ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みは、投資先や取引先を選択する上で重要な要素の一つであり、企業にとっても自社の持続的成長の要因となっている。本企画では、エネルギーマネジメントを手がける株式会社アクシスの役員が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、坂本哲代表がオイシックス・ラ・大地株式会社執行役員 経営企画本部グリーンプロジェクトリーダーの東海林園子氏にお話を伺った。

オイシックス・ラ・大地株式会社は、有機・特別栽培野菜や添加物を極力使わない加工食品など、安心・安全に配慮した食品やミールキットの定期宅配サービスを「Oisix(オイシックス)」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の国内主要3ブランドで展開している。

同社は食に関する社会課題をビジネスの手法で解決することで持続可能な社会の実現を目指しており、サステナビリティ・ESGにも積極的に取り組んでいる。本稿では、インタビューを通じて具体的な施策や成果、今後目指す姿を紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

オイシックス・ラ・大地株式会社
東海林 園子(とうかいりん そのこ)
――オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 経営企画本部グリーンプロジェクトリーダー
短大卒業後、食品会社の商品企画開発を経て、2006年にらでぃっしゅぼーや(当時)にマーチャンダイザーとして入社。入社後、15年ほど商品開発に携わる。2018年のオイシックス・ラ・大地との経営統合後、2019年よりらでぃっしゅぼーやで商品本部長を務め、2021年1月にグリーンプロジェクトのリーダーに就任。2021年7月に立ち上げたアップサイクル商品を開発・販売するフードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」では、販売開始以来約80トンのフードロス削減に成功(2023年3月末時点)。2022年5月より執行役員。

オイシックス・ラ・大地株式会社
オイシックス・ラ・大地株式会社は、「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の国内主要ブランドを通じ、安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの定期宅配サービスを提供しています。子会社の買い物難民向け移動スーパー「とくし丸」や、米国でヴィーガンミールキットを展開する「Purple Carrot」も含め、食のサブスクリプションサービスを広げています。
当社は、「サステナブルリテール」(持続可能型小売業)として、サブスクリプションモデルによる受注予測や、ふぞろい品の積極活用、家庭での食品廃棄が削減できるミールキットなどを通じ、畑から食卓まで、サプライチェーン全体でフードロスゼロを目指しています。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. オイシックス・ラ・大地株式会社のESGへの取り組み
  2. オイシックス・ラ・大地がニューエコノミー時代に担う役割
  3. オイシックス・ラ・大地株式会社のエネルギー可視化への取り組み

オイシックス・ラ・大地株式会社のESGへの取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):株式会社アクシスの坂本です。弊社は鳥取市に本社を構え、システム開発を中心とした事業を展開しています。約10年前から再エネの見える化システムの開発も始め、地域貢献事業も行っています。本日は御社の取り組みを勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。

オイシックス・ラ・大地 東海林氏(以下、社名、敬称略):オイシックス・ラ・大地でグリーンシフトを推進する、グリーン戦略室の責任者を務めております東海林です。弊社には「Oisix(オイシックス)」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の主要宅配3ブランドがあり、他にも食材卸や保育園事業も手がけるなど、事業創出も行っています。私は会社のすべてにおけるカーボンニュートラルの促進や、お客様に環境に良い生活をお選びいただくための提案などにも携わっています。また、弊社はアップサイクルへの取り組みを強化しており、フードロスを私たちのソリューションで解決するために食の提案もしています。本日はよろしくお願いいたします。

坂本:はじめに、御社のESGに対する取り組みや成果、そこから見えてきた課題についてお聞かせください。

東海林:弊社は「これからの食卓、これからの畑」という企業理念を掲げ、食に関する課題をビジネスの手法で解決することで持続可能な社会の実現を目指しています。これを踏まえて、環境においてはさまざまな問題がある中、弊社では「グリーンシフト施策」として5つの施策に取り組んでいます(下図参照)。

▼オイシックス・ラ・大地のグリーン施策

オイシックス・ラ・大地株式会社
(画像提供=オイシックス・ラ・大地株式会社)

1つ目は、カーボンニュートラル・CO2の問題にどう対応するか。2つ目は、配送のバリューチェーンの問題をどう解決するか。3つ目は、CO2よりも海洋ゴミの観点から脱プラスチックへの対応をどういう形で推し進めるか。それぞれについて目標を定め、取り組みを行っています。

4つ目はフードロス削減の取り組み強化、5つ目はフードロスを価値に変える取り組みです。前者については、当社が元来フードロスが少ないビジネスモデルで運営をしているという点があります。サブスクリプション・会員制であることが大きいのですが、畑とお客様をダイレクトにつなぎ、販売量の計画に基づいて畑に種を植える作付けの段階から生産者と契約しているので、フードロスを少なくできることが要因です。一般的な小売業の廃棄率は5~10%といわれていますが、弊社は0.2%という結果でした。その内訳も流通過程で傷んでしまったなど、やむを得ずお客様にお届けできなかったものです。自社のフードロスをさらにゼロに近づけていくために、オペレーションの改善による食品廃棄物の削減に努め、余剰在庫を子ども食堂などへ提供するといったことも行っています。

▼サプライチェーン全体でのフードロスへの取り組み

オイシックス・ラ・大地株式会社
(画像提供=オイシックス・ラ・大地株式会社)

フードロスを価値に変えるため、2021年7月に「Upcycle by Oisix」を立ち上げ、アップサイクルの強化に努めています。ここでは独自商品の開発を行っていて、例えば生産者の冷凍ブロッコリー工場で廃棄されていた茎の部分や漬物工場で発生する大根の皮を、新しい野菜のお菓子としてお客様にお届けしています。生産者の課題に注目して商品化し、それがお客様にとっても新しい発見となり、「子どもに食べさせるならこういうお菓子がいい」「野菜からできたお菓子なので罪悪感がない」「フードロス削減につながるので胸を張って食べられる」など、ご支持いただいています。ご家庭でもこれらを捨てずに使うようになったとの声もあり、私たちとしても手応えを感じています。

2023年に入り、企業との協業も発表しました。その一つが、1月から始まったチョーヤ梅酒様との共同開発商品の販売です。チョーヤ梅酒様ではこれまでも梅酒づくりで使った梅の実を製品化し、製品化しきれなかったものは飼料・肥料としてリサイクルしていましたが、その梅の実をドライフルーツにアップサイクルしてお客様にお届けする取り組みを始めました。また、2月からは飲食チェーンPRONT(プロント)を展開するプロントコーポレーション様と共同開発した商品の販売も始まっています。PRONT店舗から出る抽出後のコーヒーの豆かすは年間730トンもありますが、商品開発を進める中でコーヒー豆のかすには食物繊維がたくさん含まれており、廃棄するのはもったいない食材だと気づきまして、これもお菓子にして提供しています。フードロス問題を抱えているのは、弊社や弊社に関わる生産者だけではありません。企業様との協業が進んでいるので、私たちとしてもフードロス削減に貢献していることを実感しています。

▼アップサイクルへの取り組み

オイシックス・ラ・大地株式会社
※2023.3 2Q決算資料より
(画像提供=オイシックス・ラ・大地株式会社)

坂本:カーボンニュートラルについても、具体的な施策を教えていただけますでしょうか。

東海林:農業生産におけるグリーン化の推進では、サプライチェーン全体のCO2排出量の見える化を進めています。ここでは、私たちがお客様に商品をお届けする際のCO2排出量であるScope3カテゴリー1も対象に含まれます。一方、弊社は低農薬・減農薬や有機栽培、無添加食材を扱っているためCO2排出量は元来低水準なのですが、今の環境省のGHGプロコトルでは、どんな育て方をしてもトマトはトマト、お肉はお肉として算出します。それでは生産者の方が環境や健康に配慮して作っているものを数字に表しにくいため、農水省によるCO2の見える化プロジェクトに参画し、低水準のCO2であることを定量化するLCA(ライフサイクルアセスメント:製品・サービスによる環境負荷を定量的に算出する手法)の実証実験を行っています。Scope1と2は2024年3月、Scope3は2026年3月にカーボンニュートラルを達成するのが目標です。

坂本:事業拠点のGHG排出削減については、いかがでしょうか。

東海林:自社の排出はもともと低水準でしたが、現在は実質再エネ100%となっています。基本的にはグリーンエネルギーを調達しており、私たちに契約の権限がない拠点に関してはJ-クレジットで補完しています。

坂本:脱プラスチックに関しても積極的た取り組みを進めているとお伺いしています。

東海林:昨今は紙製のストローなどが話題になっていますが、私たちは2020年よりOisixのミールキット「Kit Oisix」の外袋・中袋や青果の梱包資材にバイオマス配合資材を導入しています。最近ではミールキットの小袋の数を減らしてサイズも小さくするなど、プラスチック使用量のさらなる削減にも努めています。

坂本:御社は、次世代フードの製造・販売にも参入していらっしゃいます。そのことについても教えていただけますか。

東海林:プラントベースを含めた代替肉市場は、2030年に世界で約3.3兆円まで拡大するといわれています。成長分野であることに加えて、グローバルのイベントに参加すると、例えばEUでは代替肉を選ぶことが当たり前になっているなど、ニーズの高まりを実感してきました。日本には豆腐など大豆系の食品はありますが、さらに日本人の食の嗜好に合う代替肉を作ることができれば、市場はさらに広がるはずです。食生活に取り入れてもらいやすくするためには美味しさも重要と考えており、私たちはお客様と直接つながって好みを理解できる環境にいますので、良い提案ができればと考えています。現在は植物由来の代替肉「P肉」の販売をスタートしていて、身体と地球にやさしい食事の選択肢を増やす取り組みを行っています。

▼次世代フードへの取り組み

代替肉に近いものとしては、ヴィーガンミールキットの「Purple Carrot(パープルキャロット)」も提案しています。これも、毎日ヴィーガン食ではなく「時々ヴィーガン」というテーマのもと、週に1回ヴィーガンデーをつくる、昨日お肉を食べたので今日はヘルシーなメニューにするなど、ライフスタイルに柔軟に組み込めるヴィーガン食を提案しています。

坂本:幅広い取り組みを行われていますが、何か手ごたえや成果はありましたでしょうか。

東海林:アップサイクルでは、生産者や企業の方から「助けてほしい」という声をいただくようになったことに、手ごたえを感じています。また、学校での授業などを通してサステナブルやSDGsが当たり前になっているお子さまを通じて、アップサイクルの食品を選ぶお客様が増えたことも実感しています。

坂本:サステナビリティの推進体制は、どのように構築していらっしゃるのでしょうか。

東海林:全社における戦略の策定は、私が所属するグリーン戦略室が担っています。幸いなことに弊社の社員はもともとサステナブルに対する感度が高く、我々の部署が推し進めないと前進しない環境ではありません。「大地を守る会」は日本初の有機農産物の宅配システムとして活動をスタートしておりますし、「らでぃっしゅぼーや」は環境保全団体からスタートしています。「Oisix」もお客様にサステナブルな食を提案したい、お客様に提供する価値が上がる環境活動をしたいと考えるメンバーが集まっており、各チームが積極的に施策に取り組んでいます。例えば、脱プラに関しては社内ではドリンクバーを用意してペットボトルを買わずに済むようにし、お弁当も紙のパッケージで販売しています。自然と環境に良い選択ができるようになっているのも、弊社の特徴です。

坂本:従業員の皆さんの意識がもともと高いとのことですが、社内で環境保護に関する啓蒙活動は行っていらっしゃいますか。

東海林:社内でドリンクバーを設置した際には、お米をアップサイクルしたタンブラーを全社員に配布するなどして、全員が楽しんで取り組めるようにしています。また、社員が畑を訪問して現場を知り、生産者と交流するという「畑の体感研修」という社内制度なかで、農地でCO2を貯留するバイオ炭栽培の研修を始めました。

オイシックス・ラ・大地がニューエコノミー時代に担う役割

坂本:DXやIoTの進展により、近年はスマートシティのような構想が現実味を帯びています。来るべき脱炭素社会に向けて、御社がイメージする姿や、その中での役割についてお聞かせください。

東海林:生産者とお客様を直接つなぐダイレクトマーケティングは私たちの強みであり、双方が抱える困りごとを解決できるソリューションも有しています。ニューエコノミー時代の中でも、どこかで起こる課題に対応するのが弊社の役割です。DXを活用して、例えば北海道の生産者が今何をしているのかお客様がわかるなど、生産者とお客様の距離をもっと近づけることもできると思います。以前はお客様を畑にお連れする体感研修を実施していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響やDXの進展もあり、現在は「より身近でできるような提案が、私たちだからこそできるのでは?」と考えています。

坂本:御社は、サステナビリティ・ESGに関する情報をホームページなどで積極的に公開していますすが、その際に心がけていることはありますか。

東海林:今までは発信には力をいれておらず、当たり前のこととして取り組んできましたが、そうではない時代になってきたと感じています。お客様や投資家の皆様にわかりやすい情報を届ける必要があり、そのために定量化してお伝えすることを意識しています。

坂本:顧客や地域に対する、御社独自のプロモーションがあれば教えていただけますでしょうか。

私たちの取り組みをご理解いただくために、学校での特別授業や学生との商品の共同開発、ひとり親世帯に食品を供給するといったコミュニケーションも行っています。また、新潟県十日町市では芸術×サステナブル×食の観点で「大地の芸術祭」にも関わるなど、お客様を巻き込むイベントも数多く実施しています。

オイシックス・ラ・大地株式会社のエネルギー可視化への取り組み

坂本:省エネや脱炭素を進めるには、電力やガスなどエネルギーの見える化が必須といわれています。このエネルギーの見える化に対して、御社ではどのようなことに取り組んでおられるのでしょうか。

東海林:私たちが普段お客様にお届けしている商品のCO2排出量がどれほど低水準なのかを示すことは、非常に重要です。LCAを活用し、数値化する必要があると考えています。

商品単体もそうですが、食文化の見える化もできればよいと思います。例えば和食と洋食、国産と輸入食材など、献立ごとにCO2がどれだけ排出されているかがわかれば、食の選択に役立つのではないでしょうか。

坂本:Scope1~3の集計は、どのような方法で行われていますか。

東海林:年度が終わった段階で1年分のデータを総務部門や会計部門から受け取り、CO2の算定に回しています。

坂本:昨今は、多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。最後に、この観点で御社を応援することの魅力をお聞かせください。

東海林:先ほど申し上げたように、弊社は食に関する社会課題をビジネスの手法で解決することを企業理念としています。企業の存在価値として食の社会課題を掲げており、これは世の中に必要なビジネスです。取り組みを進める中で新たな事業が生まれてくるはずですし、私たちの事業を通じて投資家の皆様にも喜んでいただける成果を出したいと思います。

坂本:御社は「サステナビリティやSDGsを代表する企業」というイメージがありましたが、本日のお話でそのとおりだと思いました。中でも、多くの企業が手つかずのScope3にも取り組んでいるのは先進的だと思います。ありがとうございました。