【特別対談】メタバースが「ロボット弁護士」のフィールドになる ルールとして、また秩序を守る存在として(後編)

より開かれた、手の届きやすい司法サービスを提供すべきだという理念のもと、発展を続けているRobot Consulting社。前編では、同社の横山英俊 代表取締役会長と、弁護士で元大阪府知事・大阪市長の橋下徹氏が、AIを活用した司法サービスを展開するうえで課題となっている非弁活動に代表される問題意識をもとに、今後の司法サービスのあり方について議論しました。

後編では、AIによる「ロボット弁護士」に内在する課題について掘り下げるとともに、Robot Consulting社がメタバース空間で展開していきたいサービスやビジョンについて語り合いました。

橋下 徹氏
弁護士。弁護士法人橋下綜合法律事務所 代表
1997年弁護士登録。翌年に大阪市北区で橋下綜合法律事務所を設立。2008年2月に当時全国最年少の38歳で大阪府知事に就任。2011年12月に大阪市長に転じて一期務めた後、任期満了で大阪市長を退任。政界引退。
横山 英俊氏
株式会社Robot Consulting代表取締役会長。投資家
ファウンダー兼代表取締役。SAKURA法律事務所アドバイザー。ASC社労士法人相談役。

AIはどこまで法律家の代替になれるか――AIが出す「判決」を受け入れられるか?

横山氏(以下、敬称略) 最近は生成AIが司法試験に受かるようなレベルにまで来ています。そうなると、裁判官や弁護士のほとんどの業務をAIができるのではないかと私は解釈するのですが、橋下さんはどこまでAIが入り込んでくると思いますか。

橋下氏(以下、敬称略) おそらく、法律家の仕事の作業的な部分はAIでほぼできますし、AIの方が正確になってきていると思います。例えば刑事裁判では、刑罰の程度を決める量刑が不公平になるといけないので、自分が担当している事案と同種事案を一生懸命探すというのが、刑事裁判官の重要な業務だったのです。

被害者が何人だとか被害金額がいくらだとか細かい事情も見ながら、似た事案の判決はどれぐらいの懲役刑を科しているのか。今はこれがデータベース化されていますので、裁判官はそこにアクセスして、懲役刑の程度についての感覚をまず獲得しているのです。この作業をAIがやることで、今のデータベースよりはるかに精度の高いものが完成すると思います。

ただ問題は、AIが判決を出したとして、国民の皆さんが最後に納得できるかという点ですよね。正確性に関してはAIで十分だと思うのですが、判決が出たときの納得感については、人間の口で言ってもらわないと。例えば、AIが「死刑」という判決を出したらどうでしょうか。これで自分が絞首刑にされて命を奪われることに納得できるかなというのが、今の私が疑問に感じている部分です。

横山 確かに、人間が作ったAIによって人間が死刑にされるのは、きついですよね。

【特別対談】メタバースが「ロボット弁護士」のフィールドになる ルールとして、また秩序を守る存在として(後編)

橋下 私は政治家に関して、論理的な正当性と主観的満足度の二つを満たすような政治をしなければいけないとよく言います。人間は、理論だけでは納得できないときがあるのです。福島の原発の処理水問題でもみられるように、安全性について科学的に認められたとしても、安心という面では皆が納得できていない。

同じことは、知事や市長をやっていたときに痛感しましたね。現場で議論して決着がつかないと、「知事が判断してください」と私にボールが回ってきます。行政のエキスパートたちが議論してわからないことが、私にわかるか!と(笑)。でも、選挙で選ばれた知事が決めたのだからということで、ある程度納得してもらえたりするのです。

法律のAIについても、AIで色々な下拵えはするのだけれど、最後の決断は、正確性を担保するためではなくて納得度を高めるために、人間の法律家が判断して言わなければいけないのかなと、今は思っています。

横山 現時点のAIの技術で実現できないことは、権威性だと言われています。例えば私が刑事事件に巻き込まれたとして、最も信用するのは人間の弁護士だと思います。がんになったらAIドクターを信じるのではなくて、自分が信頼する人が紹介してくれたお医者さんが「大丈夫だよ」と言ってくれる部分に、安心感を得るものです。

橋下 やはりそこに人間が必要になってくるのですね。

横山 そうですね。今後は、専門的な領域はAIにさせて、人間は管理することが仕事になっていくと見据えています。

プロダクトは「法律」 メタバースと掛け合わせて広がる世界とは

横山 メタバースという言葉を聞いたことがあると思いますが、橋下さんはどのように感じられていますか。

橋下 正直なところ、メタバースが世の中をどのように動かしていくか捉えきれていないので、逆に横山さんのような方に、どういう世の中になっていくのかをお聞きしたいですね。

横山 ありがとうございます。今のAIの技術的な特異点として、リアルと同じ世界が作れるようなところに向かっていくのではないかと思います。人間の技能や病気、行動パターンなど、ざっくりとしたことはもう、だいたい計算できます。メタバースのデジタル空間に人間のアバターを表現できれば、そのままスライドするだけの話です。

橋下 法律の世界に、メタバースはどうつながってくるのですか。

【特別対談】メタバースが「ロボット弁護士」のフィールドになる ルールとして、また秩序を守る存在として(後編)

横山 メタバース空間へと移行していく中で、経済規模がある程度大きくなってくると法律が必要になってきます。一定の経済規模ができるとトラブルが生じるのは歴史上明らかで、そこに何らかの被害を受ける人が出てくるからです。例えば、ショッピングサイトの中で働く人や、映像や歌を作るような創作活動を行う人など、いろいろな人が関わるようになるので、トラブルに対処するために「法律」が必要になるのです。その法律を、メタバースの中で表現します。

橋下 メタバースのデジタル空間ではおそらく、距離を飛び越えて法律家、それこそロボット弁護士のような存在へのアクセスを良くしていくのでしょう。そうなると、リアルの世界で適用されている法律とは少し違った考え方のルールや法律を作っていかなければいけないと思いますが、いかがでしょうか。

横山 そうですね。当社はメタバースの中でサービスを展開して、リアルの法律世界でいうところの「判例」のようなものをどんどん蓄積していきます。それを積み重ねていくと、ちょっとしたメタバースのルール、いわば「憲法」になるのです。実はそこがメインのプロダクトになると想定してサービスをやっています。法律そのものをプロダクトにするのは、世界中を探しても当社以外にないはずです。

橋下 そこまで見越しているのですね。司法試験ではリアルの世界で適用される法律を一生懸命勉強することになりますが、メタバース空間の中での共通ルールはたぶん、地域や空間を飛び越えるのでしょうね。そうなると、国際法のような共通ルールの中で動くようになる。リアルな空間では「国」という属地的なルールが形成されますが、メタバースではもう、そこの世界自体が“国際”であるので、先にデファクトスタンダード(事実上の標準)を取りに行った方が強くなりますね。

横山 メタバース不動産という言葉を聞いたことがありますか?このために当社は、Web3のクラウド上で署名できるようなサービスを取り入れています。正確には、デジタル世界なので「不動産」ではありません。しかし今はそうだとしても、今後人が増えたらどう扱うのか。リアル世界の現行の不動産契約書は、まず当てはまらないはずです。当社が扱うのはそのための、メタバース不動産に対する不動産契約書です。

あとは例えば、メタバースで働く人の雇用契約書も同様で、その場合の契約書にも着手しています。メタバースでの働き方は違うので、人事評価制度も違ってくることになります。

メタバースでの「法律」や「憲法」そのものが秩序を守っていく存在になる

橋下 メタバースであるがゆえの法律の体系は、誰かが考えなければいけない。ただ、政治にそうした意志はみられないし役人も考えていないので、民間の方で先にルールを作っていったほうがある意味、価値になっていくかもしれませんね。

横山 そうですね。私はメタバースにリアルな世界にあるような国ごとの法の領域は、基本的に「ない」という考えです。リアルな世界の法律で縛ってしまうと、仮想空間で好きなことができないからです。たぶん、消費者もファンタジーとして求めていないと思います。とはいえ、国際法のような、ある程度のルールを守るための存在は、絶対に必要です。そこが、憲法のような役割になっていくのです。

橋下 本当にそうですね。そうなると、例えばメタバースの「法廷」があったとして、ルールについてはAIがサッと対処するでしょうから、メタバース上の「弁護士」は、弁護士が資格いらないですね。

横山 いらないです。

橋下 リアルの世界では、法廷の秩序を守りながら機能するために弁護士資格は必要だと思うのですが、メタバースで「裁判官」や「弁護士」にAIが入るとすると、AI同士でルールを大前提として動けるので、それこそ正確性さえ担保できれば資格は不要というわけですね。

横山 その通りです。こうしたメタバースやAIに対して、日本は国として、どのように向き合うべきだとお考えでしょうか。

【特別対談】メタバースが「ロボット弁護士」のフィールドになる ルールとして、また秩序を守る存在として(後編)

橋下 まず、政治家も役人も、私たちも含めて皆将来がわからないことに関しては、全力で取り組むべきだと思いますね。わからないからといって足踏みして世界に遅れを取ってきたのが日本ですから。世界では今、ネットの中でデータを食べて成長する生成AIが著作権の侵害になのではないかと議論している中で、日本だけは制限付きながら著作権の侵害にならないとの考えで、生成AIがデータを取得する天国のようになっています。

ただ、AIに関して世界は規制に傾いているなかで、むしろ日本はやっと世界の中でリードできそうな雰囲気も感じています。この状況を無駄にせず、メタバースやAIをとにかく活用していくのだというマインドを持ってチャレンジする人に委ねるという政治が必要です。

横山さんがやろうとしていることは、無資格だと非弁活動として日本の法律に触れてしまうので、今のところは無償の前さばきのような作業をロボット弁護士にさせて、本当に人間の弁護士との相談が必要な場合には、リアルな弁護士につなぐというところに力を入れているということですね。

横山 そうです。橋本さんのような理解がある方に見守っていただけると、とてもありがたいですね。

橋下 国民や消費者の視点に立って、司法サービスを充実させるためにはどうしたらいいのかを考えるべきですよね。そのためにロボット弁護士をどう使って、どのようなルールを作るかという点も、重要ですね。頑張ってください。

横山 サービスを充実させて、世の中に貢献したいと思います。ありがとうございました。