本記事は、桑原晃弥氏の著書『自己肯定感を高める アドラーの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

International human rights day concept: Silhouette of man raised hands at sunset meadow
(画像=Choat / stock.adobe.com)

他人との比較で落ち込むな。
昨日の自分と比較して
どれだけ上手になったか、
成長できたかを大切にしよう。

自分に自信が持てないのはなぜでしょうか。

私たちは子どもの頃から自分と他人を比べて、落ち込んだり、優越感を持ったりすることを繰り返します。あるいは、自分では意識していなかったのに、親や学校の先生による「格付け」によって「他人との差」を意識させられることもあります。

その過程で自信を持つことよりも落ち込むことの方がしばしばです。

第5回WBCにおいて、日本代表は3回目の世界一に輝きましたが、その時、大リーグでも活躍する大谷翔平選手のフリーバッティングの凄まじさを見せられた日本選手の中には、圧倒的なパワーの差に「野球選手をやめたくなった」と自虐的なコメントをした人もいました。もちろん本心からではないのでしょうが、日本を代表するプロ野球選手でさえ、劣等感を感じ、心が折れそうになることもあるのです。

ましてやごく普通の人はなおさらです。すべてに自信満々の人は少なく、ほとんどの人は何らかの劣等感を持っています。しかし、劣等感は決して病気ではありません。

それどころか努力と成長への刺激であるとアドラーは言っています。

劣等感が病的になるのは、落ち込んでしまい、成長が阻害される時です。あるいは、人より優れていないのにもかかわらず、優れているふりをして、劣等感を無理やり補償しようとする時です。

だから、やたらに他人と自分を比べたり、他人からの評価を気にかけたりするのは、有益なことではありません。

人からよく言われれば喜び、人から悪く言われると悲しむ。そんな「他人の評価」や「他人との比較」を繰り返しているだけでは、人として成長することはできません。まして自分を信じ、自分に自信を持つことなど望むべくもありません。

「切磋琢磨」というように、良きライバルの存在は成長への大きな励みになりますが、その一方で他の人が自分より優っていると知り、「どうせ努力してもムダなんだ」「どんなにがんばっても勝てっこないや」と努力することをやめてしまうのは大いに問題です。

こうしたことを繰り返していてはどんな課題だって達成するのは不可能です。

アドラーは子どもたちを励ます時、水泳を例に出して、最初は誰でも泳ぐのは大変で、泳ぎを覚えるには時間がかかったはずだとして、こう言っています。

「最初は泳ぐのが大変だったことを覚えているだろうか? 今のように泳げるようになるまでには時間がかかったと思う。何でも最初は大変だ。でも、しばらくするとうまくできるようになる。集中し、忍耐し、何でもいつもお母さんがしてくれると期待してはいけない。他の人が君より上手だからといって心配してはいけない」

他の人が自分より上手かどうかは実は自分には関係ありません。他の人と比べるのではなく、自分自身があと少しの努力をして上手になればいいだけのことなのです。

人の価値は他の人からの評価だけで決まるわけではありません。

何より大切なのは他の人の評価や、他の人との比較にとらわれることなく、目の前にある課題に全力で取り組むという姿勢なのです。

たいていの子どもは最初は泳ぎに苦労しますが、やがて泳げるようになります。成功することで勇気づけられ、チャンピオンになっていくのです。

「他の人が自分よりうまい」と認めるのは時に辛いものですが、大切なのは「落ち込む」ことではなく、自分自身が「昨日の自分より少しでもうまくなる」ことなのです。その繰り返しが自分を成長させ、自信へとつながっていくのです。

アドラーの名言:他の人が君より上手だからといって心配してはいけない。

正しい努力、適切な訓練を
積み重ねることで
たいていのことはできるようになる。
自己肯定感はその過程で
育まれることになる。

アドラーの心理学の特徴は、人間の持つ可能性を無限に信頼するところにあります。

親は、どうしても自分の子どもと同い年の子どもを比べて一喜一憂してしまうところがあります。

よその子の様子を見ながら、「うちの子の方がいろいろなことができる」と喜ぶ親もいれば、「うちの子はよその子に比べて成長が遅れているのではないか」と不安になり、思い悩む人もいます。

なかにはそれが行き過ぎて自分の子育てが間違っているのではと自分を責める親もいれば、「うちの子はダメなのか」と自分の子どもの可能性を疑う親もいます。

ある幼児教育の専門家は、ある時期、自分の子どもの「百ます計算」が遅いことに大いに悩んだと言います。

長男は早い時期に「百ます計算」を1分以内でできるようになったのに対し、次男はいつまでたってもできませんでした。

最初は「自分の教え方が悪いのか」「この子のできが悪いのか」と悩みましたが、ある日、次男は本来左利きなのに、文字を書く時は右手に直そうと、右手で文字を書かせていることに思い当たりました。

そこで、「1から100までの数字を雑でいいから右手で60秒で書けるようにして」と伝え、訓練したところしばらくして数字だけなら60秒で書けるようになりました。まさに訓練の賜物です。

そこで、「数字を60秒で書けるんだから、計算だって60秒を切れるよ」と励ましたところ、「百ます計算」もあっという間に1分以内でできるようになったのです。

原因は「自分の教え方が悪い」からでもなければ、「子どものできが悪い」からでもありませんでした。単に「適切な訓練」の不足だったのです。

まさにアドラーの「適切な訓練が続けられれば、他の人ができることは何でも成し遂げられるようになる」という言葉通りでした。アドラーはこうも言っています。

「よく訓練されたり教育を受けていない子どもたちも、教師が方法を理解させることができれば、よい成果をあげる」

人はたいていのことは訓練すればできるようになります。但し、訓練のやり方が間違っていたり、訓練を続ける忍耐力に欠けているとそうはいきません。間違った訓練をどれほど続けたとしても、期待通りの成果が出ることはありませんし、「すぐに成果が出ないから」と訓練をやめてしまうようでは、永久に成果は出ません。

「1万時間の法則」という言葉を聞いたことのある人は多いと思います。

たいていのことは1万時間の練習をすれば、プロやそれに準ずるレベルにまで能力を高めることができるという法則のことです。

1万時間を長いと感じるか、短いと感じるかは人によって違いがあると思いますが、大切なのは、たとえ今置かれている状況は違っていても、訓練や努力次第でたいていのことはできるようになるということです。

もちろん個人差はありますし、努力の仕方が間違っていたとしたら、やり続けても意味はありませんが、正しい努力、適切な訓練を続けることができれば、あとは「どれだけの時間を努力や訓練に費やすことができるか」なのです。自信や自己肯定感は魔法のようにして手に入るものではありません。長い時間をかけて根気よく正しい努力を積み重ねる中で自然と育まれるものなのです。

アドラーの名言:適切な訓練が続けられれば、他の人ができることは何でも成し遂げられるようになる。

自己肯定感を高める アドラーの名言
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。 著書に、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)、『「ブレない自分」をつくるコツ アドラー流 一瞬で人生を激変させる方法』『スティーブ・ジョブズ名語録』(以上、PHP研究所)、『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい!仕事術』(笠倉出版社)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学』(KADOKAWA)、『逆境を乗り越える渋沢栄一の言葉』(リベラル社)、『amazonの哲学』(大和文庫)、『イーロン・マスクの言葉』(きずな出版)、『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』(ぱる出版)などがある。

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