〔要旨〕
- 地政学的リスク:ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以来、地政学的リスクが高まっているにもかかわらず、先週のグローバル株式市場は、多くの人々が懸念したような大幅な売りには見舞われなかった
- 金融政策:FRBによる利下げがいつ始まるのか、2024年に何回利下げが行われるのかを焦点とする金融政策の今後の道のりには、依然として不確実性が残っている
- 中国経済:中国経済は、不動産セクターなど一部に弱さが見られるものの、その他は底堅く、まちまちの状況が続いている
1. 市場は地政学的リスクへの感応度を幾分低下させつつある
2. 中央銀行は今も市場を動かしている
3. 米国経済は引き続き底堅さを示す
4. 中国経済の状況は依然としてまちまち
5. 原油価格に興味深い動きが発生
6. 米国の決算シーズンは堅調な滑り出し
注目の日程
今週もニュースのヘッドラインでは、不確実性、混乱、カオスに満ちた状況が引き続き報じられましたが、私は一歩引いて、今日の経済・市場に影響を及ぼしている重要テーマについて考えてみることが有益だと思います。以下では6つの重要テーマについて取り上げました。
1.市場は地政学的リスクへの感応度を幾分低下させつつある
ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以来、地政学的リスクが高まっているにもかかわらず、先週のグローバル株式市場は、多くの人々が懸念したような大幅な売りには見舞われませんでした1。米政府機関の閉鎖危機に対する市場の感応度が低下したように、地政学的衝突に対する市場の感応度も幾分低下しているようです。
だからといって、地政学的リスクが市場に全く影響しないわけではありません。イスラエルとハマスの衝突の事態が波及し、他の国々が巻き込まれることへの懸念が根強いため、「セーフヘイブン」資産クラスと見なされるものへの選好が高まっています。
需要増により米国債の価格上昇と利回り低下が引き起こされ、米10年物国債利回りは先週、4.629%まで低下しました2 。また金価格は、ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以来、100ドル近く上昇しました2。
米下院議長の不在により、地政学的リスクが悪化していることは言うまでもありません。10月3日にマッカーシー米下院議長が解任されました(米下院が議長の解任動議を可決したのは史上初めてです)が、後任をめぐる議論は今も続いています。
2.中央銀行は今も市場を動かしている
中央銀行、特に米連邦準備制度理事会(FRB)は長年にわたって市場を動かしてきました―そしてそれは今日も続いています。これは地政学的リスクによって市場が不安定化しにくいことを意味するため、むしろ今は、良い事といえるのかもしれません。しかし私達は、中央銀行の発言やドットプロットが、市場そのものを不安定化させることがないように、ということについても願わねばなりません。
ここ一週間の「Fedspeak(FRB関係者の発言)」がよりハト派的だったのは、良いニュースでした。より多くの米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが、タイトになりつつある金融環境がFRBの仕事の多くを肩代わりしている(つまり、インフレ制御のための更なる利上げは必要ないはずだ)との、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁の発言を支持しました。
しかしFRBによる利下げがいつ始まるのか、2024年に何回利下げが行われるのかを焦点とする金融政策の今後の道のりには、まだ不確実性が残っています。その理由は、FOMCの9月会合議事要旨において、FRBが依然として非常にデータ依存的であるとの姿勢が明らかになったためです:「(FOMCの)全出席者が、FOMCが慎重に進むべき立場にあり、あらゆる会合における政策決定は、新しく入った情報の全体像及び、それが経済見通しとリスクバランスに対して持つインプリケーションに基づいて行われ続けるべきだということに同意した3。」
株式と債券は、今後のFRBの政策が明確化するまでは、(かなり幅はあるものの)レンジ内での取引が続きそうです。
3.米国経済は引き続き底堅さを示す
国際通貨基金(IMF)は、米国経済成長率の見通しを2023年は2.1%、2024年は1.5%に上方修正しました(7月時点で発表された2024年米国経済成長率1%の見通しからの大幅な上方修正)4。
しかし米国経済の底堅さのためか、インフレが再び頭をもたげる懸念は依然として根強く残っています。9月の米消費者物価指数(CPI)は、予想をやや上回りました5。ヘッドラインCPIは前月比0.4%の上昇、前年同月比3.7%の上昇となりました。食品とエネルギーの価格を除いたコアCPIは前月比0.3%の上昇、前年同月比4.1%の上昇となりました。
以前にも注意喚起したように、インフレ関連のデータポイントが全て完璧(に足並みが揃っている)わけではありません。しかし私の見るところ、トレンドは明らかです。インフレの数値は改善しつつあり、ディスインフレのプロセスが続いています。一部のインフレは、とりわけ粘着的になる可能性があります。しかし、9月のインフレデータへの懸念が、週末にかけてドル高を後押ししました。例えばインフレのタカ派は、食品・エネルギーの価格に加えて住居費を除いた「スーパーコア」インフレ率の粘着性に注目していますが、私はこのようなインフレのタカ派は「木を見て森を見ず」ではないかと思っています。一歩引いて見ると、米国経済は堅調に推移しつつも減速しており、それに伴いインフレも低下していっています。
4.中国経済の状況は依然としてまちまち
中国経済は、不動産セクターなど一部に弱さが見られるものの、その他は底堅く、まちまちの状況が続いています。
中国の9月の月次輸出と社会融資フロー総量は予想を上回りましたが、消費者物価は前年同月比で横ばい、生産者物価は前年同月比で2.5%下落し、需要の減退を示唆しました6。また大手不動産デベロッパーによる債務支払いが滞っていることから、不動産セクターについては引き続き大きな懸念が残っています。
最近の中国政府系ファンドによる4大国有銀行の株式買い増しや、「安定化基金」設立の可能性など、政策当局が市場の安定化に向けて的を絞った政策を取り続けることにより、市場のセンチメントが改善し始める可能性があります。先週IMFは中国の経済成長率見通しを下方修正しましたが、2023年は依然として堅調な5%(2024年は4.2%)の成長率見通しとなっています7。
5.原油価格に興味深い動きが発生
高いバリュエーションと世界経済の不確実性の両方により、エネルギー価格の大幅上昇が短期的に阻まれる可能性が高いと考えられます。加えて数週間前には、原油価格の上昇が需要の一定の減退につながった兆候が現れました:
「米国では、マクロ経済指標の悪化と需要破壊の兆し(ガソリン出荷量が過去20年で最も低い水準に落ち込んだ)が供給懸念に取って代わった。為替効果と補助金撤廃により燃料価格上昇の影響が増幅したことから、需要破壊は新興国に対して、より深刻な打撃を与えた8。」
私はこうしたプレッシャーは、比較的高い価格水準付近での多少のボラティリティにつながるだろうと想定しています。重要なのは、原油価格が一定価格以上に上昇する可能性は低いということです。
6.米国の決算シーズンは堅調な滑り出し
S&P500種構成企業の2023年7-9月期の混合収益成長率(実際に報告された収益と未報告企業の予想収益)は、決算シーズンの好スタートにより、9月末から若干改善しました。9月末時点では、S&P 500種構成企業の7-9月期の予想収益成長率は-0.3%でしたが、先週金曜日の時点で、混合収益成長率は0.4%に改善しました。
既に決算発表を行った企業は全体の6%に過ぎませんが、うち84%は予想を上回る決算を発表した(大部分が金融セクター)という点に留意することが重要です9。今週は、金融セクターの更に多くの企業、大手航空会社、テスラ、シュルンベルジェ、ネットフリックスを含む、50社以上のS&P500種構成企業が決算発表を行う予定となっており、2023年7-9月期の業績について更によく知ることができるでしょう。
注目の日程
今後について、私はドイツとユーロ圏のZEW景況感指数に注目したいと思います。カナダ、ユーロ圏、英国、日本のインフレデータは、金融政策へのインプリケーションの観点から非常に重要となります。米国については、小売売上高、鉱工業生産、中古住宅販売件数に注目する予定です。中国については、国内総生産(GDP)、失業率、鉱工業生産が発表される重要な週となります。また私は、しばしば重要な洞察を得られる情報ソースとなる、FRBのベージュブック(米地区連銀経済報告)掲載の定性的情報にも関心を持っています。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
10月17日 | ドイツZEW景況感指数 | 今後6カ月間の景況感を測定 |
10月17日 | ユーロ圏ZEW景況感指数 | 今後6カ月間の景況感を測定 |
10月17日 | カナダCPI | インフレの動向を示す |
10月18日 | ユーロ圏CPI | インフレの動向を示す |
10月18日 | 英国CPI | インフレの動向を示す |
10月19日 | 日本CPI | インフレの動向を示す |
10月17日 | 米小売売上高 | 消費需要を測定 |
10月17日 | 米鉱工業生産指数 | 鉱工業部門の健全性を示す |
10月19日 | 米中古住宅販売件数 | 住宅市場の健全性を示す |
10月17日 | 中国GDP | 地域の経済活動を測定 |
10月17日 | 中国失業率 | 労働市場の健全性を示す |
10月17日 | 中国鉱工業生産指数 | 鉱工業部門の健全性を示す |
10月18日 | FRBベージュブック | FRB の 12 の各地区ごとに現在の経済状況に関する 定性的情報を要約 |
(執筆協力:デヴィッド・チャオ、アンドラス・ヴィグ)
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
- 1.出所:Refinitiv Datastream、インベスコ Global Market Strategy Office
- 2.出所:ブルームバーグ、2023年10月13日
- 3.出所:FOMC 9月会合 議事要旨
- 4.出所:IMF世界経済見通し、2023年10月10日
- 5.出所:米労働統計局、2023年10月12日
- 6.出所:中国国家統計局、2023年10月13日
- 7.出所:IMF世界経済見通し、2023年10月10日
- 8.出所:国際エネルギー機関(IEA)月報
- 9.出所:Factset Earnings Insight、2023年10月13日
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2023-166
インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。
(提供:Wealth Road)