フェローテックホールディングス<6890>は、1980年に米フェローテックの日本子会社として設立されたが、半導体大国だった当時の日本市場で業績を伸ばし、1987年に独立した。1999年11月に米NASDAQ市場に上場していた親会社をTOB(株式公開買い付け)で友好的に買収し、親子関係は逆転したものの「フェローテックグループ」が復活。グローバル展開を加速している。

ビジネスの起源は「アポロ計画」

同グループは人類初の月着陸を成功させた米アポロ計画で開発された熱電モジュールで起業したが、現在は半導体ウエハー(基板)や半導体設備向け部品を製造している。真空シールは世界シェアの6割を占める。半導体装置関連は高水準の設備投資が続き、これを追い風に石英製品などが好調だ。

豊富な資金力を背景にM&Aにも積極的に取り組んでおり、事業拡大につながっている。同社の製品はエレクトロニクス産業だけでなく、自動車や家電、医療機器、太陽光発電など幅広い分野で利用されている。こうしたビジネス・ポートフォリオの多様化は、M&Aによる成果だ。

ここ15年間のフェローテックによる主なM&Aを見ていこう。2008年3月に住友金属工業の子会社である住金セラミックス・アンド・クオーツ(東京都千代田区)の株式90%を取得し、子会社化すると発表した。

住金セラミックス・アンド・クオーツがセラミックス事業以外の事業を新設分割させたのち、存続会社の株式を取得。住金セラミックス・アンド・クオーツはファインセラミック製品のほか、マシナブルセラミック製品(機械加工に適したセラミック製品)など数多くの製品を取り扱い、材料開発から一貫生産を手がけていた。

フェローテックが半導体業界における販売ネットワークを活用し、セラミック製品の海外拡販を図るほか、生産品目の拡大を目指す。同7月にはフェローテックセラミックスに社名変更している。

2015年6月には半導体関連部品製造のアドマップ(岡山県玉野市)の株式66.02%を三井造船から取得し、子会社化すると発表した。アドマップは独自の生産技術により高品質な半導体関連部品を製造している。

フェローテックは同製品をグループの販売チャネルを通じて半導体製造装置メーカーに販売するほか、生産体制の拡充でグループの商品ラインアップ強化を目指す。取得価額は8億7800万円だった。


中国での生産増強のため地元資本を受け入れる

2020年9月に中国で半導体ウエハーを製造する全額出資子会社の杭州中欣晶圓半導体股份有限公司(FTHW)の株式60%を、現地の地方政府、民間の投資基金などに譲渡すると発表した。FTHWの中国株式市場への上場を目指すため、現地資本を導入したもの。譲渡価額は約296億円。

フェローテックは中国でインゴット(結晶)からウエハーまで一貫生産しており、ウエハー製造を手がけるFTHWは2019年に立ち上げた。ただ、半導体ウエハー事業は巨額の設備投資を要するため、事業拡大には上場を含む資金調達の多様化が経営課題となっていた。

2020年10月にはドイツ子会社を通じて、超小型サーモモジュール製品を手がけるロシアRMT Ltd.,(ニジェゴロド州)の出資持ち分78.96%(議決権割合60%)を取得し、子会社化した。5G(次世代通信規格)などの通信基地局、光ケーブル、EV(電気自動車)用各種センサーなどに需要が見込まれるサーモモジュール製品の品ぞろえを強化するのが狙い。取得価額は約2580万円。

サーモモジュール製品は2種類の金属の接合部に電流を流すと、片方から片方に熱が移動するペルチェ効果を利用した板状の半導体冷熱素子。フェローテックは中国とロシアの子会社で製造していた。RMTはサーモモジュールの超小型化や多段化に関する技術、2000種を超える少量多品種に対応した生産ノウハウを持ち、同モジュールビジネスの強化を図った。

同12月に米子会社を通じて、米カリフォルニア州で薄膜製造システムの製造・販売を手がけるMeiVacの全株式を取得し、子会社化した。MeiVacは1993年設立で、薄膜製造システムのほか半導体開発に使われる真空処理システムにも強みを持つ。フェローテックは自社の半導体製造装置群との製品・技術補完を通じてシナジー(相乗効果)創出を期待した。