、先代の右腕がモノタイプ・PN型(敏感)であり、2代目社長も同じモノタイプでプロデューサー(PD)型(完璧)だと判明しました。

モノタイプは、実は年功序列を否定できない個性です。PI分析の結果から、社内で問題が放置され続けたのは仕方ないと納得しました。私は、A社長に「競合他社に10年遅れを取っていますよ」「人事は年功序列で行なってはダメです」とあえてはっきり伝えました。なぜなら、A社長が就任してから5年間で全社員300人のうち60人が退職したという危機的状況だったからです。しかも、30代から40代のいちばん戦力になる社員が辞めていました。ほとんどの社員が20年以上働いても係長までしか出世できないのですから、無理もありません。就任して5年間は業績の低迷が続きましたが、私がコンサルに入ってからの5年間でA社長は会社を立て直しました。

実際に行った具体策は、役職についていた古参社員を、専門的な経験や個性を生かせるアドバイザーに配置転換したことです。その代わりに、若い30代から40代の優秀な社員にどんどん役職を与えました。会社は、実力があれば出世できる組織に生まれ変わり、活気が戻りました。

この会社の事例でもわかる通り、年功序列は社員モチベーションを下げる人財配置です。会社にいるだけで出世するのですから、当然と言えば当然でしょう。若手社員は、上司に気に入られることだけを意識するようになり、気がつくと上司と同じ個性の人財ばかりが残るのです。その結果、社員の個性は単一になります。脆弱な企業とは、多様性を失った組織です。なかなか、社内の人間からは気づかないので、注意が必要です。

No.1営業マンをリーダーにしてはダメな理由

多くの企業でやりがちな人財配置は、トップセールスマンを部下育成の役職に異動させることです。しかし、私はNo.1営業マンで活躍した人を営業マンの育成リーダーにする人財配置は、やってはいけない人事No.1だと考えています。これは、プロ野球選手として結果を残しても、コーチや監督で成功するとは限らないのと同じです。トップ営業マンのスキルと部下育成のスキルは、まったく異なるからです。

ある自動車のディーラーのトップ営業マンだったAさんのエピソードで説明したいと思います。Aさんは、所属する営業所の売上全体の6割を1人で叩き出すスーパー営業マンでした。営業所には20人の営業マンが在籍していましたが、何と1人で残り19人の営業売上の合計を超えていたのです! これだけでも、Aさんの実績のすごさが伝わると思います。

Aさんは、地域No.1の業績はもちろんのこと、関東地方でもNo.1の実績を出していました。PI分析の個性は、モノタイプ・PY型(挑戦)であり、まさに営業が天職と言っても過言ではありません。このタイプは、自分の考えや取り組みを徹底的に実行できる人です。

なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?
(画像=なぜ、サボる人ほど成果があがるのか?)

また、モノタイプは、礼儀を大切にします。経営者のお客様の創業記念日にはプレゼントを贈るなど、必ずフォローを欠かしません。そのため、有言実行するAさんは年上の社長たちから大変可愛がられていました。そして、飲み会や交流会にも顔を出したため、紹介が紹介を呼びました。法人相手のため1件の取引も大きく、一気に売上が増えたのです。

このように常に営業所のトップ営業マンを走り続けていたAさんに、会社は部下の育成を行う管理職のポジションを与えました。プレイングマネージャーではありましたが、Aさんは大好きな営業に割ける時間が大幅に減りました。それに引き換え、部下のクレーム対応のフォローに回る時間が増えたのです。敏腕営業マンのAさんは、部下に対して「自分だったらそんなミスはしないよ」と叱責するようになりました。そのうち、アドバイス通りに実行できない部下たちにストレスが溜まり、どんどん仕事が嫌になっていったのです。

もちろん、数人の部下は売れる営業マンとして育ちました。しかし、会議などの雑務も増えていたため、Aさんのモチベーションが大幅に低下し、能力が発揮できず「働かないおじさん」になってしまいました。「やはり、営業マンに復帰したい」という気持ちが日に日に大きくなり、保険業界に転職を決意したのです。

保険営業マンとしてもAさんは、持ち前の才能を発揮しました。ディーラー時代の社長たちの協力もあり、1年も経たないうちにトップ営業マンになりました。保険の営業マンなら憧れるMDRTを何回も取得し、永久MDRTで表彰されるまでの大きな結果を出したのです。

Aさんの華々しい活躍とは対照的に、ディーラーの営業所にとっては大きな痛手でした。Aさんの退職後は、営業所の売上が半分に減ったからです。営業所長は売上ダウンの責任を取らされ、違う地域の営業所に左遷されました。

トップ営業マンを部下育成のリーダーに配置して失敗する企業は、後を絶ちません。トップ営業マンが育成できないと、上司からは「どうして育成できないの?」と責められ、社内評価も下がります。こうやって、次第にトップ営業マンがやる気を無くすのです。私はあらゆる業界で多くの悲劇を見てきました。もちろん、多くの部下をトップ営業マンに育てたい気持ちもわかりますし、そうなったら素晴らしいことです。しかし、トップ営業マン本人の個性を考えたうえで人財配置を行わないと、全員が不幸になる悲惨な末路が待っています。

「働かないおじさん」を活かす適材適所の法則
豊嶋智明
1954年東京生まれ。株式会社World One 取締役 能力開発事業部。
人財活性のコンサルティングと研修、企業における能力開発サポートを行い、35年超のコンサル業で企業2,000社以上、延べ10万人を超える実績を持つ。組織の人間関係を円滑に図る方法や、適材適所の人事構築などに定評がある。経営者から従業員に至るまで、その人の個性を活かして成果を生み出すための、具体的な戦略・戦術を伝えている。

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