毛細血管の状態を調べることで将来の生活習慣病未病リスク評価システムの開発に取り組んでいるスタートアップ企業「あっと」(大阪市)の武野團社長は、「ヘルスケア業界のOpenAI社になる」と断言する。
同システムでは毛細血管のデータを入力すれば、OpenAI社のコア技術であるGPTように事前学習済みデータから将来の生活習慣病未病リスクの評価を行うという。どのような仕組みなのか、武野社長にお聞きした。
毛細血管を36項目で解析
-毛細血管を解析することで将来生活習慣病未病になるリスクが分かるということですが、どのような仕組みなのでしょうか。
我々は爪の付け根の皮下の毛細血管を調べることのできる装置を開発しており、この装置を使うと、大阪大学医学系研究科との共同研究により開発したアルゴリズムにより毛細血管の本数、長さ、幅、濁り、血流など36項目についてデータを取ることができる。
毛細血管の状態と、生活習慣や既存の医学検査との相関を調べると、いろんなことが分かってきた。緑内障の患者さんの毛細血管には共通点があり、糖尿病性網膜症の患者さんには、また別の共通点がある。
健康な方の毛細血管を調べ、毛細血管が脆弱化している事で緑内障や糖尿病性網膜症の患者さんと同じような特徴があれば、将来同じ病気を発症する可能性が否定できないのではないかと考えられるということだ。
-この技術をどのように使っていく計画ですか。
ヘルスケア市場は裾野が広く、企業との共創を主にしたオープンクローズ戦略での事業展開を考えている。ヘルスケア業界のIntel社やOpenAI社のようなポジションを取っていく計画だ。わが社は毛細血管のデータを世界で一番たくさん持っており、今後も加速度的に増えていく。
このデータから、ある方の毛細血管がどのような状態なのか、将来どのようになる可能性があるのかという予測ができるようなシステムを開発しているので、こうしたポジションになれると考えている。
-いつごろ実現できそうですか。
自動的に毛細血管を取得する試作機はすでに開発済みで、2025年に大阪で開かれる万博の時には、海外の方にも体験してもらえるようにする。ここで体験した人や企業を橋頭堡として世界に広げていきたい。
目指す世の中を短時間で作れるならM&Aも
-将来どのような企業にしようとお考えですか。出口戦略をお教え下さい。
IPO(新規株式公開)を考えている。健康を保つために健康食品や薬、鍼灸、漢方、さらには運動や寝具などたくさんのソリューソンがある。これらはすでに数兆円の産業になっている。そこに、毛細血管の指標を持ち込むことで、それぞれがどのような効果があるのかが分かりやすくなる。健康難民がエビデンス(裏付け)を持って健康になれる世の中を早く作りたい。
そのためにはヘルスケア企業をはじめ、いろんな企業と連携していきたいと考えており、そうなるとどこかの企業の傘下に入るよりも、社会の公器としてのIPOが理想的だと考えている。海外展開もしっかりと行い、外貨を獲得できる仕組みに仕上げるために世界的機関投資家や政府系ファンドなどからの投資を希望している。
ただ、世界的な企業で、我々が目指す世の中を、最短で作れるような企業があれば、傘下に入ること(M&A)も考える。
-ピッチコンテストに出場されています。こうしたコンテストをどのように見ていますか。
ヘルスケア業界は玉石混交のため、サイエンスやエビデンス、公的機関の評価などが重要だと考えている。このため自社の技術やビジネスモデルを世に問うという意識でピッチコンテストなどに出ている。情報を出すと返り(質問や問い合わせ)もある。こうしたことに取り組むのは有用だろう。
-他のスタートアップ企業にアドバイスはありませんか。
オセロでいうと、角(かど)は取るべきだろう。知財だとか、エクイティ(資金調達)などが角に当たる。どんな企業から資金を入れるかは重要だ。企業の色が付くと事業の広がりが阻害されるリスクもある。当初は中立的な企業から資金調達をすべきだろう。
-御社の資金調達についてはどのような計画をお持ちですか。
今、準備しており、今までは中立的な企業に出資してもらっていたが、今回は連携を加速するため、ヘルスケア企業からの出資も考えている。
【武野 團(たけの・だん)氏】
2006年、父親が開発した毛細血管スコープ「血管美人」の事業を継承
2009年、研究開発型ベンチャー企業の「あっと」を設立
2013年、大阪大学医学系研究科との共同研究「非侵襲による指先の毛細血管観察画像の測定システムの開発」を開始
2014年、ものづくり補助金に採択
文:M&A Online