本記事は、田渕直也氏の著書「教養としての『金利』」(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
景気と金利
金利にとって最も本質的なテーマとして、金利はどのようにしてその水準が決まるのかということを取り上げます。
まずは、基本となる景気と金利の関係からです。
経済活動には、お金のやりとりが必然的にともないます。
経済活動が活発になれば、それだけお金のやりとりも増えます。そうすると、一時的にお金が不足して取引に支障が出るというようなことも起きるわけで、そういう場合に備えて、資金の借入需要が高まります。
これは、いわば運転資金のニーズですが、活発な経済活動が続くと、生産能力の向上、新製品・サービスの開発、店舗や物流設備の整備など、いわゆる設備投資のニーズが高まってきます。設備投資は、比較的大きな金額を比較的長い期間にわたって用意する必要があり、資金の借入需要をとりわけ大きく増加させます。
このようにして、景気がよくなり経済活動が活発化すると、資金の借入需要が増加し、それが金利を押し上げていくことになります。お金の奪い合いが起きて、高い金利を払ってでもお金を借りようとする動きが出るということですね。景気が悪くなれば、その逆が起き、金利は下がっていきます。
この景気と金利の関係からすると、金利の高低は、基本的に景気の良し悪しを反映したものということができます。
ただし、こうした基本的な金利変動メカニズムも、近年では必ずしも明確にはみられなくなっているようです。ひとつには、景気自体の変動が非常に穏やかになり、景気がものすごくよくなるといったことが少なくなったことがあります。また、企業は近年、手元資金を豊富にもつようになっていて、景気が多少よくなっても大きな資金調達ニーズが生まれにくくなっています。
さらに日本では、少子高齢化といった人口動態の影響もあって国内市場の成長期待がしぼみ、企業は国内での設備投資を抑制し、投資をするにしても海外を優先するという事例が増えています。海外での投資は、当たり前ですが、外貨の調達ニーズを高めても円の調達ニーズは高めません。
こうして、景気がよくなって、企業の業績も良く、設備投資意欲も高まっているのに金利は上がらないといった状態が生まれやすくなっているのです。
つまり金利は、景気の良し悪しといった経済活動の方向性に影響を受けることはもちろんですが、それだけでなく、一国の経済に、お金を借りてでも投資したい収益性の高い投資機会がどのくらいあるかといったことにも大きな影響を受けるのです。収益性の高い投資機会が豊富にある経済ならば、多少金利が高くても積極的な投資が行なわれ、資金ニーズは高まります。逆に金利が低いということは、その低い金利で借りても十分な利益を上げられる投資機会が豊富にはないことを示しています。
収益性の高い投資機会の多寡というのは、基本的には経済の潜在的な成長余力に左右されます。市場規模が拡大し、生産性も持続的に向上しているような経済なら、良質な投資機会は多く存在するはずです。そう考えると金利の水準は、その国の経済の成長力を反映すると考えることができます。
つまり、成長力が高い国は平均的な金利水準が高くなり、成長力が低い国は平均的な金利水準が低くなります。それに加えて足下の景気がよくなれば、その平均的水準よりも金利が高くなり、景気が悪くなれば低くなります。
ただし金利は、成長力や景気とは関係のない他の悪い要因によって上がることもあります。たとえば財政危機が起きると通貨が売られ、資金が海外に流出します。そうすると、景気云々にかかわらずに、金利は跳ね上がるのです。
ですから、ほどほどの高金利は経済の強さを反映していることが多い一方で、高すぎる金利水準や急激な金利上昇は、それとは別にその国が何か問題を抱えていることを示すことになります。