カンブリア宮殿,おおこうち内科クリニック
(画像=テレビ東京)

この記事は2023年9月21日に「テレ東BIZ」で公開された「患者ファーストを追求する 異端児ドクターの挑戦!:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 患者も家族も安心できる~これまでにないクリニック
  2. 来院から会計終了まで30分~とにかく早い診察の秘密
    1. 〇常識破りの仕組み1~待ち時間が短い
    2. 〇常識破りの仕組み2~診断書も待たせない
    3. 〇常識破りの仕組み3~どんな患者も断らない
  3. 日本の医療を変えたい~理想を阻んだ厳しい現実
  4. 持病を抱えるスタッフを雇用~意外すぎる手当の狙いとは?
  5. ~村上龍の編集後記~

患者も家族も安心できる~これまでにないクリニック

6年前、悪性リンパ腫という診断を受けた名古屋市の小椋亜希子さん。現在、半年に一度、再発がないか検査している。今回は大腸の内視鏡検査を受けることにした。この日は娘の奏音さんが付き添うことに。向かったのは自宅から車で1時間かかる愛知・稲沢市のおおこうち内科クリニックだ。

以前、治療を受けた病院ではその間、待つことしかできず、奏音さんはジリジリとする時間を過ごした。「すごく不安でした。母がどういう状況か分からないし、心配することしかできない」と言う。

おおこうち内科クリニックでは、家族が希望すれば検査に立ち会うことができる。

▽おこうち内科クリニックでは、家族が希望すれば検査に立ち会うことができる

カンブリア宮殿,おおこうち内科クリニック
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検査が始まり、大腸の奥のほうに1センチほどのポリープが見つかった。「簡単に取れる?」という家族の質問にも答えながら、検査は手術に移行。見ている前でポリープを摘出。検査も手術も隠すことなく見せてくれるのだ。

「私の不安も解消されました。母も『いてくれて良かった』と言ってくれて、患者も家族も安心でした」(奏音さん)

おおこうち内科クリニックは専門が糖尿病という内科。同じ規模のクリニックが1日50人程度の患者数なのに対し、ここは県外からも含めて、その4倍の200人の患者が詰めかけている。

▽県外からも含めて200人の患者が詰めかけている

カンブリア宮殿,おおこうち内科クリニック
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このクリニックを医師1人で切り盛りする院長・大河内昌弘(59)は「医者の方を向いている医療が多い。チーム医療をやることで常識を覆すことに取り組む」と言う。

来院から会計終了まで30分~とにかく早い診察の秘密

〇常識破りの仕組み1~待ち時間が短い

病院への不満といえば、まず待たされることが挙げられるが、ここでは患者が「待ち時間が少ない」と口を揃える。鍵を握るのは24人もいるスタッフだ。

▽鍵を握るのは24人もいるスタッフ

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朝9時半。咳が続きやってきた浅野幸男さんは、症状を書き込みスタッフに提出。問診票は別のスタッフが受け取り、バックヤードに行くと、電子カルテに打ち込み始めた。通常は医師が行う仕事だが、「医師が診察室でする仕事を減らすため、できることはスタッフがやる」と言う。こうしてスタッフが事前に済ませておくことで診察までの時間が2、3分短くなる。

待合室はいっぱいだったが、浅野さんは受け付けから10分で呼ばれた。診察中も、スタッフが患者と大河内のやりとりを聞きながら、電子カルテに測ったばかりの酸素濃度を打ち込んでいく。通常、医師が診察しながら行う仕事をスタッフが代わりにやることで時間を短縮。医師は患者に集中できる。

処方箋のやりとりも同様に診察室のスタッフが反応。医師の指示した咳止め、抗生物質などを選び、電子カルテに打ち込んだ。最後に大河内がチェック。浅野さんの診察時間は2回で合計3分かからなかった。

それぞれの診察がこれだけ早いから患者の待ち時間も短くて済む。10時過ぎ、浅野さんは30分ほどで会計まで終了した。

「この先生のいいところはパソコンばかり見るのではなく、患者の目を見て伝えてくれる。安心感があります」(浅野さん)

〇常識破りの仕組み2~診断書も待たせない

健康診断の診断書の発行も早い。早く出せる秘密は血液の分析マシーン。「普通は外注で他の会社に検査を出すが、ここでは全部一括でやっている」と言う。このマシーンがあれば血液中の糖やコレステロールの量、ガンマGTPなどを10分ほどで分析できる。だから普通は1週間待たされる診断書を即日発行することができるのだ。

▽健康診断の診断書の発行を早く出せる秘密は血液の分析マシーン

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〇常識破りの仕組み3~どんな患者も断らない

大河内は専門外に見える患者も断らない。できる限り調べて、必要があれば大きな病院に送るのだ。

「他の病院に行く間に治療が遅れて、早く治るものが重症化する可能性もある。だからできる限りいろいろな病気を診ないといけない」(大河内)

診察以外でも、スタッフが他の病院では見ないようなサービスを率先して行っている。足の悪い患者がいれば車に乗るまでサポート。汗だくの患者を見つけるとタオルを手渡す。定期的に来ている耳の不自由な患者に声掛けも。院内で不安にならないよう常に気を配っているのだ。

大河内は今まで患者が「仕方ない」と諦めていた医療の常識を変えようとしている。

「『評判のいいクリニックをつくりたい』というちっぽけな話ではない。日本全国の医療を変えたいんです」(大河内)

▽「日本全国の医療を変えたいんです」と語る大河内さん

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日本の医療を変えたい~理想を阻んだ厳しい現実

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大河内に命を救われた人がいる。今年1月、職場に復帰した愛知・稲沢市の家具職人、永井豊さん(64)だ。去年の夏に発熱し、喉に痛みが出た。いくつかの病院を回ったが、原因が特定できず、痛み止めを処方されただけ。しかし、大河内は「声が出ないというのは窒息の予兆ではないかと思った」。

すぐさま救急車を呼び、大きな病院に搬送。そこで喉に膿が溜まって気道を塞ぎ、一刻を争う状況だったことがわかった。

「僕の命を守るためにベストを尽くしてくれたということではないか」(永井さん)

大河内は1964年、愛知県内の兼業農家の家庭に生まれた。人生が大きく動いたのが小学4年生の時。脳が炎症を起こす髄膜炎にかかった。この時、病気の特定に時間がかかり、危険な状態になった。

▽大河内さんは1964年、愛知県内の兼業農家の家庭に生まれた

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「『お父さん、お母さん、もう手遅れです。死ぬかもしれないし、運良く助かっても、半身不随になったり言葉がしゃべれなくなるかもしれない』と言われたそうです」(大河内)

しかし、命の危機から生還し、高い確率で残ると言われた後遺症もなかった。この経験を経て決意する。

「本当に医療はすばらしいと思った。自分の命を助けられたから、今度は助ける番だと思ったんです」(大河内)

1984年、猛勉強の末、名古屋市立大学の医学部に進み、そのまま大学病院に内科医として入局する。しかしそこにあったのは想像とはかけ離れた世界だった。

▽名古屋市立大学の医学部に進み、大学病院に内科医として入局する

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自分の患者でも、その日の症状が専門外と判断されれば、診察することすら許されない。上司に「診させてほしい」と訴えても、相手にもされなかったと言う。

「どんな病気でも困っている人が来たら力になれる医者になりたいと思っていたので、こんなところで働いていてはいけないと思ったんです」(大河内)

そこで大河内は大学病院をやめ、2012年、自分のクリニックを開業した。しかし、思いもよらない事態が起こる。

当時、大学病院時代の受け持ち患者がそのまま来院してクリニックはとても混み合い、ひどい時は2時間以上待たせることもあった。するとクレームが相次ぎ、スタッフはその対応で手一杯にとなり、疲れ果て、やる気も失っていったと言う。

当時から働いている事務担当の古川明日香は「クレームが多いとスタッフが疲弊して余裕がなくなり、スタッフ同士のいざこざが増えていきました。ケンカしたりトイレで泣いたり、ボロボロの暗黒時代です」と振り返る。ついにはスタッフが次々と辞めていった。

「従業員がいないから仕事が回らない。患者さんに見破られて『ここはヤバい』『潰れる』という噂が流れるくらいの状況でした」(大河内)

大河内は「スタッフを大切にしなければ理想の医療は実現できない」と気づき、改革に着手する。まず忙しすぎるスタッフのために人数を増員、この10年で3倍になった。さらにチームの連携で患者の待ち時間を短くする仕組みを構築。結果、仕事に余裕が生まれ、スタッフは自ら患者に寄り添うようになった。いつしかクレームもなくなり、それぞれが生き生きと働ける明るい職場に変わったのだ。

「自分で考えてやってみて、それが患者さんに喜ばれると、『もっとやりたい』『何かできるかも』という意識に変わっていったと思います」(古川)

いい循環が生まれ、開業から10年で患者数は4倍に伸びた。

「スタッフを大切にすれば、自然と患者さんが喜ぶことを考えるスタッフが育っていくということです」(大河内)

今では大河内の取り組みを見たいと、全国から視察団が来るようになった。

▽大河内さんの取り組みを見たいと、全国から視察団が来るようになった

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この日は東京から形成外科の医師とスタッフがやってきた。気温が30度を超える中、外に出て患者を出迎える光景を目撃すると、思わず「すごいな」という声が。大河内の診察を間近で見た医師も、「診療時間は短いが、患者さんは何の問題もなく帰っていく。すごいなと思います」。

事務や栄養士などのスタッフも、持ち場を超えて患者のために動く光景に感動していた。

「普通は『クリニックってこういうもの』『看護師の仕事はここ』と分断されていますが、それを取り払って患者さんが喜ぶことは何でもやっている。なかなかできないことです」(事務担当)

持病を抱えるスタッフを雇用~意外すぎる手当の狙いとは?

▽看護師の浅野生恵さんが受けていたのは血液検査、ここで治療を受けている。

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看護師の浅野生恵が受けていたのは血液検査。結果が出たところで大河内が診察する。

実は浅野は小学生の時に糖尿病を発症しており、ここで治療を受けている。検査や診察にかかる費用はすべてクリニックが負担してくれる。

「私が今やっている治療で月に2~3万円かかっています。ありがたいとしか言えない」(浅野)

持病を持っているのは浅野だけではない。スタッフの半数以上がさまざまな持病を抱えていると言う。こうしたスタッフを雇う狙いを大河内がスタジオで説明した。

「病気になった時の患者さんの心は、自分が病気になった人ほど分かる。だから持病を抱える人たちを雇い、医療費を負担して働きやすい環境にしました」

▽病気になった時の患者さんの心は、自分が病気になった人ほど分かる

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また、おおこうち内科クリニックにはスタッフのためのさまざまな制度がある。セミナーや英会話講座をただで受講できる。コストコの年会費も払ってもらえる……ユニークな福利厚生が多いが、さらにとっておきの手当ても。

「美容院手当というのをやっています。女性は髪の毛を切るとテンションが上がり、『次の日から頑張ろう』となりますから」(大河内)

~村上龍の編集後記~

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医師の家系ではなく、兼業農家で金がなかった。医師になるまで、たくさんの苦労があった。小学生のときに髄膜炎を。「もし助かっても後遺症は覚悟」医学部生のとき「白斑」にかかり、自殺を考えた。見舞いに来た親が「親より先に死ぬなよ」

そして大河内先生は、クリニック開業後に、「ホスピタリティ・おもてなし」を導入する。患者が殺到し、病気がなくても行きたくなると言われる。世界ナンバーワンの医療コンビニ、即日、診断書を発行する。そんなクリニックは、おそらくない。だがごく普通、だからすごい。

<出演者略歴>
大河内昌弘(おおこうちまさひろ)
1964年、愛知県生まれ。1990年、名古屋市立大学医学部を卒業、名古屋市立大学第一内科に入局。2010年、消化器代謝内科学床准教授に就任。2012年、おおこうち内科クリニック開業。