バブル崩壊の「苦い経験」からM&Aによる多角化へ

こうした建設業関連のM&Aの背景には、ワールドホールディングスの創業者である伊井田栄吉会長兼社長のビジネス歴が関わっている。伊井田会長兼社長は1981年に不動産仲介の三晋産業(現ミクニ)を立ち上げていた。創業者から見れば、不動産ビジネスは「祖業」なのだ。

このほかにもカメラ修理の日研テクノ(大阪市)や農業公園運営のファーム(愛媛県西条市)など、主力の人材派遣・育成事業には直接結びつかなさそうな企業を買収している。

同社がこうしたM&Aによる多角化を進めるのはなぜか?実は伊井田会長兼社長がバブル経済の崩壊によって不動産業界が苦境に陥ったことから、1つの事業だけにこだわることのリスクを痛感したのだという。

そこで伊井田会長兼社長は事業に最低3つの柱を作る「3分の1論」を経営理念に掲げ、バブル崩壊直後の1993年にワールドインテックを設立して人材派遣・育成事業に参入した。

2005年にはイーサポートとネットワークソリューションを子会社化し、オフィスのデジタル化やウェブでの集客・コンテンツ制作・広告運用といったデジタルコンサルティング、モバイルショップ運営などの情報通信ビジネスへ参入。同ビジネスが2008年のリーマン・ショックから同社を救った。

M&Aによる多角化で危機を回避した同社は、伊井田氏の「土地鑑」がある不動産ビジネスを3本目の柱に定め、不動産会社のM&Aを加速したのである。

M&A Online
(画像=M&Aで実現したワールドホールディングスの「3つの柱」(同社ホームページより)、「M&A Online」より引用)


いよいよ「主力」人材派遣業でのM&Aにアクセル

そして2022年からは、満を持して主力の人材派遣業でのM&Aに力を入れている。2022年1月にJ.フロントリテイリング<3086>の全額出資子会社で人材サービス事業を手がけるディンプル(大阪市)の株式90%を37億8000万円で取得し、子会社化すると発表した。

百貨店業界で培ってきた接客スキル・経験を備えた人材を迎え入れ、接客販売やコンタクトセンターといったサービス系人材事業を強化するのが狙いだ。ディンプルは1991年に設立し、J.フロントリテイリング傘下の大丸・松坂屋店舗での接客接遇に関する業務受託に加え、外部企業を対象とする人材派遣・紹介、業務受託などを展開している。

2023年4月には大手メーカー向け製造・技術者派遣を主力とする日本技術センター(兵庫県姫路市)の全株式を取得して完全子会社化すると発表した。基幹事業である製造派遣・請負の基盤強化のほか、西日本エリアでのビジネス拡大につなげる。日本技術センターは1967年の設立で、機械設計技術者を多数抱えている。

円安に伴うモノづくりの国内回帰や人手不足による技術者、生産スタッフの求人難など、ワールドホールディングスが得意とする製造業向け人材派遣の需要が今後さらに高まるのは確実だ。人材派遣業は「ヒト」が唯一の資産であり、競争力の源泉であることは言うまでもない。

「ヒト」を迅速かつ大量に確保するためには、人材派遣業者の買収が最も効果的だ。ワールドホールディングスが昨年から人材派遣業者のM&Aを加速しているのも当然の流れだろう。これから同社による製造業人材派遣業界の再編が一気に加速する可能性がある。