【特別対談】AIの力で、司法サービスはもっと身近で使いやすくなる (前編)

AIを活用した「ロボット弁護士」など士業サービスを展開するRobot Consulting社は、「法を利用する人の格差」をテクノロジーで解消することを目標に掲げており、2024年3月を目途に米国のナスダック市場へ上場およびIPOを行う準備に入ったことを発表しました。

企業理念として「法の一般化」を掲げる同社の横山英俊 代表取締役会長と、弁護士で元大阪府知事・大阪市長の橋下徹氏が、AI時代にあるべき司法サービスについて語り合いました。伝統的な士業サービスに対する問題意識や、ロボット弁護士などで実現していきたい世界観とはいかなるものなのか、前編・後編の2回に分けてお伝えします。

橋下 徹氏
弁護士。弁護士法人橋下綜合法律事務所 代表
1997年弁護士登録。翌年に大阪市北区で橋下綜合法律事務所を設立。2008年2月に当時全国最年少の38歳で大阪府知事に就任。2011年12月に大阪市長に転じて一期務めた後、任期満了で大阪市長を退任。政界引退。
横山 英俊氏
株式会社Robot Consulting代表取締役会長。投資家
ファウンダー兼代表取締役。SAKURA法律事務所アドバイザー。ASC社労士法人相談役。

専門家が経営に向いているとは限らない 士業も例外ではない

横山氏(以下、敬称略) まず、当社の事業について説明したいと思います。当社ではAI技術を活用して、法律をオートメーション化した「ロボット弁護士」サービスを提供しています。

私自身は士業の資格を持っていないのですが、社労士法人の仕事や弁護士法人の経営に携わっておりまして、ロボット弁護士は、関連するAIテック会社のメインのサービスです。資格者ではない者が士業に関わるビジネスの形は増えてきているのですが、弁護士である橋本さんはどのようにお考えですか。

【特別対談】AIの力で、司法サービスはもっと身近で使いやすくなる (前編)

橋下氏(以下、敬称略) 私が公職時代に公立病院改革に関わっていたときに散々言っていたことでもあるのですが、医療技術を提供する資格者が医師です。病院という組織をマネジメントする経営者は、医師とは求められる能力が別ものなのに、どうしても医師の世界では医師が経営することが当然とされていました。

同じように弁護士の世界も、弁護士資格を持って法律実務をやっている弁護士が、弁護士の組織を経営するのが当然だというふうに思われています。でも、医師国家試験や弁護士の司法試験に、組織経営などという試験問題は全く含まれていません。

いわば、組織経営の能力があるかどうかわからない人が病院や法律事務所を経営しているわけで、国民にとっては不幸なことです。医療サービスや司法サービスを良い方向にしていくには必ず、経営能力がある人が経営に関与する必要があると思いますね。

横山 私はこういう仕事をやっておりますので、弁護士や社労士なのかとよく聞かれるのですが、とても違和感があります。逆になぜ、資格を持っている人だけがやるのですかと思うのですが。

橋下 そうですね。皆が当たり前だと思い込んでいる人でなければ経営ができないというのは、繰り返しになりますが国民にとって不幸ですよ。ただ、弁護士法上は、弁護士法人の正式な社員、いわゆる役員には弁護士しかなれない規定があります。横山さんのような方はおそらく、アドバイザーなどの形で関与されるのでしょうが、これは絶対変えなければいけない。

農業もそうです。農業が衰退していったのは、農家の皆さんが農業法人を経営しなければいけないとなっていたから。農家の方が農業を営むことと法人を経営することは全然、違いますからね。規制緩和でやっと農業法人の半数近くまで、農家の人以外が関与できるような仕組みになりつつあります。

我々弁護士の世界はサービスの拡充が遅れているので、経営のプロが斬新な司法サービスを提供するという視点で経営に関与してくれるような環境を整えないと、日本の司法サービスは世界でどんどん遅れていきますね。

現行法では違法の「非弁活動」 しかし既得権益ではないのか

横山 私がロボット弁護士サービスに着目した理由は二つあります。まず、弁護士に会いに法律事務所に行くのは面倒であること、そして弁護士の時間を取るのも難しく利用者側のストレスになっていることです。

橋下 横山さんは国民や消費者の立場に立つことで、現在の弁護士の世界のおかしな点をダイレクトに認識し、変えていこうとされているのですね。弁護士資格を持っている我々は法律事務所を経営しているので、弁護士の否定から入ることはありませんから、改善しようという気持ちにならないわけです。

弁護士に会いにくいことは、売り手市場にあるということ。弁護士にとってプラスなのです。競争がないということですから。国民からすれば最悪な状況ですけれども、弁護士は少々偉そうにしていられる。これを横山さんがみておかしいと感じ、変えていこうという動機が強くなり、AIを導入したということですね。

横山 ロボット弁護士の法律相談はオートメーションで行い、基本的に全て無料で提供しています。

橋下 弁護士法上の問題があるからでしょう。弁護士以外の者が法律実務をやると、弁護士法違反になるという非弁活動ですね。

横山 非弁とは、具体的な定義がありませんよね。いわば古い、強制的な枠組みの中にはめ込まれているような状況です。何が非弁で、何が本質的なサービスだといえるのか。ネットに出ている情報のどこまでなら非弁に当たらないのか、誰も答えを持っていないのです。そこに対して非弁という理屈をぶつけてくるというのは、既得権益の圧力がすごいなと感じてしまいます。

【特別対談】AIの力で、司法サービスはもっと身近で使いやすくなる (前編)

橋下 非弁禁止、つまり弁護士ではない者が法律事務をやってはいけないという弁護士法上の規定は、弁護士の仕事を守るためだけにあります。さすがに医師の場合は特殊技術かと思うので、医師免許を持たない人があふれかえっていたら怖いですが、国民が判断できるのであればブラック・ジャックのような人がいてもいいかもしれませんね。ただ、いずれにしても医師国家試験は必要だと思います。

一方で、弁護士の法律事務の仕事、例えば消費者金融の債務整理の事案は、ほとんど弁護士が携わらなくても事務員でできます。法律事務所が本来やるような仕事は、お金を貸している側の消費者金融が全部下拵えをして、最後に法律事務所が和解契約書を作る程度です。しかし、莫大な報酬が弁護士のもとに渡ります。それは、弁護士しかやってはいけないという法律があるからです。

これをAIができるということになれば、消費者金融で困っている人たちは格安の値段で、自分で債務を整理できますよ。

横山 本来はそちらの方が、消費者の絶対的な利益になると思うのですが、それをさせないのは、弁護士会の既得権益ですよね。資格者を守らないといけないからですね。

橋下 自分の仕事が取られてしまうという恐怖感が大きいのではないですか。

弁護士が本来すべき業務は、AIを超えたところにあるはずだ

横山 AIが普及していくと、弁護士業界などはどこまで仕事がなくなると思いますか。

橋下 さまざまな論文によると、AIの発達によって仕事が奪われる確率が高いのは会計士や弁護士ですよね。もう必ずそういう例は出てきますよ。でもそれは、今までの会計士や弁護士が、AIに代わられてしまうような作業に忙殺されていたということでもあります。本来は、AIがやっていることを超えたところに付加価値を見出して、そこに人間たる会計士、人間たる弁護士が存在しなければならないと思うのです。

例えば、今まで高い費用をもらっていた契約書のチェック、特に外国語の契約書のチェックは非常に高額な報酬が発生していたのですが、こういうのは全部AIに置き換わります。でもAIでいいのです。弁護士は契約書のチェックのような事務作業ではなくて、契約書を作る前の戦略面で、「こういう方針で企業を運営していかなければならない」「こういう方向性で相手方と合意を結ばなければいけない」といった部分をやるべきなのです。方針が決まった後に、明文化するのもAIでいいと思いますね。

横山 その通りです。

橋下 もう一つは、依頼者の前捌きですね。依頼者の方は何か問題を抱えているけれど、うまく問題点を整理できない。ここを誰かがうまく前捌きできればいいと思っていて、ここにもAIが入ってくる余地が十分にあるのではないかなと思います。

【特別対談】AIの力で、司法サービスはもっと身近で使いやすくなる (前編)

横山 ヒアリングシートのことですね。弁護士の多くは、カウンセラーのように相談を受けていますよね。長いカウンセリングの末にやっていることは、判例に基づく判断だけ。それをAIができれば、ヒアリングシートをさっと取れるのではないかと思っています。

橋下 ヒアリングは、日本の弁護士業界の非生産的な要素が特に詰まっている部分です。ほとんど同じことを一から全て、弁護士が聞かなければいけないかというと、全然そんなことはありません。しかし、この相談を聞くという業務を事務員がすると、非弁になってしまうのです。ヒアリングは弁護士がやらなければいけないというのが原則なので。

例えば、消費者金融の債務整理の事案でどんどん広告を打って高額な報酬を受け取っている法律事務所も、相談部分は弁護士がやらなければいけないということを、弁護士会からかなりきつく言われて守っています。実際に、弁護士ではない事務員がヒアリングをしていたことが判明し、弁護士会から懲戒処分を受けた弁護士もたくさんいます。

でも、消費者金融で困っている人たちの事案で、「いくら借りましたか。いつからですか」と同じことを聞くのに、資格を持った弁護士がそれだけ時間を割かなければいけないのかというと、違うと思います。

後編に続く