本記事は、田渕直也氏の著書「教養としての『金利』」(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

教養
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複利の魔法

複利の考え方は、資産運用の世界でもとても重要なものです。「複利で運用する」といえば、ひとつの投資対象にできる限り長期に投資し続け、途中で発生した利息や配当、あるいは売却益などの収益もそのつど投資元本に加えて再運用に回すような考え方を意味します。それに比べて、途中で発生する収益を、発生したつど引き出して消費するようなやり方は、さしずめ単利での運用ということになるでしょう。

アメリカにウォーレン・バフェットという非常に有名な株式投資家がいます。一代で十数兆円に上る資産を築き上げた世界トップクラスの富豪で、投資家としてはおそらく世界で最も有名な人物です。彼は、60~70年にわたり、年平均で二十数%の投資収益を上げてきたといわれていますが、さらに重要なのがこの「複利で運用する」という考え方です。つまり、長期投資を行ない、途中で発生した収益は再運用に回すということですね。

配当収入や株式売却益には税金が発生するため、実際には完全な複利運用はできません。ですが、保有する株式が値上がりしていても、ずっと保有したままであれば税金は掛からないので、できるだけ長期間株式を保有し続けることで税金を節約することはできます。さらに、税金以外ではできる限り資金を引き出さずに、収益が発生するつど再投資に回していくのです。

ここでは税金のことは無視して、年あたり25%の収益が上がり、それを60年間すべて複利で運用していったとしたら、当初の元本がどのくらいに増えるかを考えてみましょう。

その答えは、先ほどの複利計算で簡単に求められます。当初元本の(1+0.25)60倍ということですね。実際に計算してみると、65万2,530倍です。当初元本が100万円なら、60年後にはそれがなんと6,500億円ほどにまで膨れ上がることになります。

実際のバフェットの資産額はそれよりも多いので、おそらく投資元本はもう少し大きかったのでしょうが、いずれにしてもとてつもない数字ですね。複利運用を長く続けていくと、桁外れのとんでもない成果が生まれるのです。バフェットは、これを“複利の魔法”と呼んでいます。

もちろん年平均で二十数%の収益を何十年にもわたって上げ続けること自体が至難の業なのですが、実はこの間、アメリカの株式相場全体が平均して年10%くらいの収益を生んできました。ですから、いま60歳の普通のアメリカ人が、40年前、20歳のときに100万円を株価指数に連動するような投資をして、複利運用を続けたとすれば、単純計算するとそれだけで45倍の4,500万円ほどにまで資産が増えた計算になります。

バフェットと比較さえしなければ、これは十分すぎるほどの成果です。複利の魔法は、バフェットのような特別な投資家だけでなく、ごく普通の人でも十分に恩恵を受けられるものなのです。

複利の魔法は、ある意味当然のことですが、1年あたりの収益率が高いほど、そして運用期間が長いほど、その効果が顕著に表れます。たとえば、1年あたりの収益率が12%だったとしたら、当初の100万円は40年後には9,300万円と、10%のときに比べて資産額が2倍以上に膨れ上がります。

運用期間が50年になれば、年10%でも1億1,700万円、12%なら2億8,900万円です。わずかな違いが非常に大きな成果の差を生むところも、複利の魔法の魔法的なところといえるでしょう(図表2-1)。

教養としての「金利」
「教養としての『金利』」から引用
教養としての「金利」
田渕直也
1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。 海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および 金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に 移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。 現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。 シグマインベストメントスクール学長。 『この1冊ですべてわかる デリバティブの基本』『ランダムウォークを超えて 勝つための株式投資の思考法と戦略』『[新版]この1冊ですべてわかる 金融の基本』 『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』 (以上、日本実業出版社)、『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)。

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