本記事は、桑原晃弥氏の著書『自己肯定感を高める アドラーの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
不完全である勇気、失敗をする勇気、
誤っていることが明らかにされる勇気の3つの勇気があれば、
人生の課題に対処できるし、成長できる。
「勇気」は、アドラーの心理学を特徴づける言葉の1つです。
それは「勇ましさ」というよりも、「人生のよくある問題に対処することが、いつも勇気があることである」と定義されています。アドラーは、「勇気の最も優れた表現の1つは、不完全である勇気、失敗をする勇気、誤っていることが明らかにされる勇気である」と、人生で必要な3つの勇気を挙げています。
①不完全である勇気
自分は失敗することもある、不完全な人間だと認めてこそ、人は行動を起こすことができます。
失敗して怒られるのが嫌だから、失敗して周りから笑われたくないから、あるいは自分は失敗などしない優れた人間だと思っていたいがために、行動を回避しようとするのは、勇気がないことになります。
初めての仕事を命じられた時、経験の浅い若い社員なら誰だって緊張し、不安になって最初の一歩を踏み出せなくなってしまうものです。
その原因は経験のなさに加えて、「失敗したくない」「完全でありたい」という願望が強すぎるからです。そんな時にはこんな言葉を思い出すといい。
「100点を目指すな、60点でいい」
これはトヨタの工場などで初めての仕事に挑む社員に上司がかける言葉です。
100点を目指すから、行動を起こすのが怖くなり、躊躇します。そうではなく、「60点でいい」と割り切ってまずはやってみます。たとえ結果は不完全であっても、そこから「もっとこうしたらどうだろう」と考えながら改善を繰り返すことで最後に100点になればそれでいいというやり方です。
これがアドラーの言う「不完全である勇気」です。
②失敗をする勇気
目の前の課題を避けることは「勇気がない」ことであり、課題に対処することが「勇気がある」と言われるのはなぜなのでしょうか。
理由は人生は常に成功が約束されているわけではないからです。
成功が100%約束されていれば挑戦には勇気は不要です。
しかし、なかには困難で、失敗する恐れがある課題もあります。そんな時、失敗を恐れ、他の人の評価を恐れて課題への挑戦を避けるようでは成長はありません。
大切なのは失敗を恐れることなく、挑戦することであり、失敗から多くのことを学んで成長するのが「失敗をする勇気」です。
③誤っていることが明らかにされる勇気
失敗をした時に最もやってはいけないのは、失敗したことを認めようとせず、失敗を周りの人たちから隠そうとすることです。その結果、小さな失敗はより大きな失敗につながり、時に取り返しのつかない事態を招くことになるのです。
それよりも失敗したことは素直に認め、なぜ失敗したのかをきちんと分析します。そうすることで失敗は成長につながり、成功をもたらすことになります。メンツを重んじて失敗を認めないのは、自分にしか関心のない人です。
このような3つの勇気を持つ人は、仕事においても良い働き手となれるし、良い友人になることもできます。人は成功からも失敗からもたくさんのことを学ぶことができます。だからこそ、人は困難な課題に挑戦することができるのです。
アドラーの名言:勇気の最も優れた表現の1つは、不完全である勇気、失敗をする勇気、誤っていることが明らかにされる勇気である。
挑戦には失敗はつきものであり、
失敗を恐れるばかりでは
人として成長することはできません。
失敗したら、失敗を認め、
失敗から学べばいいのです。
「不完全である勇気」が物事の達成に大切なように、「失敗をする勇気」「誤っていることを明らかにする勇気」は、自己の成長に重要な要素と言えます。
「失敗をする勇気」を持つ人の関心は、目の前の課題をいかに解決するかに向いています。失敗を恐れることなく、常に前向きでいます。
しかし、失敗をひどく恐れる人の関心は、どうしても他者からの評価や叱責に向くことになります。失敗をして悪く言われたくないという体面にとらわれるため、結果的に厄介な課題への挑戦を避けるようになります。
これでは、人としての成長は望めません。
このような人に、アドラーは次のようにアドバイスをしています。
「われわれは皆誤りを犯す。しかし重要なことは、誤りを訂正できるということである」
失敗を恐れず、失敗から学ぶ人だけが成長できます。
私たちは誰でも、幼い頃からさまざまな失敗を繰り返す中で学び、成長をします。むしろ最初からうまくいくことは少なく、誰もが失敗し、傷つき、その過程で新しいことを学び、身につけ、成長をするだけに、失敗を過度に恐れる必要はありません。
1904年、『医学界新聞』に掲載された「教育者としての医師」と題する論文でアドラーはこう主張しています。
「罰ではなくて、ほめることと報酬を選ぶべきである。そして罰を科すのであれば、子どもに誤りを教え、代わりの行動があることを伝えるべきである」
たとえば子どもが失敗をした時に大切なのは厳しい罰ではなく、失敗した後にどうするかを教えることです。
相手を傷つけたなら謝罪することを教え、やっていいこととやってはいけないことをきちんと教えます。
ものを壊したなら可能な限り原状に戻すという責任を引き受けます。
大切なのは失敗しないことではなく、失敗した時に正しい行動を取り、かつ失敗から教訓を学ぶというのがアドラーの教えでした。
失敗を前向きに捉えることで成功したのがユニクロの経営者・柳井正さんです。
柳井さんによると、「ユニクロ」というブランドが多くの人に認知されるようになったのは今から20年余り前、東京・原宿に店を出したことと、その後に訪れる空前のフリースブームからです。
柳井さんによるとそれ以前のユニクロは成功の一方で失敗も多い会社でした。ユニクロの主力商品はカジュアルウェアですが、柳井さんは普段着としても着られるスポーツウェアばかりを集めた「スポクロ」という店や、ファミリーカジュアルを集めた「ファミクロ」という店を企画、計35店舗を出店したものの、1年も経たないうちに撤退しています。
大変な失敗です。しかし、柳井さんは新しい事業はどんなに計画をしっかり立ててもやってみなければ分からないことも多く、うまくいかないことはよくあると考えていました。
問題は、失敗したと判断した時、すぐに撤退できるかどうかです。反対に「せっかくこれだけのお金をかけたのにやめるのはもったいない」と躊躇し、「ここでやめたら責任を問われることになる」といったメンツからずるずると撤退を引き延ばすと大けがをすることになります。
新しい挑戦には失敗もつきものです。大切なのは失敗を避けることではなく、致命傷になる前に退く勇気であり、失敗から次へのヒントを学ぶことなのです。
アドラーの名言:われわれは皆、誤りを犯す。しかし重要なことは、誤りを訂正できるということである。