本記事は、田渕直也氏の著書「教養としての『金利』」(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

日銀
Satoshi / stock.adobe.com

通貨の番人、日銀とはどんな組織なのか

日本の金融政策を担う日本銀行は、日本銀行法という特殊な法律に規定された特殊な法人です。普通の会社の株式に相当する出資証券は、上場企業の株式と同様に東京証券取引所で売買が可能で、したがって一般の人でも日銀の出資者になることができます。

ですが、日本銀行は株式会社ではなく、株式であればついてくるはずの株主総会での議決権のようなものは付随していません。出資証券を保有しても、その経営には口を挟めないということです。また、出資証券の50%超は政府で保有することが法律で定められているので、民間人が日銀の出資証券の半数以上を保有することはできません。

日本銀行の役割としては、日本銀行券(いわゆる紙幣)の発行、金融政策の決定と執行のほか、「銀行の銀行」、「政府の銀行」としての役割があります。

「銀行の銀行」とは、銀行が日銀に日銀当座預金を開設し、これを通じて銀行間の資金決済を行なうということです。たとえばA銀行にあるBさん名義の預金口座から、C銀行にあるDさん名義の預金口座に送金をする場合、A銀行のBさん名義の口座から残高が引かれ、C銀行のDさん名義の口座の残高が増額されます。これは各銀行内の帳簿上だけの処理ですが、実際の資金の移動は、日銀にあるA銀行の口座からC銀行の口座へと残高が振り替えられることで行なわれるのです。

このように銀行がかかわる資金のやりとりは、最終的にはすべて各銀行の日銀当座預金間の振替に集約され、その結果として各銀行の日銀当座預金残高が増減し、余った銀行の余剰資金はコール市場で運用され、足りない銀行の不足分はコール市場から調達されます。

もうひとつの「政府の銀行」は、政府の財政政策などによる資金の出し入れが政府名義の日銀預金口座から行なわれるということです。

さて、そんな日銀の最高意思決定機関は政策委員会で、総裁と2人の副総裁、6名の審議委員を合わせて9名で構成されています。いずれも任期5年で、国会の同意を得て内閣が指名します。金融政策を審議する金融政策決定会合は年に8回開催され、これら政策委員9名の多数決で政策が決定されます。

これほど重要な役割を果たす日銀ですが、資本金は実に1億円しかありません。まあ、自分でお金を刷れるわけですから、そもそもそんなに資本金は必要ないということでしょう。ちなみに、資本金に加えて各種の準備金や繰越利益を含めた自己資本は、2022年3月末時点で4.7兆円ほどです。

日銀のバランスシート(*1)はかなり特殊で、資産の多くは銀行などから買った国債等の有価証券で占められています。中央銀行の資産総額は金融緩和政策、とりわけ量的金融緩和政策によって大きく膨らむため、金融政策の緩和度合いを示す指標としてしばしば参照されます。日銀の総資産額は、2022年12月末で704兆円に上っており、これは年間の経済活動規模を示すGDPを大きく上回っていて、それに対する比率は世界でも群を抜く水準です。それだけ日銀が長い間金融緩和政策を続けてきたということのあらわれですね。


*1:資産と負債の状況を示す貸借対照表のことです。転じて、総資産の規模という意味合いで使われることもあります。


一方、日銀の負債の多くは、一般の銀行から預かっている日銀当座預金です。それに加えて日本銀行券の発行残高も日銀のバランスシート上では負債として扱われます。負債というのは、一般的にいつかは返済しないといけないものを指しますが、紙幣の発行はあとで何かを返済しないといけないようなものでもない(*2)ので、少し奇妙な感じもしますね。ただ、日銀は紙幣を発行することで資金を調達しているのと同じ効果を得ており、かつその価値を維持するために何らかの義務を負っているということで負債に分類されているのです。


*2:兌換紙幣は、金や銀などの準備資産に交換することを請求できる債務証券としての性格をもっていました。いまの不換紙幣にはそのような請求権はありません。


最後に、日銀は儲かるのでしょうか。これは時と場合によりけりで、利益が出ることもあれば、損失が出ることもあります。たとえば紙幣の発行には金利を付ける必要がない一方で、それを見合いに有価証券などを買った場合、その利回りが収益として得られます。いってみれば金利ゼロで調達したお金を運用して利益を上げているということになります。これを通貨発行益(シニョリッジ)と呼んだりしていますが、普通に考えればこうしたものが日銀の収益源になります。もっとも、日銀は営利を目的とした会社ではないので、必要以上に利益が上がった場合は国庫に納付されることになります。

逆に、日銀の経費や、あるいは日銀当座預金にプラスの金利を付けたりしたときにそのプラスの金利が資産側の有価証券などの利回りを上回ってしまうと、日銀には損失が生じます。その場合にはどうなるでしょうか。

現状、日銀の損失を税金が原資である財政資金で補填することは認められていません。利益が出たら国に納める一方で、損失が出ても国に補填してもらうわけにいかないのが日銀のつらいところです。もっとも、日銀は自分でお金を刷ることができるので、資金不足に陥って倒産することはないはずです。

その一方で、日銀が巨額の債務超過に陥ってしまえば、金融財政政策の持続性や日本そのものへの信頼が失われ、日銀が発行している円の通貨価値暴落を招くリスクがあります。その場合には、財政資金の投入も含め、信頼性を回復するための手当てを講じることが必要になると考えられます。

教養としての「金利」
田渕直也
1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。 海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および 金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に 移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。 現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。 シグマインベストメントスクール学長。 『この1冊ですべてわかる デリバティブの基本』『ランダムウォークを超えて 勝つための株式投資の思考法と戦略』『[新版]この1冊ですべてわかる 金融の基本』 『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』 (以上、日本実業出版社)、『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます