メタ認知は、自分を客観視し行動を統制する能力として、ビジネスや教育の分野で注目を集めている言葉だ。すでにメタ認知ができている経営者は多いが、改めてどんな概念かを知ることで、人材育成にも生かしやすくなる。
メタ認知の意味や、メタ認知の能力が高い人、低い人の特徴、メタ認知の鍛え方を解説するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
メタ認知とは
メタ認知とは、俯瞰的な立場から自分の感じたことや考えたことを把握し、制御することだ。「自分の認知を認知すること」ともいえる。
メタという言葉には「より高次の」「超越した」という意味がある。認知とは、五感から情報を得る、理解する、覚える、判断する、決定する、推測する、想像するなど人間が持つあらゆる知的機能を指す。
メタ認知というと難しく聞こえるが、多くの人は日常的に自然とメタ認知的活動を行っている。
たとえば「自分は今、相手の発言にいら立っている」と気づいたり、逆に「自分の発言が相手を悲しませてしまったかもしれない」と推測したり、「この仕事を完了させるには半年はかかる」と判断したりする。これらはすべてメタ認知の働きによるものだ。
メタ認知の起源は、古代ギリシアの哲学者ソクラテスの「無知の知」といわれている。「無知の知」とは、「知らないことを自覚する」ことがすべての出発点で、それを自覚できる者こそ賢いという意味だ。
その後、心理学者のジョン・H・フラベルが「メタ記憶」を提唱し、メタ認知は認知心理学の用語となった。最近では、人材育成や経営など教育やビジネスの分野でもメタ認知が重要な能力として注目され始めている。
メタ認知の能力が高い人と低い人の違い
続いてはメタ認知の能力が高い人と低い人の違いを具体的に見ていく。
「期限までに資料を提出しなかった部下を注意したところ、ムッとした顔をされた」という状況で、メタ認知の能力が高い人と低い人が、それぞれどんな対応をするかを見ていこう。
メタ認知の能力が高い人の特徴と具体例
メタ認知の能力が高いAさんは、すかさず部下がムッとしたことに気づき「なぜムッとしたのか」と考えた。そして、部下のこれまでの仕事ぶりや性格、能力を踏まえて「期限や仕事量に問題があったのかもしれない」と推測した。
Aさんが提出できなかった理由を尋ねると、仕事量が多い中、先輩に半ば無理やり仕事を押し付けられていたことが判明した。そこでAさんは「仕事量が多すぎるときは上司に相談して調整すること」「優先度に応じて期限を調整すること」を部下にアドバイスした。
部下は素直に反省の色を示し、謝罪と感謝の言葉を口にして戻っていった。
Aさんは部下を見送りつつ、個々の業務量が見えにくい現状は生産性に悪影響を与えていると考えた。そこで、業務量や期限を可視化するシステムを導入したいと考え、予算やスケジュール、メリットやデメリットを調査した上で、今度社長に提案してみることにした。
Aさんは、メタ認知によって「期限を守らない部下が悪い」と一方的に決めつけるのではなく、さまざまな可能性を想定しながら、多角的に物事をとらえ、改善へと導いた。
このように、メタ認知の能力が高い人は、洞察力があり、人間関係を円満にする力や失敗を改善につなげる力を持っているという特徴がある。
メタ認知の能力が低い人の特徴と具体例
メタ認知の能力が低いBさんは、部下のムッとした表情に腹が立ち「期限を守れないのは社会人失格だ」と強く叱責し、長々と説教をした。一応部下が謝罪し、Bさんも気が済んだので「次からは絶対期限を守るように」と指示して部下を席に戻らせた。部下が納得したかどうかBさんが注意を払うことはなかった。
結局、その後もBさんが知らないところで先輩が部下に仕事を押し付ける状況は続き、部下が期限を守れないことがたびたびあった。Bさんは「何度も言っているのになぜ期限を守れないんだ」と叱責を続け、部下はそのまま転職してしまった。Bさんは「仕事のできないやつだった」と考えた。
Bさんはメタ認知の能力が低いため、「注意した部下がムッとしたこと」に腹を立てるだけで、「なぜ部下はムッとしたのか」「どこに原因があったのか」「同じ過ちを繰り返さないためにどうすればいいのか」といった多角的な視点から問題解決をはかることができない。
メタ認知の能力が低い人は、周りが見えていない、話が通じないといった印象を抱かれることが多い。また思い込みが激しく、空気が読めないこともある。