この記事は2023年10月20日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「新日本科学 【2395・プライム】日本初の医薬品開発業務受託機関」を一部編集し、転載したものです。

独自の創薬支援プラットフォームを確立
2029年3月期売上高経常利益率40%へ

新日本科学は、1957年に鹿児島で創業した日本初の医薬品開発業務受託機関(CRO)だ。非臨床試験受託で国内シェア1位を占め、臨床試験の受託事業は米国大手臨床CROとの合弁会社を設立しグローバル展開している。経鼻投与製剤の開発にも注力しており、同社初の新薬承認を実施。永田良一会長兼社長は「先の先を読んで、先手を打つこと」を経営の鉄則とし、国内外で大型投資を進めている。中長期経営戦略では2029年3月期の売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%を目指す。

▼永田 良一 会長兼社長

新日本科学  【2395・プライム】   日本初の医薬品開発業務受託機関
(画像=株主手帳)

非臨床試験受託国内トップ
創薬支援プラットフォーム確立

同社は、製薬会社の医薬品開発を支援するCROのパイオニアだ。新薬開発のプロセスのうち、2つの大きな柱である非臨床試験(動物や細胞を用いた試験)と臨床試験(治験)の両分野を網羅的に受託できる国内唯一の企業として知られる。国内の主な製薬会社から試験を受託。また近年は海外顧客が40%近くを占めている。

同社の特徴の1つ目は、自社グループ内において、医薬品開発のために特別に繁殖された実験用の霊長類(Non‐Human Primate:NHP)の繁殖・供給体制を構築していることにある。

「医薬品業界では、研究開発のスピードアップと開発費用の効率化などを目的にCROへの外部委託が活発化しています。また近年、核酸医薬や次世代抗体医薬、遺伝子治療など創薬モダリティ(治療手段)の幅が広がっています。このような新薬の非臨床試験には一般的に使われているラットやマウスを用いてもヒトでの安全性を担保するには適さない場合が多く、NHPを用いる必要があります。こういった特殊な研究開発に対応できるCROは世界的に珍しく、他社が真似できない創薬支援プラットフォームを確立していることが当社の強みです」(永田良一会長兼社長)

2つ目の特徴は、米国大手臨床CROのPPD(2021年12月より医療機器グローバル大手Thermo Fisher Scientific社の傘下)とのジョイントベンチャー、新日本科学PPDが担う臨床事業だ。15年にPPDと合弁会社を設立した。海外の大手製薬企業から受託した国際共同治験の日本部分の実施を主力事業とし、受注が好調に推移している。

23年3月期の売上高は250億9000万円で過去最高を更新、営業利益52億4500万円は4期連続、経常利益91億9400万円は5期連続の過去最高益となった。

24年3月期は売上高が前期比21%増の303億6800万円、営業利益が同4・3%減の50億2000万円の見通し。米国の創薬ベンチャー「Satsuma Pharmaceuticals」(以下サツマ社)の買収に伴う一時的な費用として約16億円が発生することが減益予想の主因となっているが、その影響を除いた定常的利益は増益となるという。

創業は1957年
米PPD社と合弁会社も設立

同社は1957年、先代社長の故・永田次雄氏が鹿児島市に創業した。元々は個人経営の動物病院であり、60年に外資大手製薬会社から抗生剤の有効性実験を受託したことを機に、国内初のCROとして非臨床試験の受託を開始した。

1980年代に入り、CRO業界にとって大きな動きがあった。日本では80年代前半に「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準」(Good Laboratory Practice:GLP)が施行され、試験施設は国の認定を受けることが定められた。

同社では、日本でGLPが施行されるタイミングで81年に現社長の永田氏が非常勤取締役に就任し、施行に向け準備を進めた。その1つが業界初のオンラインコンピュータシステムの導入だ。

スイスの製薬会社ロシュと三井造船のシステム部門と同社が組んでシステムを開発。

CRO業界として世界に先駆けて実験データのオンライン化に成功した。

「すごい先行投資をしました。当時はアメリカの大手CROでもオンライン化ができたところはなく、当社が世界初でした。さらに試験施設の新設や拡充を行い、その結果、厚生省(当時)の査察で最高評価を得ました。これがその後の成長に大きく貢献しました」(同氏)

臨床の分野は、93年に臨床試験受託を開始。グローバル化を見据えて米国メリーランド州ボルチモアに試験施設を建設し、2015年には米国大手臨床CROのPPDと合弁会社、新日本科学PPDを設立した。

「世界各国で治験を同時に行うグローバル治験をやりたいと考えていて、米国の臨床CROを買収しようと思っていましたが、多くのプロジェクトを抱えて実現しなかった。時を経てPPDが合弁を申し込んできました。PPDは世界50カ国で治験をやっている会社。これはチャンスだと思いました」(同氏)

PPDはかつてPPDジャパンという日本法人を設立したが、組織を拡大できずに苦戦していたという。永田氏は日本の文化に合わせたマネジメントを実践。新日本科学PPDの約300人の臨床開発スタッフは今では900人規模に急成長した。業績は好調で、2022年度は約20億円の持分法利益を出している。

経鼻投与基盤技術を開発
米国FDAに承認申請

同社は主力のCRO事業に次ぐ第2の収益エンジンとして、TR(トランスレーショナルリサーチ)事業に注力している。

TR事業とは、医薬品開発の上流域となる創薬基盤技術を開発する事業。1997年に開始し、薬剤を鼻から取り込む「経鼻投与」の基盤技術を開発。この技術を用いた経鼻偏頭痛薬の開発を目的に、2016年、米国にサツマ社を設立した。

サツマ社は19年、ナスダック市場に上場。外部資金を活用して経鼻投与薬の臨床開発を行い、今年3月に米国FDA(※)に承認申請した。また4月に同社はサツマ社と買収契約を締結し、6月に完全子会社化した。

「サツマ社は当社の経鼻投与基盤技術のライセンス先であり、経鼻偏頭痛薬の臨床試験を行って良好なデータを得ていました。今年に入り、この薬に精通している当社が買収すれば承認申請手続きもスムーズにでき、関係者にとっても良いのではないかとの案がサツマ社から提示されました。来年1月17日がFDAによる審査終了目標日とされています。承認され販売パートナーが決定すれば、上市後はロイヤリティ収入が得られます。米国は偏頭痛患者が約4000万人いる大きな市場であり、新薬に基づく市場の5%を狙います。この買収は将来を見据えた経営判断であり、中長期的観点からは当社の企業価値向上に貢献してくれると考えています」(同氏)

なお株主還元については、19年3月期に復配を実施して以来、毎年増配を継続。24年3月期は前期と同じ1株当たり50円を予想している。

「連結配当性向30~40%を基本方針とすることを取締役会で決議しています。今期の配当についても、サツマ社買収に伴う費用増を除けば堅調な業績を予想しており、年間50円配当の継続を予定しています」(同氏)

※FDA:アメリカ食品医薬品局の略称

2023年3月期 連結業績

売上高250億9,000万円41.4%増
営業利益52億4,500万円25.0%増
経常利益91億9,400万円29.9%増
当期純利益60億6,000万円15.0%減

2024年3月期 連結業績予想

売上高303億6,800万円21.0%増
営業利益50億2,000万円 4.3%減
経常利益71億8,000万円21.9%減
当期純利益47億8,000万円21.2%減

※株主手帳23年11月号発売日時点

永田 良一 会長兼社長
Profile◉永田 良一 会長兼社長(ながた・りょういち)
1958年8月11日生まれ、鹿児島県出身。聖マリアンナ医科大学(医師)、鹿児島大学大学院(医学博士)、高野山大学大学院(密教学修士)を卒業。81年新日本科学取締役(非常勤)に就任。91年代表取締役社長に就任。2014年代表取締役会長兼社長CEOに就任。23年代表取締役会長兼社長 CEO兼CHO(最高健康責任者)兼水産事業掌握就任(現任)