この記事は2023年10月20日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「米経済の軟着陸の実現で23年末は1ドル=149円の着地に」を一部編集し、転載したものです。


米経済の軟着陸の実現で23年末は1ドル=149円の着地に
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10月6日に発表された9月の米雇用統計は労働市場の底堅さを示す結果となり、米長期金利は上昇した。ドル円はドル買い・円売りが優勢となり、一時1ドル=149円50銭台をつけた。しかしその後、米連邦準備制度理事会(FRB)の高官から「最近の国債利回り上昇で追加利上げの必要性が低下した」といったハト派的な発言が相次ぎ、米長期金利が大幅に低下。ドル円はドル安・円高方向に転じ、日本時間の10月10日の朝方には148円10銭台となった。

このように、足元では米金融政策を巡る思惑で米長期金利とドル円の振れ幅が大きくなっている。本稿では、米景気と金融政策に関するシナリオ別に、当面のドル円相場の方向性を考えてみたい。

これまで当社は、米金融政策について10月31日、11月1日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpの追加利上げが行われると予想していた。しかし、前述のFRB高官の発言を踏まえ、追加利上げはいったん見送りとの見方に変更した。ただし、米雇用情勢は依然として底堅いことから、12月12日、13日に開催されるFOMCでは、25bpの追加利上げが行われるとみている。

その後、政策金利は相当な期間据え置かれ、物価と雇用の伸びが緩やかに鈍化することで、米経済の軟着陸(ソフトランディング)が実現すると考える。このシナリオの下、米10年国債利回りは今年の年末時点で4.7%、来年3月末時点で4.6%を予想している(図表)。ドル円については、来年3月末まで日本銀行の金融政策に変更はないと想定していることから、今年の年末は1ドル=149円、来年3月末は148円の着地を見込んでいる。

以上が当社のメインシナリオだが、サブシナリオとして、例えば米雇用情勢の強さが継続し、物価の伸びの鈍化が遅延するケースを考えてみたい。この場合、市場はあらためて米政策金利水準が「より高く、より長く」(Higher for longer)なることを意識するだろう。さらなる追加利上げの思惑から、米10年国債は5%台への到達をうかがい、ドル円は150円~155円のレンジに入ることが想定される。

ドル円が150円台に乗った場合、政府・日銀による為替介入への警戒も強まると思われるが、介入判断はその時点のドル円の変動率(ボラティリティー)次第とみている。今後のドル円相場を展望する際にはメインシナリオが前提となる。その上で、主に米国の雇用や物価に関する経済指標を見極めながら、米金融当局者の発言や米長期金利の動向も踏まえて金融政策の行方を予想していくことになるだろう。

米国のコア物価2%超えは危険信号
(画像=きんざいOnline)

三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト/市川 雅浩
週刊金融財政事情 2023年10月24日号